日光様の式典
俺が魔族を滅ぼすことを決めてから、約4年がたち、俺は14歳になった。
そしていきなりではあるが、俺は現在、正月に向けて家の大掃除と正月に行われる日光様の式典に行くための準備をしている。典次には式典で着る和服の着方と礼儀作法を教えてもらい。星野には当日、髪のセットをしてもらうことになっている。典次に式典の間はお前が体を操作すればいいだろう。と、提案したが、
「本来ならお前ひとりの人生。私はできる限り干渉したくない」と、断られてしまった。
これは式典に参加する当日に知ったことなのだが、式典に参加できるのは、貴族に王族。そして、抽選で選ばれた一部の人間のみで、この式典に参加できることは大変名誉なことらしく、中学の友人に言ったら、ものすごい目で睨まれた。そして俺が式典に出ることは一瞬で広まり、その日、俺はものすごく学校にいずらかったのは言うまでもないだろう。
これも当日に知ったことなんだが、その抽選に当選する確率は、1000万人に1人というとんでもない確率だったらしい。俺はこんなものより、少ない小遣いで買った宝くじの方が当たって欲しかったと思ったがこれを口に出していってしまうと殺されそうなので口には出さなかった。
俺と俺の両親が住んでいる家は4LDKの平屋でそこまで大きいというわけではない。だからすごく掃除が大変ということはない。しかし、とにかく庭が広い。何かで例えるなら、小学校の運動場くらい広い。そしてここはそこそこな都会で、駅まで歩いて10分程度。一体どんな仕事をしていたら、こんなところに家を建てられるのか。前世がただのサラリーマンだった俺には見当もつきません!!
この無駄に広い庭には、桜、そしてほかにも様々な花が植えてある。母さんの趣味だ。夏になるとどれだけ除草が大変か、少しは考えてほしい。
今俺は和室と仏壇の周りの掃除をしている。しかし、俺の掃除の仕方が気に入らなかったのか、典次に
「もっと丁寧に掃除できないのか?今すぐ私と変われ!!」と、少し怒られてしまった。
掃除も終わり。俺が部屋でくつろいでいると、母さんが帰宅した。
「お帰り、母さん」
「ただいま。今日も父さんは帰れないんだって」
「そうか」
これはよくあることである。父さんは、仕事で毎日ほとんど帰ってこない。何の仕事をしているかは未だに教えてはもらえてない。
「そうそう。今度の式典が終わった後、父さんの仕事について教えてあげる」
「本当か??」
「ええ、本当」
まじか!!でもなんでこのタイミングなんだ?まあ、今まで気になっていた父さんの仕事がわかるんだ。気にしないでおこう。それに仕事がわかればいままでなぜ秘密にしていたのかもわかるかもしれないしな。
☆
式典当日俺は電車で東京に来ていた。東京は俺がいた世界とはだいぶ異なっていた。まず、単純に人口が多い。西日本のほとんどが魔族の支配下なのだからまあこれは仕方ないだろう。あとはやはり、和風な建物が多いことだろう。外国との交流はあるが、それは必要最低限というか必要なものだけ。外国の良いところだけうまい具合に取り込んで発展している。だから、スマホやパソコン、インターネットなんかもある。
そして,
やはり個人的に1番最高だと思ったのは、前いた世界とは比べ物にならないほど人々の民度が高い。道路にはごみ1つ落ちておらず、非常に清潔だ。前世で俺が苦手だったチャラ男やギャルなんか1人もいない。別にチャラ男とギャルの民度が低いといいたいわけではない。ただ、なんというかあのテンションの高さというか、なんというか、まあ、ああいうのが苦手なのだ。
式典は何千年も同じ場所に建て替えられている、特別な建物で行われた。場所は前世で東京スカイツリーがあったあたりだろうか。建物は日光様が何千年も前に設計して時から変わっていないのだという。
そこが引っかかって調べたのだが、どうやら日光様は不老らしい。まあ超能力があるから不老もあるのかな?と、俺は納得したが、典次は絶対にありえない!!と強めに否定していた。まあ何千年も生きているのは事実なんだけど。
不老なだけで一応殺されはするらしいのだが、それが本当かは、わからない。今までの歴史上、日光様は内乱や戦争で一度もかすり傷すら負ったことがないのだという。
現在。時刻は8時35分。式典は10時からなので、会場の近くで俺は朝食をとっていた。2階の窓から見渡す限り人だらけでびっくりした。毎年テレビなんかで見ていたが、やはり目の前で見ると迫力が
違う。この日光様の式典には、毎年東京に国の人口の半分が集まるのだそうだ。まあ、年に1度のイベントで浮かれているのだろう。毎年こんだけ人が集まるんだから。経済はバンバン回るだろうが。
1つ思ったことがある。なぜ日光様はもともとの首都、京都ではなく東京にこの式典の会場を作ったのだろう。まさか未来を見たりとかできるのだろうか?いや、それならこの国に日光様派以外の王族の派閥は存在していないだろう。
どんな所でも派閥があってそれぞれが対立しあっている。正直言ってめんどくさそうだと思う。
朝食を終えた俺は、しばらくスマホを見て時間をつぶし1時間前になったので、会場へ向かった。
会場なドーム状で、360度観客が見学できるようになっている。そして、ドームの中心に日光様が立つための、豪勢な装飾がされた台と、通常の何倍もの大きさの社と鳥居がある。
式典の参加者は、まずその神社を参拝し、参加者全員の参拝が終わった後に、日光様がまあ、なんというか、今年も一年頑張りましょうみたいなことを言って、終わる。
え?これだけ?わざわざ人々がこんなことのために国中から集まる意味が分からない。
参拝を終えた後、そんなことを考えている間に参加者全員の参拝が終わった。そして日光様がなぜか社の中から現れた。まるで自分が神だとでも言いたいかのように。そして、日光様が、台に上った。
台には日光様とその後ろに、しゃがみ込むように護衛が二人乗っていた。
俺は気づいた。日光様の護衛の男に、なぜか見覚えがあったことに。そしてしばらくして、
「あれは、、、父さん?」
そう。そこにいたのは正真正銘、この世界での俺の父親、稲葉通その人だったのである。
俺はこれまでのことにすべて納得がいった。父さんがなかなか家に帰ってこないのも。他人に仕事のことを一切言わないのも。あんな町中にどでかい庭の家を建てれたのも。すべて。
「まさか父さんが、日光様の護衛なんて、すごい仕事をしているとは。こりゃたまげたな」
(若いくせにそんなおっさんみたいなことを言うんじゃあない。体より先に心が老けるぞ)
と、さっきまでずっと黙ってやがったくせ、典次がに急に喋りだした。
「まあ、精神年齢は40より上だから、もう立派なおっさんだよ」
すると、典次はどこぞの熱血コーチみたいに。
(心さえ若ければいい)
という意味の分からないことを言い出した。こいつは頭がおかしいのかな?てか、こんな奴だったかな?
(というかお前、見た目は未成年だろ?見た目が若いんだ。心も若くいこう)
俺は若くていいことなんて、体が健康なことくらいだと思うが、なぜ典次はそんなに若くあろうとするのか、俺には全く分からない。
典次とそんなしょうもない会話をしていた。その時だった。
どこからかは分からない。謎のボウリング玉くらいの黒い球が日光様に向かって放飛んできたのだ。飛んできたのは1発。警備の人間が発砲した銃弾がなぜかすり抜け、全く攻撃が効かない。スピードはそれほど速くない。時速20キロくらいだろうか。その球が台に到達する前に日光様は台から降りて逃げ始めていたが、黒い球はそれを追う。
日光様は、式典用の十二単みたいな黄金に輝く着物を着ていて、明らかに走りずらそうだった。
黒い球が距離をどんどん詰めてくる。
警備員が銃を撃って撃ち落とそうとするが、弾はすり抜ける。
そして、日光様のすぐ後ろまで黒い球が迫る。
追いつかれた!と思ったその時。日光様の隣を走っていた父さんが急に立ち止まり。黒い球に向かって走り始めた。
「まさかっ!!」
そのまさかだった。父さんは、球に突っ込み。そしてそのあと、その場に倒れた。球は消えたが、父さんは立ち上がる気配はなかった。
「父さん!?」