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努力が必ず報われる世界って本当ですか?  作者: 嗄声逸毅
第一章⓪ 『遺書編』
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第一章⓪-5  『埋めてはいけないって本当ですか?』

前回までのあらすじ

――なんやかんやで異世界に存在する水球という星に転移したナイユフこと宮凪秀一は、リアルでは同じ高校で、かつ、秀一が一目惚れしたフラッカこと相澤夢乃となんやかんやで出会い、あることを機にカラルナの街にある『ポーテン』という名前のパン屋で働くことになった。そして、ナイユフとフラッカを水球に送り込んだ張本人である鬼丸病院の院長(鬼丸京)に手紙で京の父である優作の遺書探しを頼まれてしまう。この物語は、なんやかんやで赤の他人の遺書を探すことになった宮凪秀一のなんやかんや遺書探し冒険譚??である――

一番乗りだと思っていたが先客がいた。同い年くらいの白髪(はくはつ)の少年。一瞬こちらを睨んだようにも見えたがすぐそっぽを向いた。


「おっ、いい感じの湯加減だな」


「いい感じねぇ……」


俺にはどう考えても人間が入っていいような湯気の量じゃない気がするが……。俺は恐る恐る足先を湯に突っ込んでみた。


「いーやあっちーよ!!」


「お前にはまだ早かったか」


ジャンは軽く俺をあざ笑う。まるでガキ扱いされてるみたいで少し腹が立つ。


「マグマだよマグマ!火傷しちゃうよ!もしかしてこれがさっき言ってた、『入ったらわかる』って例の奴なのか」


「ああ、その通りだ。俺はこの湯加減がたまらねえんだ。なんつーか、こう、生き返る感じ」


まるで天国にいくかのような脱力した笑顔を見せた。だがしかし、いくらジャンにとってはいい湯加減でもこれはさすがに埋めよう。


「先に言っとくが埋めるなよ」


ギクッ。


「あはははは、まさかそんなことするわけ」


「埋めるなよ?」


圧が異常にかかるのを感じた。仕方がない、一旦諦めることにしよう。


 マグマに浸かり始めて数分が経った。最初は我慢していたが段々この温度にも慣れてきた。そこで、急にジャンは頭に乗っけていたタオルを手に持ち立ち上がった。


「ちょっくら汗流しに行ってくるが、ナイユフはどうする?」


そう言って左手の親指で向こうを指していた。どうやら、サウナに行くらしい。


「いいよ、俺は遠慮しとく。熱いの苦手だからさ」


実は以前、サウナには一度だけ入ったことがある。あの時はマジで死ぬかと思った。唇のヒリヒリに耐えられず一分もせずに出た覚えがある。


「わかった、のぼせる前に先上がってろよ」


 それからしばらくの間、湯に浸かっていたがだいぶ頭がぼーっとしてきた。ジャンはいないし、そこにいるのは同い年くらいだろうから俺みたいにこの熱さは耐えれないはず。よし、埋めちゃおう。

俺はジャンがサウナから出てこないことを確認して早速、キンキンに冷えたであろう真水を出すために蛇口をひねった。と、その時。


「なにしてんだボケがぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!!!」


いきなり大きな声が聞こえ、後ろを振り返ったがもうその瞬間(とき)にはすでに俺の横っ腹に強烈なパンチが食い込んでいた。


ぐはっ。


あまりの衝撃に俺は重い悲鳴を上げた。


「なに……すんだよお前」


「何って、殴っただけだろ」


「だからなんで殴ったんだよ!!」


「んなこと決まってんだろうが!ここは銭湯だぞ?なんでテメーは水を入れてんだ!!」


「なんでってそりゃー熱いからだろ」


「非常識かテメーはよ!」


……はぁ、なんなんだこいつ。


「非常識っておめーな、初対面でいきなり殴るやつに言われたくねーんだよ!だいたい誰だよお前」


「あ?俺か?俺の名前はカマチだ!!」


「カマチ??」


「あぁ、そうだ。俺のことはカマチ様と呼べ」


「ふっ、カマチョ」


「おいテメー!いまボソッてなんか言ったろ!!かまっ、かまなんとかって言ったろ絶対!」


「はいはいわかったから、もう埋めないからさ。お願いだからあっち行ってくれよ」


あまりにうるさい奴は幼馴染の優葵で充分だ。これ以上俺の周りにうるさいヤツは置きたくない。


「こっちのセリフだ!テメーのせいで湯が温くなっちまった。もういい、俺は上がる」


カマチと名乗る男はスタスタと浴室から出ていった。


――何だったんだあいつ。ただの銭湯狂か?


白髪オトコが風呂場を出て直ぐに入れ替わりでジャンがサウナから出てきた。


「どうしたナイユフ?大声が聞こえてきたから出てきたんだが――なんかあったのか?」


ジャンは驚いた表情でこちらに向かって来た。


「あいつだよ、さっきまでそこで湯に浸かってたやつ!誰なんだよまったく」


「ああ、あのガキんちょか」


「そう!あの白髪で目がギョロってしてるあいつ」


「多分あいつも俺らと同じ地球人だぜ」


「――なんだって!?あいつも地球人なのか」


なんと、早くも地球人三人目が見つかったのだ。


「俺らと同様にいきなり飛ばされて水球(ここ)に来たって感じだろうな」


その時、昨夜の手紙のことを思い出した。


「いや、それは断言できない。俺とフラッカが病院からここに送られてきたことなんて昨日知ったばっかだし、もともと知り合いだったってわけでもないし――」


「病院から送られた?なんだそりゃ。送られてきたってお前ら二人とも俺と同様、急にここに来たんじゃねーのか?」


――そういや、ジャンとエリさんにあの手紙のことまだ話してないんだった。


「それがどうもジャンとは違うルートで来たみたいなんだよ」


「違うルート?それってお前、まさかここに来る時の記憶があったってことか?」


「まあ、そんな感じなんだけどまた詳しい話は今日の夜にでも話すよ。それにしても、ジャンはどうやって来たんだろうな」


「さーな。気づいたらこの地を踏んでたって感じだ。それは俺にもよくわからん。あー、でもほかにも聞きて―こととか知りて―ことがいっぱいあんだろ?ゆっくりでいい、知ってることは俺がちゃんと教えてやる。水球(ここ)についてな」


2人は男湯を上がって体中をタオルで拭き少ししてから、待ち合わせの場所に向かった。そこにはもうすでに髪を乾かし終わり右手には牛乳瓶を持ち、もう一方の手を腰に当ててぐいっと流し込んでいる2人がいた。


「わりーな、少し遅くなっちまった」


「大丈夫よ、私たちが早かっただけだから」


「牛乳なんて贅沢しやがっていいなぁ」


「何言ってんのよ。2人とも口周りが真っ白よ」


「あ……」


俺とジャンは目を合わせて、思わず笑い吹き出した。エリさんもフラッカも一緒に笑い始めた。エリさんたちには内緒で飲むはずだったが完全に墓穴を掘った形になってしまった。


「まぁ、それ飲んだらいこうぜ」


2人が瓶を捨てたことを確認して、パン屋に帰ることにした。


そしてパン屋での初めての仕事が始まるのだった。

次回の投稿予定日は12月12日(日)です。

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