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Rêve cruel

二日連続で書けました!嬉しい感想のおかげです。大感謝!


シルバ・アージェントの死、それを聞いたジュンは。

「ギンジロウ・ヒドラルゴ!」


――申し訳ありません。ギンジロウ・ヒドラルゴは見つかりませんでした。


「シルバ・アージェント!」


――申し訳ありません。シルバ・アージェントは見つかりませんでした。


「罪人殺しの剣鬼!」



――申し訳ありません。罪人殺しの剣鬼は見つかりませんでし、


「黙れよ!!!!!!!もう一回だ!!!!!!!!」


ウライアス出立の朝、旅立つ直前にシルバの訃報を聞いた俺たちは、予定を変更した。到底ヨミゥーリに迎える精神状態でなかった俺は、ランセたち仲間を追い出し、三日三晩、部屋に籠って、何十時間も何百回何千回と、シルバの名前を検索していた。壊れた玩具の如く、あの人の名前を何度も何度も何度も何度も叫び続けた。俺の喉はすでに血の味でいっぱいになっていたが、構わず叫んだ。声が涸れ、咳き込みながらも、俺は盲目的にこの決して救いのない作業を繰り返した。


「見つけろよウィズ!!!!!!シルバだよ!!!シルバシルバシルバシルバ!!!!!あの人だ!!!!!忘れちまったのかよ!銀髪碧眼の、シルバ・アージェント!!!罪人殺しの剣鬼!ギンジロウ・ヒドラルゴ!!探せよウィズ!!!!!!!」


――ジュンさん。申し訳ございません。シルバ・アージェント、罪人殺しの剣鬼、ギンジロウ・ヒドラルゴは見つかりませんでした。


「クソがああああああああああああ!!!!!!!!!!!!……はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、信じないぞ俺は、俺は、」


――ジュンさん。


「……なんだよ」


――固有スキル『マッチングアプリ』では、人智を超える神格的存在、あるいは、知能のない動物や魔物に関しては検索の対象外になります。


「……知ってるよ」


――あとは、幽霊、故人も検索は出来ません。なぜならば、死人とマッチングすることは、永遠にありえないからです。


「!!!!!!!!!!!」


俺は衝動的にピンク色のハート型フォルムのスライムもどきを利き腕で鷲掴みにし、壁になげつけるつもりで、高々と腕を振り上げた。


――ジュンさん。もうお止めください。


「……」


俺はウィズを掴む手を震わせながら、そっとベッドへ下ろした。


――ジュンさん。


俺は、ウィズの声を無視し、倒れるようにベッドへ身を投げた。顔を枕へうずめながら、視認することなく、相棒であるハート型スライムに向けて話しかけた。


「……寝る。起きたら、また再開しよう」


――おやすみなさいませ。



******************************


どれくらい眠ったのだろうか。目が覚めた俺は驚きのあまり、掛布団を払いのけた。あの絶望的な疲労という疲労はどこかに消えてしまったようで、失意のどん底にいたあの感情は最初からなかったかのように、晴れやかな気持ち一色だった。もしかしたら、俺が寝ている間に、ブランのやつが『聖人の左手』を使ったのかもしれない。外的にも心的にも痛みという痛みを引き受ける、この世で最も優しい能力を宿したドワーフの友を思い浮かべる。あれ、でもなぜ俺は失意のどん底にいたんだっけ?


コンコンッ。


ノックの音に俺は思わず目を見開く。ブランのノックはもっと低い音。ロッソは乱暴に何度も叩くし、ランセはあれでノックせずに入ってくるタイプ。ギルドの人たちが俺の部屋に直接たずねてきたことはない。もしかして。


「入るぞ」


――え?


心臓が止まるような心地がした。無意識のうちに、両目から涙がにじみ出てくる。俺はその声を知っていた。


真に心が清廉潔白な人間でなければ奏でることの出来ないであろう、澄んだ清水のような響きを宿した、耳心地の良いあの声。忘れるわけがない。


「シルバさん?」

「そうだが。どうした?泣いているのか?」


さも当たり前のごとく、愛しい人は戻ってきた。スラっとした美脚でつかつかと部屋に入ってくる。そして、別れたあの日から何一つ変わらない銀髪のロングヘアーをなびかせ、この異世界のどんな宝石よりも無垢な輝きを持った碧い瞳で俺のことをじっと見つめてきた。


「シルバさ、シルバさん、シルバさんなの?本当に?」

「ん?……決まっているだろう?どうしたジュン、何があった?」


俺の様子を不審がるシルバさんに、俺は、早口でこないだの凶報について伝えた。

すると、シルバさんはカラカラと弾んだ声で面白がった。


「ハッハッハッハッハッ!そんなのウソに決まっているだろう!なぜ私が負ける?私の固有スキル『ゼロ秒』は最強だぞ?攻撃しようとした瞬間、すでに攻撃は終わっているのだからなぁ?フフ、どうやれば負けるのか、教えて欲しいもんだ」

「そんな笑うことないじゃないですか!本当に心配したんですよ!!!!俺、本当にシルバさんが死んじゃったらって!」

「フフフ、もしかしてジュン、私のことが好きなのか?」

「え?ちょ、いや、え、その、」


キョドる俺。それに対して爆笑するシルバさん。私は男だぞ?とカラカラ笑っている。その笑顔を見て、俺はふぅーとゆっくり息を吐いた。死んだと思っていた。もう二度と言えないと思っていた。一生後悔するはずだった。それなら、こんな流れでも、構うもんか。


「構うもんか」

「え?」


予想外の俺の言葉に、初めてシルバさんが戸惑いを見せた。俺は真剣な表情で続ける。


「俺はシルバさんが好きです」

「え?ちょ、いや、え、その、」


今度はシルバさんがキョドり出した。


「男同士のホモ的な恋愛も俺はシルバさんなら全然気にしないです」

「何を馬鹿な、性別の壁を越えても、年齢の差だってある。ジュンはまだ12歳の子供で、」

「見た目はそうですけど、中身は29歳のサラリーマンです!」

「サラリー?なんだそれは?」

「俺、死んで転生したんです!元は別の世界にいたんですけど、生まれ変わって、って、そんなのはどうでもいいことです。とにかく、俺はシルバさんが何歳だろうと男だろうと、関係なく、大好きなんです!!!シルバさんは、俺のこと、嫌いですか?」


顔を赤らめるシルバさん。俺も耳が真っ赤になって、鼻息が荒くなっている。しばしの沈黙。シルバさんは男とは思えない艶のあるため息を吐くと、しっかりと俺の目を見つめた。


「私もジュンが好きだ。私を好きと言ってくれるジュンが、大好きだ」

「本当ですか!?」

「ああ、嘘はつかない。いや、といってもお前には、すでに二つも嘘をついていたっけ」

「嘘?」

「うむ。私は本当は女だ」

「……え?」


「フフフ、変な嘘をついてすまない」


女だったんかあああああああああい!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!結局普通に女なんかあああああああああああああい!!!!!!!!!!なにその誰も幸せにならない謎な嘘は!!!!!!!!!良かったけど!!!!!!!女性不信こじらせて、ついに俺男好きのホモになってしまったのかって内心ちょっと焦っていたから一安心なんですけどもぉおおおおおお!!!!!!!!


「え?てことは本名ギンジロウ・ヒドラルゴっていうのも、」

「もちろん嘘だ。奴隷解放ギルドはもとより、私自身とにかく用心深くてな。両親亡き今、私の本当の名前を知る者はこの世に一人もいない」

「そうだったんですか」

「レーヴ・クルエル」

「レーヴ、クルエル?」

「レーヴ・クルエル。覚えておけ。それが、私の名前だ」


心があたたかくて、彼女の笑顔がまぶしくて、俺は嬉し涙が止まらなかった。

ああ。

幸せだなぁ。


******************************


「え?」


それはスイッチをオンオフするかのように一瞬のことだった。部屋の外から聞こえる、ギルドの人々の悲鳴、どよめきが、俺に目を開けさせた。


「…あ、あ、」


認めたくない。俺の頬をつたった涙は、彼女の声は、絶対に、本物に、決まっているって、そう、思いたい、なのに、でも、けど、あれは、そうなんだろう。いわゆる。


「夢、だったのかよ……」


――おはようございます、ジュンさん。長いことお眠りになられていましたね。


ウィズがニョキニョキニョキと柔らかい身体で俺の顔の横に這ってやってきた。


――泣いているのですか。


「……どれくらい寝ていた?」


――一日半です。それよりジュンさん。外が騒がしい様子です。


外。俺を夢から醒めさせた元凶。


何があったんだ?


俺がベッドから起き上がり、部屋を出ようとすると、突然ノックもなく、ランセが踏み込んできた。


「ランセ!?どうしたの?」

「ジュン!!……俺はおめえさんを、部屋から出さねえ……!!!!」


血走った両の眼をかっぴらいたランセ・アズールは、血の気の引いた青白い顔をひきつらせて言いのけた。絶対にな、そう付け加えて。


なぜランセは立ちふさがる!?衝撃の次回!!乞うご期待!

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