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流木/飛沫
「流木」
私の指は砂浜に打ち立てた流木
私の足は砂漠をゆく蠅
私の声は磁器の破片
私の骨は噂話
そんなものでかまわない
そんなものになれたならいい
大空を夢見てもこの体は変わらない
それなら取るに足らないものでいよう
きっと何者も意図して私を変えないだろう
風を見て君と視線を交わし、微笑んで離れていく
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「飛沫」
小さな滝が流れて
波の下を縫っていく
水を撒いた空には夾竹桃の花が透けた
虹をうたい眠りに涼み
入り江の端まで泳げば
砂糖と洋酒が溶け合って
蔦が洋館の門から溢れ出す
やがて全て眩んで薄くなって
岩礁の音が耳を貫き泡になった
沖の帆船がひとつ 空の星がひとつ
むかし
草の穂が揺れる浅瀬がありました
狐は海の向こうに跳ねてしまって
砂も花も人も飛沫も幸福なまま
待ち人と夜を忘れてしまいました
そういった場所で水の膜を撒いたなら
その向こうにゆらぐあなたの影を見ることができる
それだけの話なのですが