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発動条件

 その声にオレは辺りを見回す。しかし、誰もいない。小人属でも隠れているのかと、視線を細部に巡らせた頃、再び声がした。


「またアンタか。門番を壊した人だろ」

 その言葉にギクリとし、思わずオレは答えてしまった。

「アレは正当防衛だ!コイツだってそうだ。それにコイツは殺していない!」

 相手は子供の声のようだが、予想外の追求に弁明がましく答えてしまう。

「生きてるのは生命数値(バイタル)見れば分かるよ。それよりも、スタンを発動させたのはアンタ?」

 声の主は淡々と質問を続けた。それがかえって会話に応じさせてしまう。『その部屋から逃げる』という選択肢が完全にオレから消えていたんだ。


「よく分からない。ナイフを投げられたから、これで反撃しただけだ。鞘すら抜いてない。そう!鞘のまま叩いた。殺意が無いのは分かるだろ?」

「抜かないじゃなくて、抜けなかったんだろ?ロックかかってるんだから」

 お見通しの指摘にオレはぐうの音もでない。

「そんなことはどうでもいいんだ。知りたいのは、アンタが鞘のままスタンを発動させたか?ってことだよ」

 よくよく聴けば、少女?の声は威圧でも追求でもなく、興味のそれだった。


「君の言う『スタン』かどうかは分からない。これで叩いたら衝撃音がしてコイツが倒れた。それだけだ」

「もう一回出来る?!」

 少女の声が食い気味に響いた。

「叩けばいいのか?」

「いや、普通に叩くだけじゃだめだ。発動条件がある!」


 そこでオレは説明を聞いた。

 なんのことはない。対象に対して刀身を垂直に当てること、そして、一定以上の衝撃を加えることが発動条件らしい。

 もちろん、叩く対象が曲面の場合の方が多いので作図的な垂直ではない。ここで言う『垂直』とは『反作用が真っすぐ跳ね返る角度』ぐらいに捉えた方が正解だろう。


「簡単じゃないか。剣術の基本だろ」

 とオレが言うと、ここで初めて少女は憮然とした不機嫌な口調で言った。

「誤差が厳しいんだプラスマイナス計1度しか許されない。つまり89.5度から90.5度の間ってこと。もともと機械兵が使う為の武器なので、安全策として人間が使うように出来ていないんだって。ましてや鞘を付けたまま振ると軌道が安定しないし、反作用の角度も鞘越しではブレるから、本来なら機械兵でも発動しないはずなんだ」


 少女の話を聞きつつ、興味が沸いたので目の前のテーブルを叩いてみた。

 一度目は意識しすぎて失敗に終わったが、二度目はスパンッ!と音を立てる。

 そのまま何回か繰り返してみると、すぐにコツが掴めてきた。

 要は鞘と刀身の両方の運動をイメージすればいい。普段、鞘打ちをする際に無意識にやっていることだから、この剣の為に新しいことをする必要はない。


「面白いな」

 オレは両手持ちにして上段から振りかぶり、思いっきり振り下ろしてみた。

 そして、驚いて尻もちをついた。 

 雷鳴のような轟音と共に机が割れたんだ。

「うへっ!」

 と変な声を上げてバンダナ男も蘇生する。


「・・・・!!!」

 少女が何か言っているが、しばらく残響でよく聞こえなかった。

 怒られるかと思ったが、そうでは無かった。

「アンタ凄いな!会って話がしたい。こっちに来てくれ」

 と興奮的に少女は言う。


「マーグ!マーグ!起きてるんだろ」

「はい!」

 少女の声がけにバンダナ男は直立して答えた。

「この男に奥の部屋の鍵を貸してやって!」

 

 マーグと呼ばれたバンダナ男は、割れた机の引き出しを漁って一本のカギを取り出し、オレに渡しながら言った。

「たいへんだなアンタ。巫女に気に入られちまったようだ」


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