表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/10

3話「恐れはしません、悪は悪なのです」

 場の空気は冷えきっていた。


 それぞれの両親は共に私に味方してくれている。

 しかし当事者であるトマスとオフィリアだけは謝る気にはなっていないようであった。


「勝手に家に来たウェルネリアだって悪いだろ、無礼だろ」

「そうよ! あたしたち楽しんでたのに! よくも邪魔してくれたわね!」


 二人は私に対して怒りの感情を抱いているようだ。


「トマス! 止めなさい、そういうことを言うのは。駄目よ。何を言ったとしたって、非があるのは明らかにこちら。これはもう無礼とか何とかそんなことを言い返したからってごまかせる問題じゃないのよ」


 注意するトマスの母親。


 彼女はまともだった。


「そうだぞ。俺は今とても恥ずかしい。みっともない息子を持って」


 トマスの父親も続けた。


「取り敢えず、娘とトマスくんの婚約は破棄ということで」

「慰謝料も支払ってもらいますぞ」


 最後、両親がそれぞれ言って、話し合いは終わった。


 トマスとはもう一緒にはいられないことになってしまった。


 でもそれでもいい。

 むしろその方がありがたい。


 どのみち、彼を信じることなんてもうできはしないのだから。


 少しでも離れていたい。いや、心のためにも、離れている方が良い。一度裏切った彼と関係を続けていても傷が癒えるのが遅くなるだけだ。


 だから、これで良かった。


 選んだ道に後悔はない。



 ◆



「美味しいクッキー買ってきたわよ!」

「あ。ありがとう母さん」

「ううん! いいの! さ、食べて食べて」


 トマスと離れてからは実家で一日のほとんどの時間を過ごすようになった。


「これ、面白いわ。何か入っているみたい」

「ナツツルンナッツね」


 裏切りに傷つき、それでもなお、人は進んでゆく。


 それこそが人生だ。


「何それ」

「甘いナッツよ。美味しいの」

「へえ……」

「ウェルネリアは嫌いよね、ナッツ。でもそれは絶対美味しいから! 騙されたと思って食べてみて?」


 言われてクッキーを口に含めば。


「うん――って、あ! 美味しい! これは好きかも!」


 良い香りが口腔内に広がる。


「でしょでしょ」

「ええ! 好き! これ気に入った!」

「良かったわ」

「また買える?」

「もちろんよ。明日にでもまた買ってくるわね? 今度はたくさん」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ