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無人駅(帰り道5)
「無人駅」
人は線路沿いの景色だけ覚えている
人が作ったもの
自然のもの
混ざりあって
ビルディング高速
畑や竹林
構造が
夢になり
記憶になり
全てが誰かの夢見た町
これから作り上げられる理想の町
その陰で
人が去っていった無人駅は
くずれてゆく
とけていく
しずかに
わずかずつ
人の知らない場所で勝手に歩き出すこともできるのに
無人駅の多くがまだ律儀にも人を待っている
完全に人から見放されてしまうまで
線路の向こうを見つめ続けるかのような石段は
次第に無垢になっていく
木立の切れた遠く
電柱が干潟に続いている
海が満ちれば波は飴色に輝く
風船は褪せた桃色
空は濁った水色
誰も立ち入ろうとしないうち
誰もいないゆえの美しさを得て
誰も入れなくなってしまった
草原は止まっている
いつまでも止まっている
訪問者を待って瞼を開いたまま
迎えの言葉を唇に留めたまま
もう幻なのか記憶なのか
分からなくなってしまった