殺人姫とその犠牲者の関係
グロ展開ありますよ♪ 苦手な方はご遠慮下さい。ではでは始まるよ~!
昔々とある国に月のように美しく、太陽のように輝く笑顔のお姫様がいました。そのお声は小鳥のように麗しく、周囲の人間は会うだけでふわふわした気持ちになるような、素敵なお方だったのです。
今までに彼女が何かをするたびに人々は平和になりました。まさに天賦の才をお持ちで、世界中のみんなから愛されておりました。
周りの人間は彼女の事を褒め称え、甘やかす事ばかり口にしていました。
しかし、彼女はこれほどまでに完璧な女性である事にも関わらず、人々に親切に、そして優しく接しておりました。
彼女の今まで積み上げてきた人徳は、史上最も尊い聖人でも遠く及ばない事でしょう。
もはや存在自体が世界に愛されている彼女。しかしそんな彼女にも誰にも言えない秘密がありました。
彼女は世界の有り余る祝福を受けすぎていたため、10年しか生きられない運命だったのです。
ただ一つだけ方法がありました。それは生きている心臓を捧げ、それを糧に寿命を吸い取り、生き長らえる事。
その禁術を自らの娘に施し、寿命をむりやり引き延ばしたのは、彼女の最愛の一人、とても優しいお母様でした。
王妃は自らの命を引き換えにお姫様を生かしたのです。
それから10年の時は流れ・・・。彼女の運命の終わりがまた近づいてきておりました。
そんな時でもお姫様は穏やかな笑みを浮かべておりました。自分はたくさんの幸せに恵まれていた。そう心から思っていたからです。
しかし、家族は最愛のお姫様を放っておけるはずもなく、やがて禁術を施そうと彼女に迫るようになりました。
彼女は例え罪人であったとしても、命を奪うのは忍びなかったので、どのような人柱もお断りをし、ある塔の地下牢に自らひきこもるようになりました。
家族は泣いて彼女に抗議をしました。強引に迫って悪かったと謝罪もきちんとしました。
それでも彼女は地下牢からどうしても動こうとしませんでした。そしてただ死神様を待つことにしました。
ある日紙袋を被せられたある男がお姫様の前に連れて来られました。
*****
「おい。ソフィア。おれはお前がこのまま死ぬなんて許せねえよ。というわけで、異世界で死んだこいつを召喚した。こいつの心臓を吸収して、お前は生き延びるんだ。分かったな? こいつは今だけ生きているように見えるが、死者だ。罪悪感なんてのはまやかしだと思え。」
そう言って兄は去って生きました。確かに噓はつかない人です。本当に死者を呼び出したのでしょう。
男は紙袋のせいで苦しそうにしています。窮屈そうに肩を上下させています。
私は急いで駆け寄り、男の拘束と紙袋を取り外した。
男の姿がゆらりと揺れ、突如私に襲い掛かり、首を絞めてきました。
そう、ですよね。だってこんな所に連れてこられ、見ず知らずの人の為に死んでくれなんて酷すぎます。
私はこのまま死ぬのでしょうか。ええ。これは自業自得というもの。せめて最後にお世話になった方々や友人、家族へ遺書を残したかった。
皆さん愛しています。こんな私にも優しくしてくれてありがとう。私は幸せ、・・・でした。
徐々に気道がしまっていき、脈は弱くなっていく。お姫様の閉じた瞳から涙が溢れ出していた。穏やかな笑みと共に。
「おれはお前みたいなヤツなんかの為に死ぬ気はねえよ。お前が死ね。」
男は鬼の形相で私の首を絞めていた。
*****
*犠牲者の男視点
トンネルの中を重力が横向きになって落下していく感じ。それが異世界転移する時の恐怖感だ。
おれは若くして死んでしまった。死因は思いだせない。なんなら、前世の記憶さえも。
声にならない叫び声を上げ、おれはとある灰色の部屋に落ちていった。
身体を打ち付けた衝撃でさらに苦痛は何倍にも跳ね上がる。
突如頭を温かい光が包み込み、おれは眩しく感じ目を細める。
「あなたは若くして死んだのです。」美しい女神の声が語りかける。
あ、そうみだいですねえ。
「かわいそうなので、生き返らせてやりましょうか。まあ、神の気まぐれというやつです。」
あ、そりゃあどうも。
「もう、若くして死にたくないですよね? というわけで、人生83年という制限付きですが、不死者にしてあげましょう。」
「異世界に着きましたら、直ぐにお姫様と面会する事になるでしょう。」
「あなたは彼女の為に死ぬのです。」
え? なんで?
「彼女は世界からも愛されているので、誰かが彼女の為に死ななければならないのです。というわけで、あなたが死んで下さい。」
いや。おれもう死にたくないです。殺されるくらいなら殺し返します!
「元気に何度も死んで下サイ。後で生きカエリますから。フフフ。何も心配はないですよ。あなたは不幸の星の下に生まれているので、こうでもしないと83年分の不老者にはなれないのです。」
いや、そんな笑顔で言われても。おれに自己犠牲なんて高尚なものはありませんとも。
殺人姫なんて、殺されて当然だとおれは思う。おれの命の方が当たり前だが大事なんだ。
というわけで、首を絞めているのだが・・・。どうにもこの手の温もりが気に食わない。
なぜだろう。苦悩の表情で死んで行くのかと思いきや・・・。彼女は死を受け入れていた。
罪悪感が胸をえぐる。彼女がおれに何をした? しょせん別世界の人間だ。 彼女の罪をおれが責める権利があるのか?
見た感じ、20歳くらいだろうか。その年齢まで生き長らえるのに、幾人もの立場の弱き人々が犠牲になってきたに違いない。
それでも、確認するべきなのだ。おれは慌てて手を緩め、彼女が息を吹き返したのを確かめ、床につかせた。
*****
わ、私はもう死んだのですね。そう思って恐る恐る瞼を開けた。見るといつもの地下牢の天井だ。
「ゲホゲホッ」
気道が締まっていた影響だろう。嘔吐感とともに血管が悲鳴を上げている。軽く内出血をしているのだろうか。
「目が覚めましたか。」男の声が近くで響き渡る。
「は、はい。」
蚊が泣くような声で何とか声を絞り出す。
「ど、どうして、私を生かしたのですか。」
「あなたは殺人姫と教えてもらっていたからです。」
「誰かにお願いされてきたのですか?」
「誰か? しいて言えば女神ですね。」
別にあなたの為に死ねという指示があった事は黙っていても良いだろう。
「私はもう数日で消える命です。」
そうでしょうとも。大変顔色悪いですからねえ。
「も、もしよろしければ、最後に少しだけおしゃべりを一緒にしてくれませんか。」
「それくらいなら構いません。」
見ず知らずのおれ相手でいいのかなと思ってみたりした。
「ありがとうございます。」
笑顔ではにかむ彼女の笑顔はやつれてはいるものの、お日様のようにまぶしかった。
それから、ぽつりぽつりと話し始めた。
彼女の出生の事。愛する母を手にかけてしまった事。
国民の事。国王と兄弟である王子の事。
誰もがみんな彼女の事を特別視する。そして彼女はそれに答えようと精神をすり減らして来た。
母の思いで頑張って生きてきたが、もう疲れてしまったのだ。王族は自由恋愛なんて出来ないし。
「だからもう、私はもう死にたいのです。」
彼女の瞳から光が徐々に消えていっていた。なるほど、全てを生まれながらにして手に入れているやつは生きるのが大変そうだ。
おれには一切その気持ちがわからないがな!(涙)
話を聞く限り、お姫様は良いやつだ。だからと言っておれの命まで差し出すわけにはいかないのだ!
と思っていたのが、3日前でした。
どんどん隣で衰弱していく殺人姫。見ず知らずの中とはいえ、やはり心にくるものがある。
生きるのこそ諦めていたのも、今なら誰の命も奪いたくないのだという事が分かってきた。
このお姫様は本当に優しい女の子なんだ。望んで天に望まれ、世界からも祝福されているわけでもない。
どうして、世界はこんなにも残酷なんだ。彼女だって愛するお母様ともっと一緒に暮らしたかったのだろう。
苦労をして何かを成し遂げたいとも思っていただろう。
いつも、お国の為だなんて。いたたまれない。そう思ってしまうのはおれが元の世界の価値観で彼女の境遇を推し量ろうとしているせいだ。
そんな事は分かっている。分かってはいるのだが。
おれは彼女に生きていて欲しかった。これからもその眩しい笑顔で笑っていて欲しかった。
やつれているのを見るのが辛かった。本来の彼女はもっと美しのだろう。
だからおれは彼女を生かす事にした。
翌朝・・・。
「ど、どうして私は生きているのですか? まさか兄様が勝手に・・・。」
「違いますよ。おれの命をあなたに捧げたのです。」
「そんな。ではここは死の世界なのですね・・・。本当にもうし・・・」
「あなたはまだ死んでいないですよ。もちろんおれも生きています。」
寝起きの彼女はいろいろ混乱しているので、優しく諭してあげる。
「おれは、不死者なのです。つまり、一回分の一生(心臓)をあなたに差し上げました。まあ、回復はするんですけれどね~!」
「そ、そんな。本当にありがとうございました。でも、どうして助けてくれたのですか?」
「姫様はおれにとって推し(ファン)なのです。どうせ今回の吸収分ではたりないでしょうから・・・。その時はおれがまた心臓を差し上げますので!」
「な、なんとお礼をいっていいものか・・・。でも、もう私は・・・。」
「あなたは十分頑張りましたよ。どこか他国にでも亡命しましょう。おれも、お供します。もちろんあなたに手は出しませんから。」
最後にウインクをしてみる。
「その言葉が欲しかった・・・のです。」
彼女はとてもしおらしく泣き出した。月光が銀髪をさらに輝かせていた。弱々しく小刻みに震えだす彼女の背中をおれは優しくトントンしてあげた。
まる一晩泣きあかした姫様の行動はそれからが早かった。
盛大な爆発音とともに、姫様の爆破魔法の砂塵が舞う。そしておれたちは一緒に空へ飛び出した。
「私を自由にしてくれてありがとう!」
「むしろ望むところです。」
地下牢の最後の壁の残骸は、ハートの形をしていた。
読んでくれてありがとう♪ ちょっと作風変えてみたので、荒削りなのはお許しを! 長くなってしまった。すみません!




