始まりと出会い
目が覚めた。さて、ここはいったいどこなのだろうか?まぶたを閉じて眠っているだけなら、こんなに手足がはっきりと見えることはないだろう。
俺は確か・・・・・・そうだった。俺は別の世界へ飛ばされた。というより、飛んできたというべきなのかはわからない。が、とにかく元とは違う別の世界へ来たのだ。
しかし、何もない。見渡す限り真っ暗である。さっきから、何かがおかしい。もしかしたら俺は、生まれ変わったのかもしれない。
生まれたばかりの赤子は明るいか、暗いか、しかわからず目が完全に見えるようになるまでには、確か・・・2か月かかるという。
つまり俺は、別人としてちゃんと生まれているなら、2か月間物を完全に認識することはできず、ずっとこの状態ということになるのか・・・・・・
しかし退屈である。段々五感が目覚めてきているを感じるが、これでは目覚める前にどうにかなってしまいそうだ。まさに生き地獄である。
無事に別世界で誕生できたのは確かだし、いいのだが、何か暇つぶしくらいないもんかと思う。このままだと本当にどうにかなってしましう。
☆
生まれてから体感で4日ほどたったころだ。まあ俺の体感だからあってる確率は、低い。俺は自分の中に異質な何かがあることに気付いた。
どこに何があるのかは分からない。しかし、俺は体の中にそれがあることがはっきりとわかっていた。
俺はその何かを探した。探す以外にすることがなかったということもあるが、それ以上に、それが何か確かめたかった。
どれくらいの時間それを探していたかは分からないが、俺はついにあ俺を見つけた。自分の中で。自分の中でということ事態おかしいが、確かに俺は、それを自分の中で見つけてしまったのである。
それは意識だった。俺ではない他人の。
そしていつしか、俺は長方形の長机と椅子しかない真っ白な空間にいた。そして、そこにいたのである。違和感の正体が、それも複数。
そして俺は彼らに
「誰だ?」
と語りかけた。
すると彼らは驚いた様子でこちらを見て、しゃべりだした。
「お前のほうこそ誰だ?どこだここは?私はアメリカへと向かっていたはずでは?」
1つは成人男性の声。
「うるさいわね。まずあんたこそ誰よ。何処よ、ここは!」
もう1つは女性。
声からして30代くらいの男1人と20代後半くらいの女性が1人か。彼らもこの状況を把握していないのか。
「俺は伊賀優一。25歳。名乗ったんですから、そちらも名乗ってくださいよ」
すると以外にも素直に、自己紹介してくれた。
「そうだな。いいだろう。私は桐山典次34歳だ。」
こいつは礼儀正しくて、なんというか軍人みたいな雰囲気がある。多分気のせいだだろう。
「私は星野加奈。年齢は・・・・内緒よ」
「早速ですが、2人はここがどこか、わかります?そして俺たちが今座っている以外にもう1つ椅子があります。それは誰の分なのか、わかります?」
と、質問すると二人は
「わかるわけがない」
「わからないわよ」
と口をそろえていった
まあ、わかるわけないか。というか分かった方がこちらとしては、反応に困る。
「私は飛行機でアメリカへと向かっていたところから一切の記憶がない」
アメリカかあ。俺は日本から出たことがないので、少し興味がる。
「私も記憶があいまいだわ」
予想していたことではあるが、やはり記憶がはっきりとしているのは俺だけか。
「なるほど。恐らく、あなた達は死んだのです」
さっさと事実を教えた。
「なんですって!?まさかそんな」
まあ、急に死んだなんて言われても、受け入れられないだろう。
「私は、そんな気がしていた。まあ、仕方がない。私は命を狙われていたからな。いつか、誰かに殺されるとは思ってはいた」
自分の 死に対して、意外と冷静なんだな、この人。
「あなたは冷静なんですね。死んだという事実が怖くないんですか?」
「ああ、まあ少し驚きはしたが怖くはない」
だいぶ肝が据わってるというか、なんというか。
「もうっ!!落ち着くのよ私!!そんな!!まさか!」
こちらはだいぶ取り乱しているようである。
「質問を返すが、お前はなぜ冷静なんだ?死亡したって、どうしてわかる?」
まあ、そりゃあ聞かれるわな。
「ああ、それはですね。簡単に言うと望んでここに来たというか、なんというか」
「何?お前知っていることをすべて話せ」
「そうよ!話してよ!」
尋問されるなんて、生まれて初めてだが、こんな感じなんのか。いい気はしない。
「はい。まずここはまだ見てないので確実ではないですが、ここは俺たちがいた世界とは違う、別世界です」
「なぜそんなことがわかる?」
「俺は、前いた世界に居たくなかったけど、死にたくもなかったので、別の世界に行かせてくれるように、とある人物に、お願いしたんです。そしておそらくここは1人の人間の体の中。おそらく何かの手違いか何かで1人の体に3人分の魂が入ってしまったということ、ではないのでしょうか?」
と、俺のミジンコほどの信憑性の推理を二人に説明した。
「なるほど。私は死んでいて生まれ変わる際に手違いで、1人の人間の体に入ってしまったということか。他人から見れば多重人格に近い感じということか」
「そんな感じだと思います」
理解が早くてすごく助かる。
「もしかすると俺たちは死ぬまでこの状態の可能性があるということか」
まあ、そういわれてはじめて気づいたが、そうである。
「もう最悪だわ。死んだ上に生まれ変わったら男で、しかもこんな多重人格みたいな状態だなんて」
さっきは流したが、多重人格とはまた違う状態なんだと思うのだが、そういうことにしておこうと、心のうちに秘めることにした。
「悔やんでも仕方がない、まあ、いろいろとこれから頑張るしかないだろう・・・・」
そんなネガティブな口調で、よくもまあそんなポジティブセリフが口から出たな!!
「そうですね」
余計なことを今一瞬言いそうになったのをこらえた自分は、偉いと思う。
「これから一緒に人生を歩んでいくわけだ。もっと気楽にいこう」
なんてことを突然典次は提案してきた。
まあ、悪くはない提案である。
「わかった」
「わかったわ」
まあ、別に断るようなことでもないだろう。
話は変わるが、俺は突然あることが気になった。
「そういえば、お前らに俺らの体の感覚はあるのか?」
「私はない。あるのはこの精神世界の感覚だけだ」
「わたしもよ」
なるほどね、ここで俺は2人に俺の推測を話した。
「多分、この肉体は、本来、俺のものっていうにもおかしいけど、とにかく俺が使うはずの肉体だったんだと思う。俺は今この精神世界と現実世界両方の感覚があって、なんか違和感がある」
そこで典次は、何かを突然ひらめいたように、俺たちに質問した。
「なるほど、私たち2人が存在している理由は何なのだろうな?」
「わからない。でも、これがただの偶然だとは思えない」
「どうしてだ?」
「自分でもわからん。ただそんな気がするってだけ」
わかったとして何になるとも思うが、わからないことは知りたくなるものだから仕方ないだろう。
「最悪の場合私たちはずっとあなたの人生見ているだけなんてこともあるってことね」
「そういうことだな」
そんなことを言われるとなんだか申し訳なくなってきた。
「なんか・・・すまんな」
「別にお前が謝ることじゃない」
「そうよ。あんたが気にしてもしょうがないわ」
ああ。なんていい人たちなのだろう。俺が前世で関わった人間とは、ゴミと仏くらいの差があるように感じる。
「まあ、ともかくだ。俺たちの体が完全に機能するまでは何もできない。だから目覚めるのを気長に待つとしよう」
「まあ幸い話し相手もいることだし」
「それとこれからよろしく」
「ああ、よろしく頼む」
「ええ、よろしく頼むわ」
この人たちに出会えただけでも、ここにこれてよかったと思う。
たとえこの出会いが、誰かが意図していてことだったとしても、俺は気にしない。ただこれからこいつらやこれから出会う人たちと平和に、幸せに暮らせれば。それだけで良い、ただそれだけで。