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店員と客

作者: 雉白書屋

「こんな単純作業もミスするなんてどういう頭しているんだ。

ただ厨房から料理をこのテーブルまで運ぶだけだろう」


「はい……すみません」


「すみませんじゃなく、誠に申し訳ございませんだろう!」


「はい、誠に申し訳ございません」


「なんだその表情は。客に何か文句でもあるのか!」


「いえ、滅相もございません……」



 とあるファミレス。

怒鳴り散らす客と頭を下げる店員に周りの客はヒソヒソと話し、怪訝な表情をつくる。


「いやねー店員さんに説教なんて……」

「怒鳴っても仕方ないわよね、ミスすることもあるでしょうに」

「あのお客さん、きっと職場をクビになったばかりなのよ。

それで当たり散らしているんだわ」

「まさかロボットに仕事を取られたの? ふふっ、そんなわけないじゃない」

「いやー、最近多いらしいわよ?」



 科学技術が発展し、ロボットの従業員は、もはや当たり前の世の中になった。

あらゆる職種の働き手がロボットに取って代わられるのは当然であり必然。

ミスしない上に不眠不休なのだから。



「おい、だからなんだその顔は。本当に反省しているのか?」


「はい、すみません」


「だからそこは誠に申し訳ございませんだろう!」


「はい、そこは誠に申し訳ございません」


「『そこは』はいらない!」



 ロボットが世の中に十二分に行き渡ると

人間たちは現存のものより、さらに性能が良いロボットを作ろうと考えた。

でないと企業に売れないからだ。

 意見を聞いたところ、やはり味気ない。不気味だ。人間味が欲しいということで

外見はもちろんのこと場の空気を読んだり、ジョークを言ったり

人間の感情に似たものを持たせた。



「はぁ、こんなにこぼしてくれてどうしてくれるんだ。早く拭いてくれ」


「誠に申し訳ございません。すぐにお拭きします」



 人間に似せたからといってミスは起こさない。

職場だろうと公然の場だろうと、どこでもちゃんと

その場にあった自分の役割を理解し、遂行するのだ。



「ああ、早くしてくれ。それから代わりの燃料ドリンクを早く持ってきてくれ。

次はこぼすなよ。あと間違えもするな。高いやつだぞ。味と体のキレが違うからな」


「はい。了解です」



 近年、仕事を奪われた人間たちのデモ活動が実を結び

企業は人間の雇用枠を設けねばならなくなった。

ゆえに、このロボットレストランでも人間がウェイターとして、働いているのである。

 だからミスすればそれを咎め、正すロボットも

それを見て怪訝な表情をつくるロボットも、その場に適した行動なのである。

トラブルに見えて、すべてはシステム通り。


 ゆえにミスをしたウェイターも、これが社会の一員だと、正しいと

どこか感じ、安堵の表情を浮かべるのだった。

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