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ロールプレイ

 オレは中に誰もいないと踏んで、その扉をノックした。『ノックしたが反応が無かったので入った』という言い訳を作る為だ。こういう所での単独調査は、いつどこで誰に合うか分からない。その時に言い訳が出来る行動をするのが鉄則だ。

 そして、言い訳に信ぴょう性を増す為にも、出来ることは実際にも行動をした方が良い。


 その程度の認識だったが、予想外に中から声がした。

「どうぞ」と。

 低く、皺枯れた声だったが、不思議とよく通る声だ。

 無視するわけにもいかず、オレは扉を開けた。


 およそ3m四方の小部屋だった。床や壁は木の板が貼られており、この部屋だけを見たら地下だとは分からないだろう。

 部屋の周りは大小様々な木箱が積まれており、棚には雑多な書籍、書類、何に使うか分からない道具類が置かれていた。

 そして部屋の片隅には数本の剣と盾が立てかけられている。

 

 部屋の中央には机があり、男はそこに座っていた。机の上にはやはり本や書類が雑多に積まれており、男は何か書き仕事をしていたようだ。

 その男は、瘦せていて皺が多い顔だった。襟のついたシャツを着ており、はだけた胸には肋骨が浮いていた。まくった袖から覗く腕も枯れ木のように細い。見るからに小柄なのだが、目深に巻いたバンダナとボサボサの髪の毛と髭が顔を覆っており、種族はよく分からなかった。


「何の用だ?」

 オレの姿を見ると、バンダナの奥からギョロリと光る目に怪訝の色が伺えた。

「とつぜん悪いな。ここに来たばっかりなもんでさ」

 オレはなるべく軽く話した。

「来たばかりのヤツが、なんでこんな所まで来る?途中に街があっただろう」

「ああ、あったな。。。分かっちゃいるんだが、どうも人混みが苦手でね。反射的に外れた所を歩いてしまうんだ」

 オレはバツが悪そうに頭を掻いてみせた。そうしながら、徐々にこの場での演じる(ロールプレイ)キャラクターを作っていくんだ。


「前科者か?」

 バンダナの男は机に乗せていた利き手を下ろした。おそらく隠した武器を手にする為だろう。

「いや、定職にゃ付いたことがないのは確かだが、コロしも盗みもやったことはねぇよ。傷害もアレは正当防衛だったんだ。クソ裁判官がオレの弁明は聞きもしなかった」

 オレは両手の平を見せて、心外だという素振りをした。


「正当防衛な。。。まぁ人をぶん殴ったヤツは、だいたいそう言うさ。まぁいい。何の用だ?ここを何だと思っている?表の看板は読まなかったか?」

「読んださ。『保管庫』だろ?」

 オレはわざと間違えた。上手い言い訳が思いつかなかったので、少し考えの足りない人間を演じることにしたんだ。辻褄が合わない所は『オレがバカだから』で済ますためにね。


「保管庫だと?違うな管理室だ」

 男は呆れた顔をした。

「違ったか?・・・すまねぇ。文字はまだ勉強中なんだ。でも、これからちゃんと覚えてみせる!マジメに働きたいんだ」

 オレは動揺した素振りを見せる。

「で、その保管庫に何の要だ?仕事なら無いぞ。働きたきゃ一番街に行け」

 バンダナ男の手は、また机の上に上がっていた。


「そうか、そりゃ残念だ。だがもう一つ相談はあってな。道具を分けてもらえないかと思ってさ」

「道具?」

「ああ、ここに来る道中で、コイツの中身が折れてしまったんだ」

 オレは腰ベルトの小剣を見せた。そして、警戒されないよう「抜いていいか?」と一言断って折れた刀身を見せた。


「コイツは酷いな。岩蜥蜴(ロックリザード)とでも戦ったのか?」

「いや、普通の岩だ。ここに来る途中大鷲に目を付けられてな。追っ払う為に振り回してたら、岩を叩いてしまったんだ」

「そりゃ災難だったな。しかし、剣なら無くは無いが・・・」

 と、バンダナ男が背後に立てかけられた剣を示す。しかし、何か言いたげだ。それを察してオレは言った。


「金なら払うよ」

 そして、なけなしの金貨2枚を机に置いた。

 すると、バンダナ男の目の色が変わった。

「ほう、王国金貨か」


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