10話「呼び出され何かと思いつつ行ってみたのですが」
二人でお茶をするようになってどのくらい時が流れたか。
ある日、私は、モーレスに急に呼び出された。
そして指定されていた場所へ行ってみると、そこには白いスーツを着用した彼が立っていて。
「ウェルネリアさん、今日は大事なお話があって」
彼は少し緊張したような面持ちだった。
周囲には人はいない。
きっちりと立ち並んだ木々に見守られているのは私たち二人だけ。
路上にあるのは静けさばかり。
「それで、呼びました」
彼は淡々と、しかし丁寧に大切に、言葉を紡いでいるようだった。
「大事な話……ですか?」
「ええ、そうです」
「次回のお茶会の話とか、新しいおすすめの店とか」
「そうではありません」
言って、彼は小さな箱を差し出してくる。
蓋を開けば、たった一つ、指輪が光っていた。
「結婚してください」
彼は確かにそう言った。
「え、え……えええ!?」
思わず豪快な声を漏らしてしまう。
衝撃が大き過ぎて、自制などできない。
「本気なのです。貴女と共に生きていきたい、今はそう思っています。ですからどうか……答えをください」
思えば、ずっと前に、母からそういったことを言われたことはあったような気がする。
そういう関係に発展する感じではないの? とか。
でもその時は、まぁそんなことにはならないだろう期待もしない、という感じで思っていて。
最初の頃はトキメキもあったけれど、次第にそれも落ち着いてきて、今ではそういうことは考えないくらいになっていた。
ただ、私たちは長い時間を共にしてきた。
それは誰が何と言おうと変わることのない事実だ。
「あの、今ちょっと、かなり戸惑っているんですけど……」
「そんなにまずかったですか!?」
「いえ……でも、嬉しいです。貴方のような人にそう言っていただけて光栄です」
こうして、私たちは共に行く道を選ぶ。
「ぜひ、そうしましょう」
手を差し出せば、彼はその手をそっと取る。
「そうですか! 嬉しいです!」
「私も……多分貴方と同じ気持ちでいると思います」
トマスはこの世から去ることとなり、オフィリアは人殺しの汚名と共に生涯を行くこととなる。
でも私は違う。
私はいつまでも過去に縛られてはいない。
辛いことも越えて未来へ。
光の当たる場所へと出ていきたい、ずっとそう思っていた。
そしてこれからも。
「あ、じゃあ、今から帰って両親に言いますね」
「えっ、早速ですか」
「はい。だって本気なのでしょう? なら親にもそのように伝えなくてはならないので」
モーレスと共に、どこまでも、歩き続けていく。
「まぁ確かにそれはそうですね」
「モーレスさん、一緒に来てくださいますか?」
「あ、はい! もちろん! 行きます」
そうよ、私は不幸になんてならないわ。
◆終わり◆