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9話「彼は去りました」

 あれから数日。

 家でのんびり過ごしていた時に、トマスが死亡したことを知った。


「本当なの!? 母さん」


 重要情報を教えてくれたのは母だった。


「ええ。本当よ。敢えてそんな嘘をつく理由がないでしょう?」

「まぁそうだけど……でもどうして」

「移送中に女に襲われて刺されたんですって」

「女、って……もしかして」


 脳内で複数の要素が繋がってゆく。


「そうよ、オフィリア」

「やっぱり……! でも、彼女はトマスを愛していたはずよね。なのにそんなことって……」


 二人は結ばれることのできない関係でありながら愛し合っていたのではなかったのか。


 愛する人を殺すなんて、そんなこと……。


「愛が憎しみに変わったんじゃない?」

「逃げられたから……」

「そうね。きっとそうだわ。一緒になってくれるって期待していたのかもしれないわ」

「ショックが彼女を狂わせたってことね」

「ええ、恐らくそうだと思うわ。でもまぁ今のところオフィリアは黙秘しているようだけれど」


 二人が幸せになっていいはずがない。私をないがしろにしてきた二人だ、結ばれるべきではないし不幸になってしかりだろう。私から見れば敵のような二人、その二人の不幸を悲しむなんて馬鹿のすることでしかない――はず、なのに。


 でもやはり悲しい。


 愛し合っていた人たちが、相手を殺すに至るなんて。


「まぁでも自業自得よね! ウェルネリアが巻き込まれなくて何よりよ。母としてはそれだけで十分だわ。あとの二人のことなんて知らないし、どうでもいいことよ」


 母はそう言うけれど、どこか素直には喜べなかった。


 でも、それもまた運命なのだとしたら。


 どうあがいてもそうなる二人だったのかもしれない。


 ただ、安堵もある。それは「もう二度とトマスに会わなくて済むのだ」という安堵。もう絶対にこの前のようなことにはならない――そう思えるのは嬉しいことだ。彼がこの世を去った時、私は、本当の意味で彼から解放されたのかもしれない。


「ところで、最近モーレスさんとはどうなの?」


 意外な質問が飛んできた。


「仲良くやってる」


 答えはそれしかない。


「そう! お茶してるのよね?」

「うん。それ以上のことは何もない感じ」

「……良い人ね」

「純粋にお茶が好きって感じの人」

「ふふ、進展はないのかしら」

「まぁ……うん、普通にお茶を楽しんでるから」


 母は何かそれ以上を期待しているようだった。

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