7話「窓際の席も良いものですね」
「このお店、入るのは初めてです」
今日もまたモーレスとお茶をする。
誘ったのはこちらからの形ではあるが、このお店を紹介してくれたのは外の誰でもないモーレスである。
外観もおしゃれな感じだし、ぱっと見て悪い印象は抱かないような喫茶店だ。
入り口のすぐ傍にある花壇には小さな花が可憐に咲いていた。
「僕も実はこの前一回行っただけなんですよ」
「あ、そうなんですか」
「でも良い雰囲気だったので、ウェルネリアさんと行ってみたいなと」
「それで紹介してくださったのですね」
「そういうことです」
私たちは隣り合って店内へと進んでゆく。
そして、窓際の二人席に座った。
「窓際の席って二人だと良い感じですね」
「ええと、それは、一人だとあまりということですか?」
窓の向こうにそっと立つ木々は風に揺られている。
「はい。何だかちょっと落ち着かないんです。一人で窓際に座っていたら……外が気になってしまって」
「ああ、そういうことでしたか」
「モーレスさんはそうは思わないですか?」
「そうですね、僕はあまり気にしません」
「人それぞれってやつですかね」
取り敢えず、一番ベーシックなアイスティーを注文してみた。
その時。
「お前、恋人できたのか?」
誰かがそんな風に声をかけてきた。
嫌な予感がして視線をそちらへ向ければ。
「トマス……」
やはり、予感は当たっていた。
一番会いたくない人だった。
「久しぶりだな」
「え、ええ……」
モーレスはきょとんとしている。
「ああそうだ、ちょうど良かった。これから俺とお茶しようぜ、そんなやつとはさっさと別れて――」
「やめて!!」
「え……」
「何が『そんなやつ』よ! モーレスさんはね、そんな風に呼ばれるような人じゃないわ!」
つい感情が昂ってしまう。
「それに、馬鹿なことしておいて今さら絡んでくるなんて、あり得ないわよ!」
「な、何だよ急に怒って」
「いいからさっさとどこかへ行ってちょうだい」
「何だと……!? 生意気女! ふざけるな!!」
トマスは眉尻をつり上げ襲いかかってくる。
「待ってください」
――だが、モーレスがそれを制止していた。
「暴力はいけません」
殴ろうとしたトマスの手首を掴み、モーレスは冷ややかな目を相手へ向ける。
「たとえ何があったとしても、ですよ」
「お……お前……」
「殴ろうとしていたでしょう。そういう行為は問題です」
トマスの怒りは今度モーレスへ向く。
「うるせえ男だな、おい……何も知らないくせしてふざけんなよ! 後から入りしやがって!」
「一体何の話ですか!」
「婚約破棄になったからってウェルネリアにすぐ取り入りやがって! 最低男! 屑! ウェルネリアはなぁ、一人でいれば良かったんだよ!」
やめて、そう言おうとするけれど言えなかった。
トマスとモーレスの睨み合いが怖くて。
「俺はウェルネリアの婚約者だったんだよ!」
「ですが、もう破棄になったのでしょう」
「ああなったさ! 無礼な誰かのせいでな」
「何があったのです」