表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/50

母に贈る言葉

悲劇開幕。

ポワゾンの偽名を使っていたギフトが、苦悶の表情でもだえている。


来賓たちがどよめくなか、どさくさに紛れて、クロトが叫んだ。




「料理長トバーンを取り押さえろ!!!!」




その声を聞き、控えていた兵士たちがトバーンを床に押さえつけた。




「これは明らかな叛逆罪です!その男は誕生日ケーキに毒を盛り、御子息、並びにこの晩餐会の列席者の毒殺を図ったのです!!!!」




誰もが頭の中にあった憶測を高らかに叫ばせたことで、来賓たち、そして父ジョン王たちの視線は料理長に向けられた。




「トバーン、何と愚かなことを!!!何故息子の誕生日にこのような!!そこまで俺が憎いか!!!!!!!この人の皮をかぶったド腐れ豚野郎が!!!!!!!」




烈火のごとく怒鳴る父の姿。


表情は憤激に満ちている。父さんのこんな顔、初めて見た。


ド腐れ豚野郎。思わず笑ってしまった。そんな汚い言葉を、この人も使うんだな。




妻を寝取った豚ダルマへの怒りがそうさせるのだろう。目が血走っている。




「陛下!誤解でございます!私が毒など!ありえません!」




身に覚えのない料理長は必至に弁明する。が、誰が信じるものか。この会場にいる人間は、この男が必死に取り繕おうとしているようにしか見えていない。一人をのぞいて。




「貴方!お待ちになって!料理長トバーンは忠誠心溢れる立派なお方です!毒なんていれるわけがございません!」




母リョーコが諫言するが、いまは火にガソリンぶっかけだ。




「……忠誠心に溢れる?忠誠心!?忠誠心だと!!!!本気で言っているのかリョーコ!!!」


「ええ貴方!!トバーンは全くの無実です!」




よし。頃合いだ。




「父上。母上の仰る通りです。もしかしたら誤解かもしれませんよ」


「ジュン?」




父さんが俺の方を向いた。雌豚(母さん)の顔が明るくなった。




「そうですよねジュン!?」


「ええ。現に僕は平気ですし。毒ではないのかも?」


「ではなぜ彼はもだえているのだ」




医務室に運んでくれ、と喉をかきむしりながら、びくんびくんなっているギフトを指さす父さん。




「アレルギーかもしれません」


「アレルギー?」


「トバーンさん。あなたの疑いを晴らすためです、このケーキの材料を細かく教えてください」


「はい!坊ちゃま!」




豚が、救いの手を差し伸べた俺にへこへこしながら、食材を事細かく言っていった。


6個目に挙がってきた材料を聞いて、俺は、それだ!と叫ぶ。




「間違いないです!アレルギーです絶対!早く医務室に連れて行ってあげてください!」




俺の言葉を聞いた兵士たちが、ギフトを運んでいく。




「ふむ……」




怒りが収まらないのか、尚も顔を曇らせる父ジョン王。




「さ、トバーンさんを放してあげてください」


「しかしまだ疑いは」


「晴れたじゃないですかぁ。ケーキは改めて僕がいただきます」


「ジュン!それはならん!」




父さんが止める。




「だって、料理長が私たちを毒殺にする理由がございませんよ。父上、食べましょうよ」


「本当にアレルギーなのかどうか、確認してからだ!」


「私は料理長を信じますよ」


「私もです」




雌豚(母さん)が乗ってきた。




「それでは母上、一緒にいただきましょう」




俺は手元のケーキの皿を母に渡した。




「ありがとうジュン」




母リョーコがトバーンの方を見やる。




「信じてますよトバーン」




トバーンが照れくさそうに鼻をかいた。




「ありがとうございます。王妃様」


「いただきまーす!!」




俺の声に合わせて、リョーコもいただきます、と言って、ケーキを口に含んだ。もぐもぐと咀嚼する。




俺?




俺は、やっぱニオイ変だなぁと言って手を止めた。




「そんな坊ちゃまぁ」




トバーンが苦笑いする。冗談だよ、と言って、俺は雌豚(母さん)を見る。




「母上、美味しいですか?」


「ええ、流石、王国一の料理人、トバーン・シュサ…」




言い切る前に、母リョーコはフォークを手から落とした。




「リョーコ?」




父さんが雌豚(母さん)に声をかける。うっ、うっ、と不倫妻は痙攣を始める。そして小刻みな震えと共に、リョーコは口に含んだケーキと共に血を吐いた。




きゃあああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!




王妃を見守っていた来賓たちが絶叫した。




母リョーコの顔はみるみるうちに青ざめ、鼻血を垂らし、ぐるぢひ、と口にすると卒倒した。




「本当に毒を盛ったんですかトバーンさん?」




俺が用意していた軽蔑の顔を豚ダルマに向け、言い放った。




「私たちを、殺そうとしたんですね」




俺の言葉とほぼ同時に、父さんがトバーンを捕まえろと怒声をあげた。




***********************************




医務室にて。




気がつくと、ベッドに寝ていた。




苦しい。




死にそう。トバーンが?まさかそんな。




「気がつきました?母上?」




目の前には、息子のジュンが一人立っている。




「びゅ……ぬ?」


「無理にしゃべらなくていいですよ、母上」


「わた、ひ……な、なん、で」


「捕まった料理長トバーンが全てを吐きましたよ。母上と、五年程前から不倫関係だったということ。最初から好きではなかったけど、タダでヤれるから抱いてはいたって。けど、年を食ったババアの身体に一切興奮しなくなって、最近関係を解消しようとしていたんだそうです」


「そ……!う、ぞ、、そ・・・んは!」




カビのような緑がかった顔で、俺を見る母。絶望に満ちた目をひん剥いている。だが、父さんの絶望はそんなもんじゃなかったぞ。




「母上の一方的な愛情にうんざりしていたトバーンは、狂気に陥り、キャンデーラ家もろとも毒殺しようともくろんだそうです。獄中で言ってました。哀れで醜い、しわくちゃババアの性処理をしてやっていたんだ、褒美の一つでも貰いたいって」


「トバ…!トバ!トバアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!!」




雌豚は、愛していた男の裏切りに発狂し、呂律の回らない口で、その名前を叫んだ。ドッと血が吐き出る。




「あ、そうそう。母上には、もう手の施しようがないらしいです。死ぬんですあなたは」


「ああああああああああ」


「泣かないでください。泣きたいのは父上です。お前みたいな淫乱低能クソビッチのせいで、高潔な王の魂に傷がついた。その命でわびろ」


「ああああああああああああ」




毒が全身に回ったのか、心が壊れたのか、俺の言葉はもう聞こえてないようだ。




良かった。人の心を踏みにじる、淫乱女を、一人壊すことができたんだ。




間もなく、壊れたおもちゃのような母親のうめきは止んだ。


そして少しすると、父ジョンが駆けつけ、かつて妻であった肉塊の手を取り、ひざをつくと、すすり泣いていた。





***********************************


キャンデーラ領内・ギフト飯店地下 (ヴェネーノファミリーアジト)にて。




「どなか存じませんが、助かりました!ありがとうございます!」




トバーンが目の前の大男に頭を下げる。




兵士たちに投獄されようとしていたところ、颯爽と現れ、屋敷から逃がしてくれた命の恩人。




「いや、礼を言われる筋合いはない」


「へ?」


「俺は今から、依頼主に成り代わって、あんたを殺すんだからな」


「……な、なにを言って?」


「さ、罪を(あがな)えよ、豚野郎」




殺し屋、クロト・ノワールは、薄明りの中、不気味に嗤った。



母の死だけでは終われない。殺し屋クロトが、豚ダルマに制裁を下す!?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
まあ表向きには、反逆者料理長に王妃様は毒を盛られて死亡(内実は息子の謀略で心までおられて毒死)。 下手人は逃亡と。(死刑では味わえない地獄見て死亡だな)。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ