上流と下流
夜通し歩いて行くと、荒涼としていた地に緑が増えてきた。河川が近いのだろう。
目的の山は目視出来ているので、オレは改めて地図で大体の現在地に辺りをつけた。そして、廃墟や通って来た道など、地図に無かった部分を書き加えていく。
草原が林になる頃、もう地面からは道は判別出来なくなっていた。ただ、件の巨大生物は、やはり木々を薙ぎ倒して進んだと思われ、獣道のようになっている。その先に山があるのは相変わらずなので、オレは道なりに進んだ。
そして、幅10m程度の川を目前にしてオレは少し悩んだ。
そこまで深くはなさそうだが、流れはかなり速い。歩いて渡れるものか?そして、もし渡れたとしても水中に危険な生物が潜んでいるかもしれない。
下流の方を見ると、かなり遠くに橋のようなものが見えた。
安全に渡れるなら、あれを利用するのが一番安全だろう・・・というと、変な表現だよな。
要は、橋は安全でも、その橋を造った者が安全とは限らないと言うことさ。当たり前だが、橋は誰かが作らなければ存在しない。そして、橋を造るのはそれが必要な者だ。
こんな人里離れた場所に橋が必要な者は、地下砦の関係者だろう。ならば警備がいないとは限らない。関所のゴブリンのようにマヌケな連中ならいいのだが、そこからは何とも判断できなかった。
上流を見ると明らかに不穏な何かがある。
まず、上流に何かを運んだような跡がある。かなりの人数の足跡と、引きずったような跡、そして車輪の轍のような跡。そして、その先の上空に、昨日出くわした大鷲が群れを成して飛んでいる。
林の木々でそこに何があるのかまでは見えないが、普段群れないアイツらがこんなにいるということは、かなりのエサがあるのだろう。
ひょっとしたら、昨日出くわした一匹は、この群れからはぐれたのかもしれない。
そして、そのエサとは・・・あまり想像したくは無いが・・・
オレは、昨夜の騎士が『自分の隊は壊滅した』と言っていたのを思い出した。
そして、その原因が巨大蟻に襲われたと・・・
総合すると上流には、明らかに何かがある。貴重な情報が得られる可能性は高い。
しかし、その情報を得るには大鷲の群れと、巨大蟻に出くわすリスクと引き換えになる。
オレは一旦落ち着く為に、目の前の川の水を手で掬って匂いを嗅いだ。冷たくて澄んでおり、清涼な水だった。大丈夫そうと判断してオレはその水を口に含んだ。
水分らしい水分を摂るのは久しぶりだったので、全身に染みわたるほど旨かった。
そして、一つ思いついたことを実行することにしたんだ。