死んだなら死んだで
またまた長らくお待たせてしまいました。仕事柄、夏期講習もあり、そこまでの何やらで時間がなく。
階段から落ちて足首も捻挫しております。更新しない言い訳です、すみません。
さぁ、どうかまた、気軽に見てやってください。シルバ・アージェントが囚われ、凌辱されているとわかった前回。ジュン・キャンデーラは、部屋にいて……!
結局のところ、俺が、ヨシモルト興業の外務次官、マルク・レイヴァーロゥマンとかいうクズ野郎に会うことは叶わなかった。俺が泣き叫び、懇願し、罵声を浴びせ、土下座したにもかかわらず、決してランセが部屋から出してはくれなかったからだ。
そしてその後、ヨシモルトの脅迫まがいの交渉に応じるか否かで、奴隷解放ギルドは真っ二つに割れた。
ギルド即刻解散ならびに保護している全奴隷の身柄をヨシモルトへ送る代わりに、ギルドメンバーたちの同胞、シルバ・アージェントを救い、ヨシモルトの標的から外してもらうという選択肢。あるいは、シルバを見殺しにして、ヨシモルト興業と全面戦争という選択肢の二択。
最終決定権をもつギルドマスター、アブラブタ・リンカーンが本拠へ戻ってくるのが1カ月先のことらしく、ひとまずギルドメンバーたちに出来ることと言ったら、どちらの選択が最善なのか、あれこれ議論するほかは、シルバがまだ生きていることを願うのみだった。
そしてマルク来訪から1日が過ぎた夕刻のこと。
「ジュン。怒らないで聞いてくれるか」
ロッソ、ブランと共に、青髪をボリボリかきむしりながら、ランセが俺の部屋に入ってきた。湯気立つ芋のスープとパンが沢山はいったバケットが載ったお盆を手に持ったロッソが、ジュンちゃん、と渡してきた。
「食うてくれや。ちょっとでもええ。ジュンちゃん食うまで、わいも食わんから」
涙が出そうになる。心配をかけて申し訳ないという気持ちで、ごめん、と頭を下げる。
「ブランも、ジュンが心配。触るか?」
「いや!……それはやめてほしい」
俺はかたくなに拒んだ。シルバを想い、苦しいこの胸の痛みを、簡単に癒していい訳がない。彼女は、もっと苦しんでいるのに。ヨシモルトのクズどもに、きっと今も、犯され、嬲られ、人間の尊厳を踏み躙られ。そう思うと、また苦しくなって、嗚咽した。心配して駆け寄ろうとする三人を手で制す。
「かはっ、はぁ、はぁ、はぁ、大丈夫だから。ごめんブラン」
「ジュン。ならば、ブランに触ってほしい時、いつでも言ってくれ」
「うん。それでランセ。何か言いに来たんだよね?」
心配そうな、気まずそうなランセは、顎鬚を撫でた。
「お前さんが怒らないならな」
昨日の俺は、随分ランセに暴言を吐いた。ランセが大人なのに甘えて、あまりにひどいことを言ったのを覚えている。
「昨日は、……本当にごめん。怒らないから、聞かせてよ。何?」
椅子に腰かけたランセは、一度深いため息をつき、更に一呼吸置いて話し始めた。
「俺はシルバがすでに殺されていると思う」
「「「!?」」」
俺とロッソ、ブランの三人は耳を疑った。目をかっぴらいて、俺はランセ!と叫んだ。
「ジュン!感情に任せてブチギレるなら話は終わりだ」
「……!!」
俺はランセを睨んだ。ランセは真剣な眼差しで俺の双眸をじっと睨み返してきた。
・・・。
・・・・・・。
・・・・・・・・。ゆっくりと呼吸を整えた。
「ごめん。絶対に怒らない」
「ああ。そうしてくれ」
「……なんでそう思うの?」
「お前さんの固有スキル『マッチングアプリ』で検索して、おそらくシルバは出てこなかった。違うか?」
「……どうしてわかるの?」
「お前さんが、連日部屋に籠ってシルバの名前を何度も叫んでいたからな。生きている人間は検索に引っかからない。ジョン王の時もそうだった」
「……」
俺が言葉につまっていると、ロッソが、せやけど!と声を荒げた。
「奴等は殺さないで、シルバを慰み者にしてる言うてたやないか!」
慰み者。その言葉を聞いて、心臓が握り潰されるような痛みが走った。
「ハッタリだとしたら?やつらは商売人だぜ?虚勢は得意中の得意。自分らの都合の良いよう、事を運ぶためなら、噓だってつくさ」
「……嘘だったとして、シルバが死んでたとして、ランセは俺に何を言いたいわけ?」
「ちぃと言葉尻、怒気がこもってんな」
「ランセ。答えてよ」
「はぁ、あえて言うぞ。さっさとヨミゥーリに行かねぇか?」
「!?」
ランセのストレートな一言に、俺の心は再び憤激しそうになった。
怒っちゃだめだ。怒っちゃだめだ。怒っちゃ。自分でも考えていたことだ。シルバは本当はすでに死んでいるんじゃないかって。だからあんな夢を見たんじゃないかって。シルバは辱めに遭うくらいなら潔く死を選ぶんじゃないかって。
けど。
「あまりにひどいよ、ランセ」
「ああ、俺もそう思う。だが、死んだなら死んだで、さっさと次に進まなきゃいけねえと思ってな。ヨミゥーリには、奴隷として売り飛ばされたキャンデーラの人たちがいr、」
「次に進むってなんだよ!!!!!!シルバのことを忘れろって言うのかよ!!!!」
ベッドから飛び上がり、ランセの胸倉につかみかかる。引きはがそうとするロッソ。
「落ち着くんやジュンちゃん!」
「ランセ!!!!お前!シルバさんを!シルバさんを忘れろっれ!そんら!お前!ひどいよ!ランセ!なんれ、そんら、くそ、なんれそんらこと言うんだよおおおおお!!!!!」
涙が止まらない。嗚咽を洩らしながら、必死にランセにしがみつく。悔しさと哀しさと怒りとやるせなさで俺はただただ泣くしかなかった。
「……ったく。俺はいつだってお前さんの味方なんだけど、まだ伝わんねえかい?」
「……?」
「冷静になってくれりゃあ話は続けるが、この調子なら、俺は二度と、この話はしねえ」
さっきまでと違い、今のランセは、とても寂しそうな顔をしていた。こんな顔を見たのは初めてだ。すぅーっと、風船がしぼむみたいに、怒りの気持ちは抜けていく。
「…………本当にごめん」
「…………はぁ。気持ちはわかる」
「ごめん」
「……謝るな。・・・・・・・でな、いいか?ん?改めてな、俺が言いたいのは、ヨミゥーリに向かう途上、お前の『マッチングアプリ』で、S-EXランクのスキル持ちを探す旅に出ないかって話だ」
「……え?」
「「S-EXランク?」」
ロッソとブランが同時に首をかしげた。
「なんやそれ?」
「眉唾の話だが、この世界には、S-EXランクという、Sランクの更に上のスキルが存在するらしい」
「ブラン、初耳」
俺は、え?と首をブランの方へ向けた。
「知らないの?」
「ああ、ブラン、聞いたことない」
「わいもや。Sクラスのスキル持ち自体、こん世界、数十億人の中で100人そこらしかいないんやで?その更に上なんて、あるわけないやん!真面目な話か思ったら、なんやランセ、お前が自暴自棄になってどないすんねん!」
・・・・・・そうなの?
たしかに俺も鑑定士にS-EXランクと言われたときは、知らなくて若干落ち込んだりしたぐらいだけど、S-EXランクのスキルってそんな非現実的な代物だったの?
「うーん、そのS-EXランクのスキルの人を探す目的は何?」
「昔話じゃよぉ、S-EXランクのスキルの中には、≪能力を創りかえるスキル≫や、≪時間を操るスキル≫、そして、≪人を生き返らせるスキル≫もあるんだそうだ」
「え!?」
思わず声が漏れ出た。それじゃあもし!もしもそんなスキルが実在するなら!!!シルバさんも!
「ったく、やっと笑ったな、ジュン・キャンデーラ。お前さんの固有スキル『マッチングアプリ』で探そうぜ、お前さんの理想の人材をよ」
微かな希望が見えだしたジュン・キャンデーラ一行。
最愛の人がすでに死んでいると仮定して、シルバを生き返らせるスキル持ちを探す旅にいざ行かん!
次回(いつかは不明ですが)、乞うご期待!!!




