昏睡剣
「結論から言うと、アナタを私の秘書として雇いたいの」
パルはゴミの山を周り、例の臭う玉をトングで投げ入れながら言った。これはキシ虫の体調管理の為に定期的に投与する薬なのだという。
「この子達デリケートだから、すぐお腹壊すんだよ」
とのこと。
コイツらは、ゴミを食べて浄化する益虫なんだとか。
「秘書?護衛じゃないのか?まさかオレに会食のスケジュール管理をして欲しいなんて言わないよな?」
オレは話を戻した。
「察しがいいね。まぁそんな所。私が自分の権限で雇える人材が『秘書』ってだけ」
「なるほどな」
オレは納得した。そして気になっていた内容には話を広げてみる。
「察しもなにも無いだろ。コレが使えるから呼ばれたんだよな。何なんだ?これは?」
オレは、昏睡剣を手に取って聞いてみた。
「あっ、そうだ!調整しなきゃ。ちょっと貸して」
パルは件を受けとると、鞘の上を何度か指でなぞった。
すると鞘の一部が光った。そして文字や絵が浮かび上がる。それが何を意味するかはオレには分からなかったが、遠目には雑貨屋のチラシのように賑やかに見えた。
そのチラシの文字や絵をパルがなぞる度に、目まぐるしく表示が変わる。
「よし!スタナー、『解除』って言って見て」
「・・・解除」
言われるがままにオレは言った。分からなすぎると質問も浮かばない物だ。
「もう一回。今度は大声で」
「解除!」
こんな感じで小声、早口、ゆっくり等色んなパターンで『解除』と言わされた。
「OK!どうぞ!」
パルは昏睡剣を手渡した。
「アナタの声で登録したから『解除』と発声すればロックが外れるよ」
言われるがままに発声するとカチリと音がして、スラリと刀身を抜くことが出来た。
「金属なのか?これ?」
思わずオレは聞いた。錆はもちろん、曇りも一つなく、鏡のように滑らかな刀身だったからだ。実際オレの顔も髭が剃れるほどハッキリと映っていた。
刃先が鋭利なのは見てわかる。しかし鋭利すぎる。こんなに鋭利では欠けやすいのではないか?実戦使用に耐えうるのだろうか?と、様々な疑問が浮かぶ。
「加工法は特殊だけど金属だよ。試しに斬ってみたら?」
そう言ってパルは、ゴミの山からはみ出していた竹の柱を一本引き抜き、地面に突き立てた。
「そうそう。衝撃波は発動しないように設定を変えておいたからね。アンタみたいに簡単に出されちゃうと危なくて普段使い出来ないから、とりあえず食人鬼並みのパワーで振った衝撃が無いと発動しないようにしておいた」
一瞬オレが気にしたことを察してパルが言った。
「それは、それで勿体なくないか?」
「そうなんだけど、まだ適正値が分からないからさ。後でまた調整するよ」
なんにせよ、気にせず振って良いとのこと。
目の前の竹は直径15cm程度。かなり太い。が、それよりも問題は、子供の腕力で土の地面にグリグリと刺し立てただけなので固定は甘い。よほど的確にやらなければ斬れずにただ倒れるだけだろう。もう少し、しっかりと埋め直そうかとも思ったが、これもテストなのではないかと気づき、オレはそのまま試すことにした。
パルからは伝統芸能の剣術家ではなく、普段の警備役を期待されているので、あまりもったいぶることも出来ない。
オレは剣を両手持ちして竹に歩み寄り、振りかぶり、袈裟斬りに斬り下した。
その行動全ての間で刃筋を確認する。そして集中していることを気取られないように、極力自然に淀みない動作を意識した。
しかし、剣は空を切る。
まさかの空振り?!
そんなはずは?!
どうやって、この後を誤魔化そうか?素振りのふりをするか・・・
そんなことを目まぐるしく考えていると、目の前の竹の上部がずり落ちる。
「すげぇ」
オレは思わず刀身を確認した。
竹は斬っていたのだ、それも空振りと勘違いするほど何の手ごたえも無く。
恐ろしいほどの切れ味だ。
しかも、刃こぼれ一つ無い。
刀身には背後で満足げに見ているパルの顔が映っていた。




