表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
努力が必ず報われる世界って本当ですか?  作者: 嗄声逸毅
第一章⓪ 『遺書編』
9/18

第一章⓪-8  『何か考えがあるって本当ですか?』

街から少し離れた広場で朝から大人数の野次馬が何かを見ていた。それは、猿回しでもなければサーカスのピエロでもない。そう、奴らが寄って集って見ていたものは『()()』だ。しかも、ただの喧嘩ではない。両者が金品を賭けて同意のうえで戦う、いわゆる『賭博』だ。ルールは至って単純。戦う前に何をどれだけ賭けるのかを提示してから戦うというもの。お互いに武器の所持を許さない代わりに殴る蹴るなんでもあり。勝ち負けの判定は野次馬から選ばれたレフェリーによって下される。が、そのほとんどがレフェリーのジャッジではなくギブアップの宣言で勝者が決まる。

今回の勝者が貰える金額はなんと1万5000キンツ。ここらで行われる喧嘩ではかなりの高額であったために、いつもより野次馬が多く集まった。そして、その戦いに勝利したのは……白髪目ん玉ギョロ目男であった。


「今日もたんまりだぜ。朝早くからこんなに稼げるとはな。やっぱ俺って最強なのか?がはははははは!お?なんだこれ掲示板か?色々書いてあんだなー。この真ん中のでっけーのはなんだ?えー、なになに」


――これって……やばいんじゃ……師匠があぶねぇ!


一方、その頃。ポーテンでは未だに三人の頭の整理は追いつかず、ただ冷たく重い空気が漂っていた。まるで時が止まっているかのように。


「くそっ!なんでこんなことに」


ジャンは拳を強く机に叩きつける。


「なぁ、なんで連れてかれたんだよ……。名前が『フラッカ』だから何だって?そんな法があるのかよ……」


「私達もそんな法は知らない。でも、フラッカが私たちを(かば)ったのは多分、私のせいだ」


「それは、どういうことだエリ。何か知ってるなら話してくれないか」


「うん。二人は、みんなで初めて銭湯に行った日を覚えてる?実はその日にフラッカに話したの。『ジャンにはもう既に話してるんだけど、私のお腹には今赤ちゃんがいるのよ』って。多分あの子、それを気にして庇ってくれたんだ……」


――エリさんのお腹に赤ちゃんが……。そうか、捕まったら子の命が脅かされるかもしれないからフラッカは庇ったのか。でも……。


「それは違うと思います。いや、違うくはないです。でも、それ()ってだけだと思います。あいつは良い奴ですし、もともと人のことを気にするタイプだったし、ここに居るみんなを大切に思ってくれてるって証拠だと思うんだ。だからっ!エリさんが気にすることじゃないって言うかその……」


ダメだ、上手く伝えられない。こういう時なんて声をかけたらいいんだ。


それからしばらく沈黙が続いたあと店のドアを開ける音がし、今まで漂っていた空気が少しだけ浄化された気がした。


「師匠!大丈夫か!」


そこに現れたのはカマチだった。


「おい、師匠はどうしたんだ!まだ寝てんのか?」


カマチはなぜか息を切らして汗だくになっていた。


「フラッカなら今警察軍が連れて行っちまったよ……」


「お前、その時何してたんだ」


「何も……できなかった……」


「何もできなかったってお前!ただ突っ立って見てたっていうのかよ!」


「そうするしかなかったんだ!手を出そうものなら俺らまで捕まるし、フラッカの努力が水の泡になったらどうすんだよ!」


「そんなことはどうだっていいだろ!助けることが優先だろうがよ!」


「おい!いいから2人とも落ち着け!お前、カマチっていったな。フラッカについて何か情報を知っているのか?」


「う、ああ、これを見ろ!掲示板から盗……貰ってきた……!ここに全てが書かれてある」


そう言って片手に持ち見せてきたのは、大きな1枚の紙だった。

俺は即座にそこに書いてあるものを読み上げることにした。


「この度、新たに法律において『フラッカの名を持つものを処す』という法が施行された。その名を持つものは直ちに拘束、そして処刑される……!」


「ま、まさか、あの噂は本当だったのか……」


「噂?ジャン、噂ってなんだよ」


「ああ、いや、それがお前らがここのパン屋を訪れる数日前にある話が街で話題になってたんだ。少し変った法が新たに施行されたってな、しかも人の名前に関する話だって。一応、一回はその名を聞いたが俺でもエリでもなかったからもう忘れちまってて。くそっ……!俺の落ち度だ。ちゃんと確認するべきだった、申し訳ない」


「そうだったのか。まあ、それは仕方ないよ。それより、なぜフラッカという名を持つだけでこんなことになるんだ。ここには理由までは記載されてないよな」


「ああ、俺もそれは思ったけどよ。とにかくやばいぞ」


「早くあの子を助けないと。でもどうしたら……」


それから、みんなしばらくの間黙り込んだ。数秒だったかもしれないし、数分経っていたのかもしれない。すると、ジャンが重く押しつぶされそうな空気を弾き飛ばすかのように立ち上がり、目を見開き話し始めた。


「そこでなんだが、俺に考えがある!いいか?お前らよく聞け。理由は何にせよ、捕まったからには助ける他ない。恐らくフラッカはすぐには殺されたりはしねーはずだ。処刑ともなるとそれなりに時間がかかるはずだからな。つまり、処刑が行われるまでの間に法を変えちまったらいいってことだ」


「法を変える……。なるほど!それならフラッカを助けられる!」


「が、そんな甘い話じゃない。法律なんて一度決まったものはそう簡単に変えられるものじゃないからな」


「確かに、日本でも決まったとこで実際に施行されるのには時間がかかるしな。フラッカの処刑に間に合わなければ意味がない」


「それもだが、俺が気になってるのは警察軍(やつら)の動きが異様に早い点だ。なぜあんなに急ぐのか、それに任意じゃなく令状を持ってきやがった。下手したら、俺らがあれこれする間もなく処刑されてしまうかもしれない」


「おいおい、それじゃーもう師匠は助からねーんじゃ」


「だからそこで考えがある。今さっき思いついたばかりでこれはかなりぶっ飛んだ話だと思うんだが、もう他の方法はないと思う。ナイユフ、そしてカマチ。お前ら2人のどちらかがこの国の()()の1人になれ……!!」


「「お、王子!?」」


「ああ、そうだ。王子の枠は4つある。それは知ってるな?」


「知ってるけど、なんで王子になる必要があるんだ?」


「この国の法ってのはすべてアルバ=フォーティス国王にしか決める権利がない。つまり、その国王に近づいてこの法を変えてもらう他ない。国王は代々フォーティス家が受け継いでいるから国王にはなれずとも、その直属の部下である王子にはなれる!前に言ったろ?王子には男なら誰にでもなれるって!これが最大の近道だ!!」


「待て待て待て、王子になれるって言ったってそんな簡単になれるものでもなければ、明日明後日になればなれるものでもないだろ?」


「ああ、王子になるにはいくつか条件があるはずだ。とはいっても俺はその条件を知らない。なんせ、なろうなんて思った事ねーからな。だから――」


「だから知ってる誰かに聞けばいい」


「ビンゴ!そしてすでに心当たりがある。ワイト王国の中心部にある『ワイト国立図書館』という所を訪れろ。あそこは閉架式の図書館で保存に全振りしているから、かなり状態の良い本が残っているはずだ。そして、そこの館長を務めているのが『()()()』という人物だ。こいつとは顔見知り程度だが、俺の名前を出せば王子になる本や方法くらい教えてくれるはずだ」


「わかった、とにかくそこに行けばいいんだな」


「でもよう、どうやってそこに行けばいいんだ。ここから中心部は相当離れてるだろう」


「それなら心配はない。駅馬車を利用すれば一日と半日ほどで着くはずだ。お金もそんなに掛からずに行ける。今から行けば明後日の昼頃には着くはずだ。だが問題は図書館まで行く駅馬車は事前に伝えておかないとそこまで行ってくれないんだ。基本的に前日までには言っておかないといけないんだよなあこれが」


「じゃー今すぐは無理じゃんかよ。なあ、ほかに方法はないのか?」


「いや、頼めばもしかすると行けるかもしれない。行くだけ行ってみるか?」


そうして俺とカマチはジャンに渡された地図を頼りに、近くにある馬小屋に行くことにした。悔しいことにカマチのおかげでそこに辿り着くことが出来た。本来は駅馬車専用の駅で待つのだが、出発する前にお願いをしに来たのだ。


「構わないですよ」


「本当ですか!」「本当か!」


「ええ、もともと本日は国立図書館に向かう予定でしたから」


もともと?てことは先客がいるのか。


「そりゃー助かるぜ!じゃー頼む!」


「ですが、四人乗りでして三人の先客がおりますので一人のみ乗車可能でございます」


まじか……俺か、カマチ。どっちがいくべきだろうか。


「ならよかったぜ。ナイユフ、お前がいけよ」


「えええ?いいのか?でも、もうこれ逃したら明日以降になっちゃうんだぞ?」


「かまわねーよ。俺は俺なりにできることをすりゃー良いだけの話だろ」


「わかった、任せるよカマチ。じゃーおじさん頼みます」


その後すぐにカマチは別れを告げ、その場を去っていった。


ということで俺だけが駅馬車に乗り、図書館へ向かうことになった。ジャンとエリさんはいつも通りとはいかないが以前のように二人でパン屋を回すつもりらしい。「心配するな、二人でどうにかやっていくさ」とかっこいいセリフを俺に残して見送ってくれた。

カマチはどうするつもりかは分からないけど、あいつは俺にはない何かを持っている気がするからきっと大丈夫だろう。


遠くの山でも見ながらしばらく待っていると、馬小屋からおじさんが駅馬車に乗って出てきた。同時におそらく一緒に乗車するであろう三名も姿を現した。三人とも茶色のマントを羽織り、顔はフードで覆い被さっておりよく見えなかった。


「少し狭いんでね、詰めて座ってくださいね」


おじさんの言う通り、中は少し狭かったが天井の高さがあり、そこまで圧迫感はなく割と快適そうであった。


四人とも乗り終えると、おじさんの出発の合図とともに馬が動き始めた。


ヒヒーン!!(馬の鳴き声)


人見知り気味の俺には、この空間はなかなかにきつく一日半も耐えきれるかどうか心配だった。

すると、向かいに座っている一人の男が俺に話しかけてきた。


「ねー君、名前は?」


落ち着きがあり、俺より少し年上くらいのその男。


「あ、俺ですか。ナイユフです」


「ナイユフか、いい名前だね。俺は()()()()、んで僕の隣に座っている彼女が()()()()()、そしてナイユフの隣の彼が()()()()。少しの間だけど、どうぞよろしくねっ」


「あ、はい!こちらこそよろしくお願いします」


「早速なんだけどさナイユフ、君はニワトリかタマゴどっちが先だと思う?まぁ、ほら時間つぶしにちょっと付き合ってくれよ」


いきなり何を言ってるんだこの人、初対面の人への質問がこれか。


「ああ、えっと俺はニワトリだと思います」


「へぇー、どうして?」


偉く食い気味だな、この人。


「多分なんですけど、最初鳥は別の生き物で鳥類ではなく哺乳類とかそんな感じの生き物だったんじゃないかと思ってます。きっと途中で卵を産むようになったんだと思います」


「なるほど……。僕とまーったく一緒!珍しいね、同じ考えの人に会うのは初めてだよ」


「そ、そうですかね」


「初めは確かにそうだったんだ。でもねー、僕は考えていくうちに段々とタマゴが先なんじゃないかと思ってきたんだ。きっとどこかの誰かが、白く丸い物体を生み出してそれからニワトリが産まれて初めて、『タマゴ』って言われたんじゃないかなって」


「なるほど、その考えもいいですね!」


「だろっ!ところで、君よくパッと答えれたね。そういうの興味あったりするの?」


「ああ、いや、以前そのようなことを聞かれたことがあったのでその時に一度考えてみたって感じです」


「なるほどねー。で、今日は何しに?」


「まあ、色々とって感じなんですけど。スジグモさん達はどうして図書館に?」


「あー、僕たちは、本を納めに行くだけだよ。たった一冊なんだけど、その本っていうのがなかなかに大事な本でね。だからこうやって三人で馳せ参じるわけ」


「へぇーすごいですね!大事な本って具体的にはどういった内容の?」


「あーえっとねー」


「ちょっと、スジグモさん!いくら良い人そうとは言えダメです!」


「そうですよ、機密情報なんですから」


「ごめんごめん、そうだった。ということで今の話は無しね」


「ああ、いや全然お気になさらず」


少し気にはなるが、機密情報というならいたし方ない。ここは聞かなかったことにしよう。


しばらくたわいもない話で盛り上がっていると、馬車が止まり。


「そろそろここで、昼にしましょうか」


げ、そういや何も考えずに来たから昼飯のこととか考えてなかったわ、お金は持ってるけどここ森のど真ん中だし。ああどうしよう。


「どうしたんだ、ナイユフ?もしかして昼飯を忘れたのか?」


「実はそうでしてー、でで、でもお構いなく!全然全く腹減ってないんで!」


ぎゅるるるる。


――おいいい!こんな時に俺のお腹のバカっ!


「なんだ、減ってるんじゃないか。俺の少し分けてやるよ、ほれ」


そう言ってグランドさんは俺に、おにぎりやおかずを分けてくれた。


「こんなにいいんですか!」


「いいないいなー、俺にも分けてくんないかなー」


「ちょっ、スジグモさんはあるからいいじゃないですか」


「え~ほしいほしい」


「絶対に上げませんからね。んたく、スジグモさんという人は」


「ナイユフ、私のも少しやろう」


「ハンドレアさんまで!こんなにいいんですか?お二人とも」


「ああ、構わないよ」


「ちょっと待ってよ、これだと僕だけが上げずにめっちゃ嫌なやつみたいじゃんか」


「なら、上げたらいいじゃないですか」


「同意します」


「ひぃ~2人とも冷たすぎない!?じゃー、ほら仕方ないから僕のお肉上げるよ。倒れたりしたらいけないからね」


「「ちいさっ!!」」


「いーじゃんかよ!」


「あ、ありがとうございます」


果たして、この三人はどういった仲なのだろうか。ただの上司一人と部下二人には見えず、上下関係で表すと上司のスジグモさんがなぜか下に見えるという矛盾。


「それでは、出発いたします」


昼休憩が終わり、再び馬が走り出した。


道中に、寝泊りができる小屋があるらしく、今日はそこで一晩過ごす予定になっている。段々と日が落ちるにつれ眠気が俺を襲う。うつろうつろになりながら真っ赤に染まった夕日が森から姿を消えようとしていた頃。


「あーおじさん、僕たちはここまででいいよ」


「えっここで?でもまだ図書館に行くにはかなりの距離がありますよ?それにもうすぐ日が落ち、森は真っ暗で危険です。猛獣が出るやもしれませんよ」


「大丈夫大丈夫、ちょっと予定を思い出したからさ。お金はほらこれ、図書館までの料金を三人分入れてあるから」


「ああ、はぁ。では、本当に大丈夫なんですね?お気をつけてくださいよ」


「ちょちょっと、もう降りちゃうんですか?まだ小屋にも着いてないですよ」


「悪いねナイユフ、最後まで一緒にいられなくて。まあ、またいつか会えるよ」


「そう、ですね。予定があるなら仕方ないです。また会いましょう」


「うん。じゃーおじさん、ナイユフをよろしくね」


ヒヒ―ン!!(馬の鳴き声)


三人は馬車から降り、小さい豆粒になるくらいまで俺たちを見送ってくれた。みんな親切な人たちだったな。また逢えたらいいな。





――(馬車を降りた三人)――


「悪いね、色々と話し合わせてもらっちゃって」


「いえ、構いませんよ。さすがにあの状況で我々の真の目的を話すわけにはいきませんから。我々二人は話を合わせることくらい容易いことです」


「スジグモさん、お見事でした。あの質問をされた時、私は冷や汗を掻くぐらい焦りましたよ」


「ナイユフは間違いなく善人だ、だからこそ巻き込むわけにはいかない。彼に危害が及ぶ前に別れられてよかったよ。さっ、図書館までは歩いて向かうとしよう」

最後まで読んで頂きありがとうございます。


次話からいよいよ第一章①に突入します!!読者の皆様には感謝です!

引き続き第一章にはなりますが、新編になりますので楽しみにお待ちください。


どうやら『いいね機能』というものが実施されているそうなので少しでも面白いなと思った方はいいね!をお願いいたします。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ