ごえん
知人との待ち合わせまであと20分。
ちょっと早すぎるな、コンビニ行って時間を潰すか。
珍しく旧知の知人に呼び出された私は、待ち合わせの喫茶店近くのコンビニ前で、スマホをヒップバッグにしまいこんだ。
馴染みのコンビニに入って、新発売のお菓子をチェックして回る・・・おお、このフリスク新しいやつだ!よし買うか。おお!冬のチョコシリーズもう並んでる、よし買おう。おほ!でかすぎるやきそばの新しい味、キター!よし買おう。何だ、肉まんの新商品出てるじゃん、今から喫茶店行くけど一個ぐらいだったら食べても問題ないな、よし買おう。しまった、パックジュース買うの忘れたって、なにこれ飲んだことない乳酸菌飲料出てる、買っとかないと。…おかしいな、いつの間にやらカゴの中がいっぱいだ、まあいいか。
「えっとおっさんの分は確かうん、しまった契約書かいてないや、でも明日は晴れで、ええと、五円、五円足りない、どうしよう…。」
いっぱいになったカゴを抱えてレジに向かうと、なにやら若い男性がおたおたしている。少々困り顔のコンビニのお姉さんの目の前には、包まれた肉まんとフランクかあ…やっぱり買うのやめますっていいにくいアイテムだな。というか、店側も買って欲しいよね。
「はい、五円、あげる。」
「はへっ?!アアアア、ありがとうございます!!!」
実はさあ、いつも1000円札出して買い物しがちでさ、財布の中には五円玉やら一円玉やらめっちゃ入ってるんだよね。こういう場面に出くわした時にすかさずご提供させていただいておりますのことよ。
男性は、頭を下げ下げ、スマホを持ち持ち、一瞬買ったフランクを置き忘れつつもコンビニをあとにした。…なんかのんびりしてるわりに忙しい人だな。
「ふふ、ありがとうございます、いつも太っ腹ですね!!」
「まあね、地味に本当に太い腹してるし!!ギャハハ!!!」
このコンビニのお姉さんは仲良しなのさ。…もともと私もコンビニで働いてたもんだからさ、こう、仲間意識というかね。大量に買ったアイテムをぴっぴやりながら和気藹々と会話を楽しんだり。
「はーい、全部で2999円ですー!」
「はーい、ねえねえ、十円九枚と一円九枚出すからちょっと待ってね。」
ずいぶんすっきりした財布をしまって、大きなレジ袋を抱えつつ、口には明太もちまんをくわえてですね!!私は待ち合わせの喫茶店へと向かったわけですよ。
「やあやあ、こんにちは。本日はお日柄もよく、はい。」
「なに、一体どうしたの、いきなり電話来てびっくりしたよ……って!!この人!!!」
珍しくスーツを着こんで人らしく振舞っているええと、人の姿のときは榊原さんだったな。この人さあ、普段は黒い人やってんのさ。…白々しく人のふりをするおじさんの横には!!!さっきコンビニで会った男性が!!!
「わは!!!さ、さっきはありがとうございました!!!ええ、すごいな、ううむ、ハイ?!」
「なんだ、もう会ってたんですか、なら話は早いですね、ええ、どうぞお座り下さい、はい。」
ええと、これは一体。これから何が始まるというんだい。
私はいぶかしげな面持ちで、やけに重厚な喫茶店のソファに、沈み込ませていただいたわけですけども。
「ええと、本日はですね、ちょっとお伺いしたいことがございまして、ええと、こちらはですね、私の旧知の友人でみっちゃんです。」
「は、はじめまして、僕、榊原さんの知人の、藤吉光義と申します!!ええと、年は26で、ええとおおおお!!!!」
・・・なんだ、これは一体。
なぜこの藤吉君は私を上目遣いで見るのか、そして時折目を完全にそらすのか。やけに赤い顔をしつつも、たまに青くなる一瞬があるのは何でなんだ。
「ちょっと!なにこれ!お見合いみたいじゃん!!ウケる!!!すみませんねえ、私主人も子供もおりましてよ!ふふ、ははは、あっハッは!!!」
「いえ、娘さんに縁談です。」
・・・はい?
「奥さん、娘さんいましたよね、この方いかがですかね。ちょっと残念なところありますけど、好青年ですよ。」
「ちょ!!残念って言わないでよ!!!真面目がとりえの、誠実な一般男性です、どうか、どうかお願いします!!!」
縁談て!!!ちょっと待て、娘はまだまだ子供でって、そういえば二十歳越えてるけど、いやいやあの子は童顔でどう見ても小学生の顔つきで、でも体だけは大人を凌駕するボリュームでって!!!
「はあ?!ねえ、何言ってんの、うちの娘ぇ?いるけど、何、本気なの、ええと、ハイ?!」
いきなりのことに・・・頭がパニックだよ!!!マジで?!うーん、まじか、そうか、そういう年ごろか。なるほど、私も年をとるわけだな、こりゃ…。斜め前に対面する藤吉君は手元のお絞りを見つめている。確かにまじめそうだな、だがしかし。
「みっちゃんはですね、ちょっと特殊な人でして!ごく普通の出会いがしたいと願っててですね、でも、ごく普通の人じゃなくて気の毒で、奥さんだったらいい感じに何とかしてくれそうだって思ったんですよね。」
「そりゃ、まあ、榊原さんの知り合いって時点でお察しなんですけども?!」
そもそもこの人、普通に人間…だよね?怪しいな、ゾンビなのか?それとも狭間の人?…さては宇宙人だな!!!観察園行きにするつもりなら許さん!!!
「奥さんの知り合いに良い人いないか伺おうと思ってたんですけど、そういえば娘さんいたなってですね、気がついちゃったんですよねえ。」
「あたしの周りには普通の人しかいないんでね!!!ちょっとご期待に応えることはできかねますね!!!」
強気の発言を飛ばすも…目!!目が真剣過ぎる!!!この目の光はただの人間だ、いやしかし怪しいな、絶対何かあるぞこれは。
「僕ごく普通です!!僕もごく普通のお嬢さんを捜しててですね!!!まずは親御さんのですね、ご理解とご協力をですね!!!」
アカン!!これ本気の縁談希望だ!!!これは適当にかわせそうにないぞ。ふうむ、真摯に向き合ってみるか。
「ええとね、うーん、どうだろ、ええ、ほんとに娘?うーん…、うちの子はちょっとこう、いろいろとですね、ええ、まじですかうーん。」
「…多少の不都合はですね、大丈夫なんですけどね、どうでしょう、一回だけ、会ってもらうというわけにはいきませんかね?」
榊原さんのこのごり押しは何なんだ。
「うーん、うちの娘はねえ、料理一切できないんだけど。」
「僕料理得意ですよ!」
「ええと、うちの娘はねえ、かなりボリューミーででしてね。」
「僕心が一番重要だって思ってるんで!」
「うぬぬ、あの子ねえ、何にも考えてなくてですね。」
「これから一緒に考えていけたらと思ってます!」
ねえ、なんでこの人こんなに必死なの?こわいよ…。
「あのですね!!僕、本当に出会いってもんがなくってですね!!僕は今までいろいろと拗らせすぎててですね、この黒いおっさ榊原さんにですねっ!!」
「この人気の毒なんですよ、何とかなりませんかね。まずは親御さんの許可を頂きたくてですね、こうしてやってきたことを汲んではもらえませんかね。」
気の毒な人、ねえ。
…だったら、気の毒なことに巻き込まれないように、してあげたいとも、思うんだよ。
「なんというか、本人に聞いてみないとわかんないなぁ…。」
「聞いていただけたら、幸いですっ!!!」
…聞いたところで、ねえ。
「でもねえ、あの子…うちの旦那に会うために生まれてきてるから、ほんと申し訳ないんだけど、恋愛するために生まれてきてないのさ。」
…目的達成してるから、あとは最後までのほほんと生きるだけって言うか。
「だから、出会ったとしても、唯一無二のものすごい熱烈な恋に落ちることはできないと思うよ…。」
…恋を願うのであれば、他の人を探した方が。
「一緒にですね!!!のほほんと!!!、楽しく生きていていただけたらそれだけでいいんです!!!」
「あんまり気乗りしないなあ…。」
私は、少し冷め始めてしまったコーヒーを、ひと啜り。…断るフレーズを、ひねり出そうと。
「お願いします!!!僕に平和な人生を歩ませてくださいよ!!奥さんだってそんなすごいステータス持ってるくせにめっちゃ普通に生きてるそうじゃないですか!!ちょっとくらいその平凡分けてくださいよ!!」
はい?!何言ってんのこの子!!!
「ちょ?!何それ!!平凡は自らの手でつかんでなんぼじゃん!!そういう他力本願なとこがダメなんだよ!!これだから最近の若いもんは!!!」
「まあまあ!!!みっちゃんもちょっと…必死過ぎだって!!!今日は一点集中しろっていったでしょ!!まずは会わせてもらわないと!!目的忘れちゃ、駄目!!」
真面目そうだし大人しそうだけど、それ故かやけにこう、いまどきの若者っぽいというか、人をアテにする感じ?舐めたこと言ってるとおばちゃんは許しませんよ?!
「保有スキルに仲間の多さ!パッシブスキルとレベルの高さ!!俺を凌駕する能力持ちでレベル8ぴ…「ちょっと!!!」」
やっぱり!!!黒い人経由なんだから普通の人じゃないって思ってたんだよ!!!・・・この子、やっぱり何かあるんじゃん!!!いろいろぶち壊すつもりならこっちにも考えがありますけど?!
「いい?!あたしはごく普通のおばちゃんです!!!今後おかしなことを口にしたら、一切合切の縁を切らせていただきます。」
「そんな殺生な!!!」
がっくりうなだれる藤吉君。なに、これじゃあ私がイジメてるみたいじゃん!!心象悪いな!もう!!!
「私との縁は切らないでくださいよ?!」
「…今後の対応内容にもよりますけど。」
おじさんを睨み付けておくことを忘れずに、と。ふうん、人のふりしてる時は汗がたれるんだね、おしぼりで額とか拭いてる、その体は脂性なんですか、そうですか。
「・・・娘には聞いてみるよ。」
「本当ですか!!!!!ありがとうございます!!!」
まあね、縁があるなら、うーん、あるかな?
「ただし!!!おかしなことを一言でも言ったら…。」
「絶対言いません!!ええ、必ず言いません!!!」
・・・縁がありそうだよなあ、五円あげちゃったしなあ。
「ははは!!イイ感じにまとまりましたね!」
やけににこやかな人あらざるものと、赤い顔した怪しげな能力を持つ人間を前にして、私はそっと腕を組んで、天井をぼんやり、見つめつつ。
「まとまるかどうかは、まあ、君の力量次第だね。ご縁がなければ、それまでだよ。」
「ご!!五円は必ずお返しします!ですから、このご縁をぜひ!!!」
五円すら持っていない君の懐具合がね、いささか気にならないでもないけどね…。
…まあ、いろいろと積み上がってるから、大丈夫かな。
「榊原さん、この子今無一文なんだよ、いい仕事紹介してあげなよ…。」
「なんだ!言ってくれればすぐに仕事紹介するのに!」
「違うんです!!僕電子マネー使ってて!!さっきはたまたま・・・!!!」
五円の縁が、どんなご縁になるのやら。
やけに騒がしいお茶の席で、私はぼんやり、事の行く末を案じるので、あった。
ちなみにみっちゃんの正体はこちらです(*´-`)
https://ncode.syosetu.com/novelview/infotop/ncode/n6181go/