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「あんこ」と「ういろう」

作者: 日比野 麻琴

 私は、仁科佐紀、小学5年生です。

 家族は、両親と小学2年生になる妹の由紀の4人家族です。

 あ、それと2匹の猫がいます。

 名前は、雌猫の『あんこ』と雄猫『ういろう』です。

 そんな2匹がある日突然家から居なくなっていました。


 佐紀:お母さん、『あんこ』と『ういろう』を知らない?呼んでも出てこないの。


 母:え、知らないわよ。二階の廊下に居ない?今頃だと丁度日が差しているし、そこで寝ていない?


 佐紀:うん、家じゅう見てきたけど居なかったの。


 母:あとは、居るとしたら、この居間位なのに、どこ行ったのかしらね。


 佐紀:あ、玄関が空いている。


 母:あら、さっき由紀が出かけたけど、ドアを閉め忘れたのね。もしかして出て行っちゃたのかしら?


 佐紀:由紀はしょうがないね。戻ってきたら、しっかり叱ってね。お母さん。


 母:わかったわ。『あんこ』は脱走の常習犯だから、戻ってこれるでしょうけど、でも『ういろう』も出て行ったとなると心配ねぇ。


 佐紀:だよね。もう一度家の中探して居なかったら、ちょっと外も探してくるね。


 ういろうは、臆病な性格で、闊達なあんこに比べ臆病で、あんこは、しょっちゅう外に脱走しているが、ういろうは、玄関にも近寄ろないようなおとなしい猫だった。

 なのに、居なくなるなんて本当に心配だわ。


 母:ええ、お願いするわ。それと外に行くなら、佐紀も気を付けてね。


 結局、家には『あんこ』も『ういろう』も見つからなくて、私は外に探しに行くことにしたのでした。


 佐紀:由紀のせいで、まったく。帰ってきたら、お母さんに叱って貰うからね。


 私は、見つけた時の為に捕まえるため、おやつを持って探し回ります。


 佐紀:いつもなら、この辺に『あんこ』は居るのだけど、『ういろう』も一緒だといいな。


 綾乃:あ、佐紀ちゃん。そこで何しているの?


 私は声がした方を見る。同じクラスの友達、綾乃ちゃんが、私に駆け足で近寄って来た。


 佐紀:あ、綾乃ちゃん。家の猫が逃げ出しちゃって、そのうち戻って来るだろうけど、さがしているの。心配だからね。綾乃ちゃんこそ、こんな所で何してるの?


 綾乃:うーん、お母さんと買い物に行ったのだけど、お母さんが他の人と話し込んじゃって、それで先に帰えるところだった。猫さん心配だよね。私、この後、暇だから一緒に探してもいい?


 佐紀:もちろん、いいけど。お母さんに話さないで平気?


 綾乃:そうだね。お母さん帰って、お家に私が居なかったら、心配するね。母さんすぐそこで話してるから、ちょっと話してくる。待ってて。


 佐紀:うん。わかった。待ってるね。


 どうやら、綾乃ちゃんはお母さんと別れたばかりだったようで、来た道を急いで戻って行った。


 綾乃:佐紀ちゃん。お母さんが、遊んでもいいって。


 それから、暫くして、そう言って、手を振りながら、綾乃ちゃんがニッコリ笑いながら戻って来た。

 綾乃ちゃん、猫探しだよ。遊びじゃないよ。あ、でも、一緒に探すんだから探検ごっこみたいなものか。私も、そう思い直すと、笑顔で応え、返事を返した。


 佐紀:それじゃ、一緒に探しに行こう。


 綾乃:どこに行くの?


 佐紀:まずは、よく脱走する。『あんこ』がよくいる所にこの辺りを探そうと思ってるの。


 綾乃:『あんこ』?


 佐紀:うん、うちの猫の名前だよ。2匹とも逃げちゃったのだけど、雌猫が『あんこ』で雄猫が『ういろう』なんだ。『あんこ』が家に来たのは5年前だけれど、『ういろう』は私が赤ちゃんの頃から家に居たんだって。


 綾乃:そうなんだ。そんな前から一緒にいるんじゃ、心配だね。よし、『あんこ』ちゃんと『ういろう』くんを探そう。


 そうして、私たちは『あんこ』が逃げた時、良く見かけるこの周辺を探すことにしたのでした。


 綾乃:うーん、『あんこ』ちゃんと『ういろう』くんはどんな特徴があるの?


 佐紀:えーと、『あんこ』は黒猫で、黄色い首輪をしているの。『ういろう』は白と黒のぶちで、青い首輪をしているの。


 綾乃:わかったわ。


 結局いつもいる場所にも居なかったので、もう少し辺りを探すことにしました。私達は、一生懸命『あんこ』たちを探します。


 佐紀:いないね。いつもなら、この辺に『あんこ』は居るはずなんだけど。


 綾乃:ねぇ、あの子違う?


 綾乃ちゃんはそう言って、駐車場に止まっている車の方を指さしました。どれどれ、車の下に確かに何かいます。暗くてよく見えないな。黒っぽい猫のようだけど、『あんこ』かな?とりあえず、声を掛けてみよう。


 佐紀:『あんこ』居たら出ておいで。


 あんこ:にゃー


 綾乃:『あんこ』ちゃんなの?


 佐紀:うん、多分。『あんこ』出ておいで。


 私は、再び呼びます。

 反応がありました。どうやら『あんこ』のようです。伸びをしてゆっくりと車の下から這い出て来ました。私は確実に捕まえるために、スティック液状のおやつの2本のうち1本の封を切り、『あんこ』に見せる。

 『あんこ』は、それを目に留めると一目散に私に向かって近づいてきました。そして、まったく警戒するそぶりも見せずに、それを嘗め始めました。すごく夢中です。

 うん、よしよし。


 綾乃:それ面白そう。やってみていい?


 それを見た綾乃ちゃんが私にそう聞いてきます。うん、替わって貰ってその隙に捕まえましょう。

 私は、頷くと、綾乃ちゃんにおやつのスティックを持ってもらうよう差し出しました。

 おやつを持つ人が変わっても、全く気にせず『あんこ』は嘗め続けます。


 綾乃:わぁ、面白い。すごい勢いで嘗めて来る。


 私は、綾乃ちゃんが持っているおやつに夢中な『あんこ』の後ろに回り込み、優しく胴体を持ち捕まえました。


 佐紀:よし。『あんこ』捕まえたっと。


 綾乃:やったぁ。でも、まだ『あんこ』ちゃんにおやつ上げてるから、もうちょっとそのままでいてね。


 綾乃ちゃんが、おやつを上げ終わって、私は『あんこ』を抱え上げる。さて、重いけどどうしよう?一度お家に戻ろうか?それともこのまま『ういろう』を探そうか?

 悩みながら、『あんこ』を抱えていると、綾乃ちゃんが、物欲しそうにこちらを見ている。


 佐紀:綾乃ちゃん、もう『あんこ』におやつ上げないからね。もう1個は、『ういろう』の分だよ。


 綾乃:ち、違うよ。『あんこ』ちゃんを抱いてもいい?


 佐紀:いいけど、重いよ?


 綾乃:平気だよ。任せて。


 佐紀:じゃぁ、はい。気を付けてね。


 私は、そう言って、綾乃ちゃんの腕に収まるよう『あんこ』を渡してあげます。


 綾乃:本当だ。結構重いね。しばらく、持ってていい?


 佐紀:いいけど、疲れない?


 綾乃:平気だよ。ね、『あんこ』ちゃん。


 綾乃ちゃんは、そう言いながら、『あんこ』の顔を覗き込みます。『あんこ』は大人しい子だから平気かな。綾乃ちゃんが『あんこ』を気に入ったようなので、家に帰らずにこのままもう一匹の『ういろう』を探すことにしました。

 さて、『ういろう』はどこに居るのやら。『あんこ』について外に出たのなら、一緒にこの辺に居る可能性もあるけど、どうだろう?とりあえずこの辺をまず探しましょうか。


 佐紀:『ういろう』


 綾乃:『ういろう』ちゃん。


 私達は、そう呼びかけなら、反応が無いか辺りを見回しながら、歩きます。

 こういう時、食べ物の名前を叫ぶのって、恥ずかしいな。綾乃ちゃんと二人で良かった。

 そんなことを考えつつ、呼びかけをしながら、歩いていると少し大きな公園に着きました。

 うん、一応ここも探してみようか。


 佐紀:綾乃ちゃん、『あんこ』を抱えたままだけど疲れてない?


 綾乃:うん、平気だよ。


 佐紀:疲れたら、言ってね。替わるから。


 綾乃:わかった。疲れたら、お願いね。


 佐紀:うん。ここの公園も探してみようか。日当たりもいいし、『ういろう』が休んでるかもしれないし。


 綾乃:わかった。行こう。


 私達が公園に入ると、『あんこ』が突然暴れ出し、綾乃ちゃんの腕から飛び出してしまいました。


 綾乃:あ、ダメだよ『あんこ』ちゃん。


 綾乃ちゃんは、急いで捕まえようとしますが、『あんこ』は少し離れて、こちらを見ると、また、再び歩いて行きます。

 まるで、付いて来いと言っているようです。


 綾乃:ごめんね。逃がしちゃって、追いかけよう。


 佐紀:そうだね。


 『あんこ』を追っていると、やがて辺り一面、白い霧に覆われてきました。

 そして、『あんこ』の前に『ういろう』が現れました。


 ういろう:『あんこ』なんで君が、それにどうして彼女らを連れて来ちゃったんだ。ダメじゃないか。


 佐紀:えっ、あれ?


 綾乃:今、誰かの声が聞こえたよね?


 ういろう:そうだったのか。『あんこ』ありがとうね。佐紀、心配かけて悪かったね。僕はもう寿命でね。あそこに居るわけには行かなかったんだ。それで飛び出してここに来たんだよ。


 佐紀:やっぱり、『ういろう』の声なの?


 ういろう:ああ、もう僕はここの猫になるんだ。だから、すこし人の言葉も話せるんだよ。


 佐紀:ここの猫?もう私達の所に戻らないの?


 ういろう:そうだね。もう戻れないのかな。ここの猫たちが許してくれないだろうからね。


 佐紀:そんな。


 ういろう:せっかく、探しに来てくれたのにごめんね。


 佐紀:ねぇ、『ういろう』。このまま『ういろう』が戻ってこないと由紀が自分のせいで『ういろう』が戻ってこなくなっちゃたと思って、苦しんじゃうと思うの。一度戻ってこれない?


 私は、こんな形で『ういろう』が居なくなっちゃうのは嫌だから、必死になってそうお願いしました。由紀だって、絶対に気に病むと思う。


 ういろう:そうか。僕は僕の都合で外に出ただけだけど、そうだよね。そのことは『あんこ』にも怒られたよ。


 『ういろう』は、そう言うとしばらく天を見つめていました。そして、視線を私に戻すと、私に話しかけてきました。


 ういろう:許してくれたよ。一緒に戻って、暫くは、家でまた暮らそう。


 佐紀:本当に戻って来てくれるのね?良かった。


 綾乃:よかったね。佐紀ちゃん。


 佐紀:うん。さぁ、『ういろう』一緒に帰ろう。


 私がそう言って、手を出すと『ういろう』は私の手に飛び込んできました。

 私は、『ういろう』を抱え、天に向かって叫びました。


 佐紀:ありがとうございます。


 向こうからの返事はありませんでしたけど、やがて、私達を包んでいた白い霧は晴れ、元居た公園に私と綾乃ちゃんはそれぞれ『あんこ』と『ういろう』を抱いて立っていました。


 佐紀:みんなで戻ってこれたんだね。


 綾乃:うん。


 佐紀:今あったこと、みんなに話しても信じて貰えるかな。


 綾乃:えー、私だって今でも信じられないもん。無理だよ。


 佐紀:そうだよね。戻ろうか。『あんこ』も『ういろう』もいいよね。


 私は、そう二匹に呼びかけたが、返事はなかった。『ういろう』はあの場所に居ないと喋れないのかな?

 本当に、二匹とも戻って来てくれてよかった。


 佐紀:それじゃ、帰ろうか。綾乃ちゃん、今日はありがとうね。


 綾乃:うん、私もこんな体験出来て良かった。ありがとうね。


 こうして、私と綾乃ちゃんは、猫を抱えて、大変な思いをしながら、私の家に向かいました。



 佐紀:ただいま。お母さん。無事に『あんこ』も『ういろう』も見つかったよ。あと綾乃ちゃんに途中であって一緒に探して貰ったの。


 母:おかえり。綾乃ちゃんも手伝ってくれてありがとうね。


 由紀:お姉ちゃん、探してくれてありがとう。綾乃お姉ちゃんも探すの手伝ってくれてありがとう。


 佐紀:由紀、今度から、ちゃんと玄関は閉じて遊びに行くんだよ。


 由紀:うん。それと『あんこ』と『ういろう』、外に居て怖くなかった。ごめんね。


 由紀は、お母さんに怒られていたのか、涙目になりながらも、そう言ってきました。

 私は玄関の扉を閉めると、『ういろう』の足を拭いてあげて、廊下に放してあげました。『ういろう』は、私を見て、ニャーンと鳴くと由紀に擦り寄って甘えてから、疲れたのでしょうか、休むために二階へ上がって行きました。

 そして、綾乃ちゃんからも『あんこ』を受け取り、同じように足を拭いて廊下に降ろしてあげました。『あんこ』は、『ういろう』を追いかけるように走って行きました。


 佐紀:綾乃ちゃん、良ければもう少し遊んでいかない?


 母:そうよ。佐紀と一緒に探してくれて疲れたでしょ。おやつを食べて行きなさい。


 綾乃:ありがとうございます。お邪魔します。


 こうして、私の不思議な体験は終わりました。



 それから、『ういろう』は三日程、今までと同じように私達と暮らしてくれした。

 そして、その夜、『ういろう』は私の部屋に入り込み、窓を眺め見ていました。


 佐紀:『ういろう』あそこに行っちゃうの?


 『ういろう』は、今度は肯定するように座り込み私を見つめ返してくれました。

 無理を言って、『ういろう』を連れて来たんだから、そうだよね。帰らないとだよね。


 佐紀:『ういろう』、戻って来てくれて、ありがとうね。さようなら。


 そう呟くように私は言うと、窓を開けてあげました。

 『ういろう』は、窓に駆けあがると、お礼を言うように、ニャーと一鳴きして、外に消えていきました。

 そして、『ういろう』に会うことはもうなかった。

 由紀は、突然『ういろう』が居なくなったことにショックを隠せずにいた。

 それを母は、『ういろう』ちゃんはもうおじいちゃんだったし、猫は、死ぬ間際になると姿を消すんだよと言う話をしてくれた。そして、由紀がそんな風に悲しむと姿を隠した『ういろう』の気遣いが無駄になるから、元気だしてと慰めていた。

 そんな母の言葉を、私も納得しながら聞いていました。

 私も綾乃ちゃんは、それ以降会って話をしても他の会話で盛り上がることはあっても、この出来事のことは、忘却したかのようにお互い話すことはありませんでした。

 他の人に知られても、信じるにしろ、信じないにしろいいことはありませんからね。

 ただ、これからも、あの時のことは忘れることなく、『ういろう』やあそこに居る他の猫への感謝の念だけはいつまでも持ち続けていくつもりです。


  

 






 

 初めて最後まで書いた小説を、書き直して公開してみました。元原稿のデータが見つからなかったのでね。

 ちなみに筆者は、猫を飼ったことありませんので、作中におかしい所があったらごめんなさい。

 今までの公開作品と毛色がちょっと違いますが、読んでいただきありがとうございます。


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