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夢の国でのファーストキス

お久しぶりです。仕事的に&プライベート的にとてもしんどくて休んでいました。

ここから仕事柄不定期な連載が続きますが、ぜひお楽しみに。


そしてここから!第二部!スタート!

――笑顔の国メスガサキ。グァキノツカヒ宮殿玉座の間にて。


「マッジャム様」


兵士が一人、玉座に坐す、黄金の甲冑に身を包む、スキンヘッドの王の前で跪いた。


「どうしたのだ?」


不機嫌そうな声色で、男は頬杖をついた。


「無事、本隊がキャンデーラを落としました」

「それはそうであろう。我を誰だと思うておる?マッジャム・グァキノツカヒ、全知全能の神の計劃けいかく、失敗すると言う方がおかしな話だ、んっ、はぁ」

「はっ!流石でございます」


カッカッカッ。


玉座のマッジャムのもとへ、大量の戦利品(キャンデーラ兵の生首)をかついで猩獣人の軍人が一人現れる。


「おお、ハムァダ。この大マッジャム神がおらず、さぞや大変であったであろう」

「ナハハハハ、アホ抜かせ。おめえがいねえ方が世界はうまくいくんだよ」

「うぬぬぬ、冗談でも、許さぬぞ?」


言葉とは裏腹に、ハムァダの来訪で、目に見えて機嫌が直るマッジャム。


凄い。


兵士はごくりと唾を飲みこむ。ヨシモルト興業の二大看板、『金色の狂人王』マッジャム・グァキノツカヒ、『災厄の猩獣人ハヌマーン』ハムァダ・フレンチクールラ。この二人が揃い踏みするとは。


「貴様ら凡人があっさり大国キャンデーラ落とせたのは、この全知全能の神こと、大宇宙マッジャム皇帝の固有スキルに他ならんのだよ」

「お前、そーいう皇帝とか神とか、俺以外の前で言うなよ。その寒いノリ、下の奴等からしたら愛想笑いするしかねえからよ」

「寒いとはなんだ!」

「そんなことないですよー――――――ん!」

「!?」


玉座の人間が、入り口近くに視線を向ける。そこに立っていたのは、長身の顔の濃い軍人。


「ハームァダさーん!なーんてこと言うんですかーん!!最っ高にんすばらすぃーい!流石、マッジャム様!マッジャム様に憧れてヨシモルトの傘下に降った私に言わせれば、マッジャム様のお話になること、面白いことばかりで、日々、アヘガオダブルピースです!はぁああああい!」

「アホがうつる。消えろサイツォー」


ハムァダがため息をつく。


ジャン=ポール=ケット=サイツォー。女人といえば老若問わず襲う異常性欲者で、通り名は『咥えさせロケットバスター』。ヨシモルトが抱える軍人の中でも、指折りの武闘派。


このアホ、キャンデーラ征伐でも、強姦の限りを尽くしやがって。


ハムァダが軽蔑の視線を送るが、サイツォーは、ひらひらと手を振る。


「ふふふふふ、おだてるなよサイツォー。偽りの賛辞にうぬぼれて、お山の大将にはなりたくない」

「ん~なんと謙虚!まさに漢の美がぁーく!すんばらしい!ついていきます!」

「黙っとけアホ」

「して、ハムァダ。改めてどうだったのだ?」

「俺の『臆病者には冷や飯を』でキャンデーラは丸腰同然だった。ま、お前のスキルもあったしな。奴隷反対勢力への見せしめになったろう」


今日び珍しい、奴隷反対を標榜する、灯の国、キャンデーラ。


亡命した奴隷を勝手に保護し、引き渡しを拒否する、頭がお花畑な国王の統治国家。

いい子ぶりっ子な生ぬるい国。うちのビジネスの障害となっていたが、王妃は死に、国王は病床、王子は国外という噂を聞いて、最速で動いたのは正解だった。


「奴隷も資源も沢山増えた。ビジネスチャンス到来だな、マッジャム」

「うむうむ。座興なき異世界を面白く。我こそ神は、まだまだ、動くぞ!!」


**********************************


マリヤ処刑から一か月が経った。


俺はいま、仲間たちとウライアスにいる。


――夢の国・ウライアスは、東の果てに位置する小国です。国王であるウォルド・ディステニーは博愛主義者で有名でして、国旗には、紅いズボンを履いた、国獣の黒い野鼠が描かれております。ウォルドには、テーマパークを作る構想があってですね。


「……ウィズ、別にお前に話しかけていない」


――……失礼しました。誤作動です。


はぁ。


ウライアスの、奴隷解放ギルドのコミュニティー。いま俺たちが生活している場所だ。


一ケ月前、キャンデーラ国滅亡の凶報を受け、帰る場所を失った俺は、シルバ・アージェントこと、ギンジロウ・ヒドラルゴ(男)が属する奴隷解放ギルドに、100余りの奴隷たちと共に庇護してもらうことになった。


そして長旅の末、つい3日前にウライアスへ辿り着いたんだ。


「ジュンちゃん、ジョン王の敵討ちするんやろ!?俺はいつでもいけるで!」

「ブランも連れていけ。きっと役に立つ」

「おめえさんたちよぉ、どうするもこうするも、全部ジュンの気持ちが決まったらだ!急かすんじゃねえ!」


ロッソとブランを俺から引きはがすランセ。あれ以来、鬱々として一日中塞ぎ込んでいる俺を、皆が気にかけてくれている。ウィズも、誤作動と言って意味もなく毎日俺に話しかけてくるが、全部俺のことを思っての行動だろう。


キャンデーラ国が滅んだ。この異世界での、俺の故郷が。帰る場所が。

噂では、キャンデーラの兵は、なぜかろくに戦わず、無条件で蹂躙され、降伏したという。国民の多くは、逃げ出せずに奴隷として売りとばされているらしい。

何が起きたんだ。キャンデーラに。

そして何より。


ジョン・キャンデーラ。


俺の父さんは、無残にも殺されてしまったという。


自分の目で見るまでは、ジョン王の無事を信じよう、とシルバは声をかけてくれたが、俺には固有スキル『マッチングアプリ』がある。


以前、ウィズは言っていた。


――幽霊、故人も検索は出来ません。


故人。


俺は吐きそうになりながら、ウィズに検索をかけた。


――ジョン・キャンデーラは見つかりませんでした。


予想通りの、最悪の結果だった。


――ジョン・キャンデーラは見つかりませんでした。

――ジョン・キャンデーラは見つかりませんでした。

――ジョン・キャンデーラは見つかりませんでした。

――ジョン・キャンデーラは見つかりませんでした。

――ジョン・キャンデーラは見つかりませんでした。

――ジョン・キャンデーラは見つかりませんでした。


=父さんは死んだ。


俺が旅に出ていなければ。父さんのそばにいれば。たとえ死ぬほど憎くても、母の不倫を暴かなければ。母を殺していなければ。父さんは倒れることなかった。病床に伏せることもなかった。父さんが惨殺されることもなかった。


俺のせいで。


俺はコミュニティから一人離れ、ナイハマビーチの白砂に腰を下ろし、夜のデスティニーシーを眺めていた。


俺は母を殺し、母の不倫相手を殺し、婚約者を殺し、婚約者の浮気相手を殺し、しまいには、父を殺した。


俺は、異世界まで来て、何をやっていたんだ。俺のやったことは。

俺のやってきたことは。

全てが全て、残酷で下劣で、醜悪で愚陋な、誰も幸せにならないマスターベーションだ!!!!!!!!!!!!!!!


「うああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


海に叫び、慟哭する。


俺なんか、俺なんか!!


ジャッ、ジャッ、ジャッ、ジャッ。


!?


白砂のきしむ音を聞いて、俺は誰かが近づいてくるのに気づく。急いで海水で顔を洗い、服で拭う。


「ここにいたか。ジュン・キャンデーラ」

「あ」


現れたのはシルバ・アージェント。俺の理想の女性というのにふさわしい存在の男性だ。本名、ギンジロウ・ヒドラルゴ。


「シル、いや、ギンジロウさん」

「シルバでいい。その方が呼びやすいだろう」

「はい」


俺の隣に、シルバが座った。


穏やかな波音が聴こえる。夜空には、真っ暗な闇を彩る、無数の星たち。満月は切ないぐらい、冷たく俺たちを照らしている。静寂で平穏な、美しい夜景。


「……間違えるなよ、ジュン・キャンデーラ」

「え?」

「後悔することは一つもない」

「それは」

「お前はお前の正義に従って行動し、その結果、多くの奴隷たちは救われたんだ」

「それはたまたまです!俺は、奴隷たちを最初から助けるつもりなんてなかった!」

「たまたまだろうが、事実だ。お前が行動しなければ、彼等はいまも奴隷のままだった。そして、ジョン王が死んだのも、キャンデーラの人々が奴隷として売り飛ばされているのも、お前のせいじゃない」

「……だって!!俺がいれば!」

「お前一人がいたところで本当に救えたのか?」

「……それは」

「……間違えるな。亡くなったジョン王の仇を取り、遺志を継げるのも、奴隷となったキャンデーラの人々を救えるのも、お前だけなんだ。ジョン王の死を悼むのは素晴らしいことだが、泣いている間にも、キャンデーラの人々はひどい目に遭うということを、忘れてはいけない」

「……俺一人じゃ無理です」

「ジュン」

「だから!一緒に、俺と一緒に戦ってくれませんか!?」


心からのお願いをしたそのときだった。


チュ。


え?


シルバの唇が、俺の唇をふさいだ。え?キス?この世界でのファーストキス。

え?あ、え、キス。なんでいま、え?キス?接吻?口吸い?kiss?ちょ、うれ、え?でも、あ、え?おと、え、あ、男同士、え?あ?WHY?え?お?あ、え?


シルバが唇を離した。


「すまない。つい」


照れくさそうにシルバが顔を赤らめる。



美しい。


こんなに美しいなら、もう男でも女でも。


「シルバさん」


今度は俺から、シルバに口づけをした。


――12歳のジュン様が、シルバさんと。これは事案ですね。


ビジュアルだけなら、なんとも美しい光景。ただ、男×男。少年×成人男性。

次回、危険な展開が待っているのか否か、乞うご期待!

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