大魔法禁止法
小学6年生の阿部のんは、学校のみんなに秘密にしている事がある。
この子は”魔法少女”である。
いくつかその魔法を使えるが、……その危険性はそうだな。
「知らない人についていかないって、お母さんに言われてるの!!”竜巻招来”」
ドピュ~~~って、可愛らしい擬音が出るのであるが。
歩み寄って来た変なおじさんに向かって、牛も家も空高く吹っ飛ばす竜巻を起こすレベルが標準ぐらい。つまりは関わったら危険。
「ぐへぇっ」
連れ去りたいほど、独占したいような可愛らしさでも、余裕の抵抗をしちゃうのんちゃんの実力。それを目の当たりにしたのんちゃんの仲間である女子大生。地面に頭を打ってノビてるおっさんの心配よりも、
「のんちゃん!スカートが捲れてパンツ見えてたよ!」
「ひゃあぁっ!そーいう事を言わないでくださいよ、ミムラさん!!」
◇ ◇
「”雷鳴刑刹”の方が良かったですか?」
「詠唱するのは何でもいいよ」
「のんちゃん、風属性なんで雷属性はあまり得意じゃないです」
とある喫茶店にて、のんちゃんの仲間達が集まってのいつものお話タイムである。
久しぶりに変な人を魔法で退治してしまった、のんちゃん。竜巻なんて引き起こしたものだから
「危ないじゃない!周りの事を考えて魔法を使いなさい!」
変なおっさんもそうだが、それに巻き込まれた家や道路には傷がついたりと……修復こそしてあげたが、目立ちでもすればもっと大変になっただろう。
女子大生の沖ミムラもこの手の異常者であるが、魔法だなんて事は奥の手になっている。
それはそれとして、
「ミムラさんの場合、運命を操って人の心臓と脳の動きを止めちゃうじゃないですか……どっちが危険なんだか」
「コラー!私は自発的にやってません!!かかとおとしか、回し蹴りで昇天させます!それくらいスマートにやりなさい!」
ぷんぷんと、長いツインテールを揺らして、小学生ののんちゃんを相手に抗議をするミムラ。
そんな2人にメニューを運ぶ店主のアシズム。
「まぁ、のんちゃんも相手も無事で何よりじゃないか。ミムラちゃんもその辺でいいだろ」
「まー、いいですけど。もうちょっと、安心できる魔法で……」
「ミムラさんの超能力の方が1000倍ヤバイですから。制御できない運とか、のんちゃんより酷い」
「言わないでよ(泣)!!」
改めて言うが、ミムラはのんちゃんのお母さんではない。同類に近いスペックを誇るが、
「そーいう危険魔法をなんで使っちゃうの!向こうじゃそーいうのバンバンだったの!?」
回し蹴りもいいとは言えんけど。竜巻を引き起こすほどの魔法で撃退しちゃう。ミムラの言うスマートさは確かに欲しいところ。
これには生まれと育ちに関係があった。
ミムラは地球育ち、日本生まれ。対するのんちゃんは異世界生まれ、異世界育ち、日本に移住。
「そーですねぇ。のんちゃんも詳しくないんですけど、……のんちゃんが生まれる少し前に”大魔法禁止法”っていう、世界の法が制定されたんです」
幼少の頃から魔法使い、大魔法使いなどを目指す者達。日々の勉強、練習、実践。それらを経て、挫折をしたり、超えられない壁を感じたり、死んでしまう事もある。
特に子供の魔法使いにとって、”大魔法”と称されるほどのレベルを早期に習う。
これは魔法使い達に早く己を知るための事であり、当然、知らなければその代償で挫折以上の事もある。
子供達がそれの代償で死んでしまうのも珍しくはなかった。
「そーいう魔法事故を失くすために、”大魔法禁止法”っていう。大魔法を教える時間や使用を失くしたんです。ホントに一時的ですけど」
「え?なんで……?」
ミムラの頭の中では、自分も巻き込む爆弾を教えないという事は平和で良い事だと思ったのだが。
のんちゃんから意外な事実が
「”大魔法”を使えない子供の魔法使い達が、悪い魔法使いや魔物に攫われる事例が増えたんです。”大魔法”の未熟者でも使えば自爆に近く、誰もそーいう悪さをできなかったんです。抑止力って言うんですか」
「………あー。なるほど」
理解するのに、ちょっと時間はかかったが。確かに確かにって、納得したくはないけど……理解はした。
だが、その理解よりもその現実はちょっと悲惨で
「そもそも”大魔法禁止法”を発令した人が、後に子供達を攫って売っていたていう事実が判明したらしくて。その法律は世界で撤廃されたんです。か弱い人達を攫うためにそんなルールを組み込むなんて!」
「……のんちゃんって、手強いね。そこまで私には考えがつかなかった」