進退
川で泥を落とす際に、騎士達が作ったであろう簡素な丸太橋を見つけたので、オレはそれで向こう岸に渡った。
しかし渡ってどうする?
正直オレは砦の残骸を見た段階で、この依頼に対する気力をかなり失っていた。
件の魔法使いを、国が戦争レベルの鎮圧を施す程の反社会勢力のリーダーだとすると、個人が逮捕なんて出来るわけがない。
騎士ですら、地下要塞に辿り着く手前で全滅しているのだ。
財宝ってのも意味が違う気がして来た。『資産価値がある物がある』ぐらいの意味では?ってな。
こんな地域の不動産や機材なんかを得たとしても、換金出来るのは国ぐらいだろう。個人で有効活用できる資産ではない可能性が高い。
これらの依頼を真面目にこなす費用対効果が極めて低いのだ。
されど費用!
それが頭を悩ませる。
真面目に依頼をこなす旨味も無いが、引くのも考えものだ。なんせ、この時点で断然赤字なのだから!
国からは手付金も無く、貰ったのは身分証と地図と食料だけ。それに対し、探索や野営の道具、塩などの栄養補助食品等、準備に出費もかかっている。
そして、大鷲やら騎士やらとの交戦や、泥で装備品もだいぶ傷んでいるのもマイナスだ。
だから国からなんとか報酬は引き出したいところ。
そうなると道は一つ。
『有力な情報はそれに応じた報酬』という依頼条項しかないだろう。
オレはどんな情報が売れるかを考えた。
正直、今の所売れるような情報は無い。例の廃墟も王族が絡んでいるのなら国は承知しているはず。金にはならない。
騎士が砦を建設していた所を見ても、ここまでの道筋は金になる情報ではない。
しかし騎士は全滅してオレは生きている。そこが一番重要なポイントだ。
自然や動物、魔物が相手になると集団が必ずしも有利というワケではない。山や森林のような複雑な地形では土地勘のない集団は脆い。
ましてや、本拠地が地下要塞となると、意図的に集団の進軍を阻むような細い道や、そこに仕掛けた罠などが考えられる。
ならば地下要塞の地図が一番高く売れるのではないか?
問題は、その地図が作れるかどうかだが・・・今なら出来るかもしれない。そうオレは考えた。
理由は2つ。
一つはまだ開戦はしていないこと。例の騎士達の作業はオレから見れば砦建設だが、面と向かっての交戦は行われてはいない。ヤツらが勝手に自滅しただけだ。少なくとも一般国民には知らされていないので、オレの身なりなら『知らなかった』としらばっくれることも出来る。
幸いオレの装備は騎士達と違って、一見は最低限の護身用の物しか身に着けていない。『登山中迷った植物学者』とかの設定にしておけば、見つかっても追い返されるぐらいで済むだろう。場所によっては非武装がかえって防御力が高い場合もあるのだ。
一つは住民。
そう。兵士ではなく住民だ。オレは地下要塞にいる者の多くは民間人なのではないかと考えていた。あの廃墟と地下要塞が無関係とはどうしても思えない。あの街が元々隠れ里だったことや、元第三王子や騎士がからんでいることを見ても、あそこの住民の多くが、王国の手を逃れて地下要塞に籠ったと考えるのが自然ではないか?
そう考えると、本職の兵士はそう多くないはず。そして、あの街の規模を考えると、かなりの人数の民間人がいるのではないか?それならば紛れ込むことも出来るかもしれないと考えた。
今思えば、かなり希望的な考えだな。
ただ、なんにせよ、それ以上は考えても埒が明かないから、オレは先に進むことにした。