4話「母と二人で買い物です」
今日は母とナツツルンナッツ入りクッキーを買いにきた。
本当は母が一人で買ってきてくれる予定だったのだけれど、私が「一緒に行ってみたい」と言ったこともあり、二人で行くことになったのだ。
「結構並んでる……」
「そうね、この店はいつもこんな感じよ」
店員がいるカウンターの前には人がずらりと並んでいた。
「いつも!? じゃあ、大体こんな感じ?」
「そうよ」
「そっか。じゃあ仕方ないか」
取り敢えず母と二人列の最後尾についておくことに。
――だが、それから少しして、騒ぎが起こる。
「てめぇ! そこのけや!」
「並んでいます、後ろへ」
「何だとぉ? この俺様に譲れねぇと言いたいんだな!? ああ!?」
割り込もうとする男が現れたのだ。
「俺様が汚いからって馬鹿にしてんだろ!? ほんとのこと言えや!!」
「違います、そのような話では」
「そうなんだろ!? 顔見てれば分かるぞ!?」
「ちが――ッ」
その男は良さげな身形の青年に絡み、さらに突き飛ばす。
青年は倒れた。
「そこに這いつくばってろや!」
「…………」
男は身勝手に割り込んだ。
それがどうしても許せなくて。
「ちょっと! 勝手なことしないでください!」
私は思わず叫んでいた。
ややこしい人には関わらない方が良い。
そんなことくらい分かっていたはずなのに。
「ああ?」
「皆並んでいるじゃないですか! ちゃんと並んでください」
「何じゃてめぇ舐めてんのか!?」
男の怒りの矛先がこちらへ向いてきた。しかも勢いよくこちらへ進んでくる。
まずいか? これは。
そんな風に思い、内心焦っていると。
「いけません!」
先ほど突き飛ばされて倒れた青年が立ち上がり、男の服の裾を引っ張って制止する。
「ああ?」
「女性に手を出すのはさすがに論外です」
「何だてめぇかっこつけやがって!!」
「そういう問題ではないのです!」
言われた言葉に苛立ちを感じた男は「……うっぜ」と周囲に聞こえるか聞こえないかくらいの小声でこぼし、殴るべく腕をふりかぶる――が、次の瞬間青年に制圧されていた。
「ぐお!?」
荒々しかった男は急に床にぼさぼさ頭を押し付けられ驚き戸惑ったような顔をしている。
「駄目なものは駄目、なんですよ」
青年は男を冷ややかに見下す。
「何っ……しや、がる……離せ!」
「それはできません」
「はぁ!? ふっざけやがって、てめぇ舐めんなよ!」
しかしちょうどその頃店に地域の警備隊が到着。
誰かが通報していたようだ。
その後男は警備隊に引き渡された。
二つの手首を一カ所にまとめられて身の自由も奪われて、そんな風にして受け渡される男は面白いくらいちっぽけだった。
自由な時はあんな風にいきっていても、制圧されれば所詮そんなものなのだ。