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序章

 手記を残そうと思う。

 しがないゴロツキの手記だが、少しでも若い奴らに参考にして貰いたくて。

 ・・・というのは嘘だ。酒場で昔話をしていたら、とある物好きから本にしてみないかと誘われたからだ。こんなもので金貨をくれるというなら断る理由も無い。

 だから、アンタにとって役に立つ話かどうかは知らない。ここまで書いて読むのを止めない物好きなら、読んでみてくれ。


 これは、オレがある地下要塞に隠された財宝に挑んだ話だ。


 依頼は国から出ていた。

 今でこそ狩猟者(ハンター)ギルドなんてものが出来たようだが、当時は国が様々な懸賞金を出していたんだ。懸賞金と言えば聞こえがいいが、要は面倒で危険で怪しくて、費用対効果の薄い仕事をゴロツキにやらせてしまおうという経費削減策なんだよな。

 世の中、軍隊や警察や、大学の調査隊を動かす程では無いが、放ってもおけない案件ってのは案外多い物でさ、そういう時に、はした金で簡単に動くオレ達は、国に取って都合が良かったんだろう。


 だから懸賞金がかかる宝探しというのは、たいてい胡散臭い話だ。

 その地下要塞の財宝というのも相当怪しかった。


 ある時、辺境の山の麓に、いつの間にか巨大な地下要塞が出来ていたという噂が流れた。

 それを建造したのは一人の魔法使いだと言う。

 一人で、そんなバカデカイものを作るぐらいだから、禁忌の魔法に手を染めている可能性があり、また、辺境とはいえ国有地に勝手にそんなものを作ったとのことで、事実なら反逆罪でもあるという。

 

 しかし、まだ噂レベルで、確固たる情報が無い。

 それに、その辺境は人がいないだけでなく、怪物やガラの悪い亜人が多い地域で、好んで行くやつもいない。だからまず、オレ達を潜入させてみようということになったワケだ。


 魔法使いの身柄確保で金貨30枚。ただし生きていなければ半額の15枚に減額される。

 魔法使いがため込んでいるという財宝は国と折半。この財宝は金貨で800枚相当あると言う。だからその通りならオレの取り分は金貨で400枚だ。

 今とは金貨の価値も変わっているが、当時なら数年は遊んで暮らせる額だな。

 そして、地下要塞や魔法使いについての有力な情報は、その価値に応じた褒章が出るとのことだ。


 ・・・と、書いていて自分が情けなくなるな。

 この『財宝』って、取ってつけたようだよな。たぶん、オレ達を動かすエサに国が勝手に考えたものだったんだろう。

 当時まだ20代で、学も無かったオレは、そんな胡散臭い話を信じ、ホイホイと命を懸けて危険な地下要塞に挑んだわけだ。


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