異教徒の街
「あの街は元々はジャウード教徒達の隠れ里だったようです」
騎士が言った。
ジャウード教はご存知だろうか?オレも、あまり詳しくはないが、かなり独特な教義を持っているという。
どんな人間でも信仰を持って神にすがれば救済されるというものだ。そう、信仰さえあれば前科者でも救われるし、行動や食事、婚姻なんかの制約も一切ないのが特徴だな。
言ってしまえばヤツらは自由なんだ。だから為政者からしても扱いにくいし、厳格な教義の神の信者からしたら軽蔑の対象になる。本心は自由なヤツが妬ましいんだろうな。
それらが相まって、当時はかなり迫害の対象になっていた。
「隠れ里として栄えたが、栄え過ぎてしまった・・・」
オレは言ってから言葉が不適切かと思ったが、騎士は気にしてないようだった。
「ええ。外遊の際に第三王子が発見し、自分の領地にしてしまいました」
「してしまった?」
オレはその言葉に引っ掛かった。失脚したとはいえ、かつての王族の行動に対して騎士が使う言葉とは思えなかったからだ。
「彼はそのことを、王国に報告していなかったんです」
騎士はオレの懸念に補足するように言った。
だから地図に乗ってない、そして、あの重税は全て個人の懐に入れていたということか。
第三王子は重大な背任行為により、身分を解かれ追放になったと聞く。これが原因なのかもしれない。
「話は以上です」
騎士は言った。
否応の無い、一方的な会話の打ち切り宣言のようだった。
オレは周りの気温が数度下がったように感じた。
「それでは食料を分けていただきます」
騎士は当然のように言いはなつと、淀み無い動作で腰の剣を抜いて切りかかって来た。
オレはそれを左の前腕で受ける。
鈍い音と共に重い衝撃が加わるが、予測出来ていたので、なんとか耐えることが出来た。
なぜ予測出来たかって?
ヤツの話の内容さ。あんな王国の内部事情を騎士がゴロツキに話すワケがない。
話すとしたら、理由は一つ。どうせ殺す相手を油断させる為だ。
騎士も驚いた顔してたよ。攻撃が受けられたこと、そして腕が切り落とされないことに。
「硬化の魔法だよ」
オレはニヤリとして言った。これはウソだ。実はオレのレザーグローブは、中に鉄板を仕込んでいる。盾の替わりだよ。
盾を持つより動きやすいし、こういうハッタリにも使えて便利なんだ。
その時も状況が飲み込めず混乱している騎士の足をかけ、胸に掌打を入れて転ばせた。
そして馬乗りになって小剣を逆手に持ち、目の辺りを何度も突く。
鎧を着ているヤツに対する狙いは、大鷲と一緒さ。
十分出血させた所で、離脱して様子を見る。無理にもみ合わなくても失血が勝手に命を削ってくれるからな。これも野生動物がよく使う戦法だ。
騎士が立ち上がることが出来ないのを見届け、オレは荷物をまとめてその場を後にした。
こんなヤツらが、他にいないとも限らないからな。