鞘★
「これなんかどうだ。金貨一枚でいい」
バンダナ男は1本の長剣を差し出した。
「長剣か。。もっと短いのは無いか?」
オレは聞いた。重くて長い剣は、身動きに邪魔なのであまり好きじゃないんだ。
「それが一番短くて軽い。持って見ろ」
バンダナ男が意味ありげに笑う。
オレはそれを受け取って確かめた。黒い鞘は、ぱっと見金属のように見えたのだが、近くで見ると材質が良く分からない。ただ、軽いことだけは確かだ。
刀身は70cmを少し超えたぐらい。まぁギリギリ許容範囲だ。柄は比較的長く、両手持ちも考慮に入れているようだ。ただ、片手でも十分振り回せる軽さではある。
オレは、鞘から抜いてみようとした。しかし、抜けない。何か安全鍵でもかかっているのだろうか?
「これ、どうやって抜く・・・!?おい!」
聞こうと思ったとこで、ナイフが飛んできた。
オレは咄嗟に持ってる剣で防いだ。鞘に弾かれたナイフが床に転がる。
「何のつもりだ!」
「黙れスパイめ!」
バンダナ男は一旦飛びのいて距離を取ると、奇術師のように、どこからともなくナイフを出しては投げてくる。
「勘弁してくれ、金貨を持ってるだけでスパイか?」
疑われている理由は分からないが、いや、疑う理由はありすぎるほどあるのだが、オレは弁明を試みる。
「弁解は裁判所でしろ!」
バンダナ男は聞く耳を持たない。
ナイフを投げながら裁判所も無いもんだ。どう考えても殺す気で投げている。
「よし!裁判で決着をつけよう!お前こそ殺人未遂だ!」
オレは鞘のまま剣を構え、投げナイフを迎え撃った。そしてことごとく躱してみせる。
結果として全部躱せたのは半分は運だが、致命傷は負わない自信はあった。
それまで出くわした大鷲や巨大蟻、鉄人形に比べたら人間の動きは読みやすい。そして王国騎士ほどバンダナ男の動きは洗練されていない。落ち着いて、予備動作さえ見切れば急所を避けること自体は難しくなかったんだ。
おそらく10は超える投げナイフを躱したところで、バンダナ男は両手を上げた。
「降参だ。分かった。アンタの疑いは晴れた」
急な態度変化にオレは一瞬戸惑ってしまった。
「これで何の疑いが晴れるというんだ?」
実際、オレはただナイフを躱しただけだ。
「よけ方を見れば分かる。アンタは騎士じゃない」
随分調子のいいことを言う。オレは鞘のままの剣をヤツに突き出しながらジリジリと近寄った。まだナイフを隠し持っているとも限らない。武装解除をしなければ。
「疑り深いな。その慎重さも王国騎士にはない特徴だ」
「だまれ!両手を床に着け!」
「分ったよ。言われたとおりにするさ」
バンダナ男がそう言って上げた手を下そうとしたとき、その手に何かが握られているのが見えた。
小斧だ。
どこに隠していた?!いや、考えている暇はない。
オレは無我夢中で鞘のまま剣をヤツの腕に叩きつけた。致命傷狙いではない。体制を崩して斧の斬撃力を削ぐのが目的だ。だから、急所ではなく避けにくい場所を狙ったのだ。
しかし、予想外のことが起きる。
鞘が当たった瞬間、バシュ!と破裂音がし、凄まじい手ごたえがあった。
そして、そのままバンダナ男は倒れこみ、ピクリとも動かない。
警戒しながら近づき、様子を見ると呼吸はしている。死んではいないようだ。
死体なら処理をしなければいけないが、この場合はどうしたもんか。部屋を出てなるべく離れた方がいいだろうか・・・
そんなことを考えていると、どこからともなく声が聞こえてきた。
「やっと見つけた!そんな所にあったんだ!」と。




