7話 有無を言わせぬ沙弥先輩
「こっちは、私の幼馴染みで生徒会をやってる高輪美里」
「因みに沙弥と同じ二年だよ~、宜しくね」
「はぁ……………一年の柚原水樹です」
会話の頻度上がるとか冗談じゃねえ。俺をなんだと思ってるんだ。……………ぼっちにはきつい。コミュ力はなくとも、コミュ障じゃない。ここ重要。っていうか、あんたも生徒会か。…………生徒会大丈夫か?
「とりあえず、立ってるのもあれだし、座って」
俺のベストプレイスが…………。っていうか、沙弥先輩。そこ、沙弥先輩のベンチじゃないから。俺のベンチだからっ。勝手に友達呼ばないで(懇願)。
俺は沙弥先輩に勧められるままに、ベンチの一番右端に腰を下ろす。隣には沙弥先輩。その隣には、美里先輩が。
「………………小島先輩。生徒会の仕事は終わったんですか?」
早く仕事行け。コツコツ仕事片付けろ。俺のためにも。
「う~ん……………今日は気が向かない」
それでいいのか。生徒会書記。あそこって、真面目のど堅物しかいねえんじゃなかったの?(偏見)
というか、この先輩、見た目落ち着いてそうなのに随分マイペースかましてんな。……………そうか、マイペースだからか。妙に納得すんじゃねえよ、俺。
「沙弥はこう見えても、仕事早くできるタイプだからねー」
どうも見えません。……………俺の目は濁っているのか? 濁ってない…………はずだ。断言できないのが悔しい。…………いや、ちょっとだけだからな? 俺のメンタルは鋼です(実際は豆腐以下)。ぐすんっ。
俺は鋼のメンタル(実際は豆腐以下)で、開き直りつつ、持ってきた弁当を自分の膝の上で開ける。
「あ、今日は弁当まだなんだね」
「………………ええ、まあ」
今日は睨まれまくってんだ。そんな中で弁当なんか食えん。目ぇ瞑りながら食べられるようになりたい。眠れるようになればなお最高。教室戻ったら早速練習しよ。
「それってもしかして手作りー?」
「……………そうっすね」
悲しいかな。どっかの陽キャみたいに、「そうなんだよー! 実はさ─────」なんていうコミュ力はない。欲しいと思ったことは一度もないっ。………………妬んでるわけじゃねえよ? 勘違いすんなっ。………ツンデレじゃん、こんな属性いらねえよ、くたばれっ。
俺は一応、それなりの料理スキルは持っている。なんなら、晩飯作る時だってたまにある。……………そういうのは似合わない? バリバリ似合ってるつーの。
「へぇー、おいしそー……………。私に一口くれる?」
…………………いやいやいや、まじで? この流れは想定外。普通言うかね? 男子同士ならまだしも、男女間はないって。っていうか、やめろ。…………男子の友達すらいないって珍しくね? 世界三大珍味軽く越えてるわ。
「そんな嫌そうな顔しないでよー。冗談だから」
…………………冗談? 冗談だったの、あれ。てっきりまじかと思ったんだけど。…………俺ってそんなに顔に出やすいか?
さっきから沙弥先輩が俺の弁当に釘付けなんですけど。……………もしかして。
「………………食べたいんですか?」
「……………うん。おいしそうだし」
コクコクと頷く沙弥先輩。なんか、小動物みたいだな。…………可愛いとか思ってないからな? 今思ったけど、「食べたいんですか?」って聞いて的外れだったら恥ずかしいやつじゃん。そうだったら、惨めだったわ俺。
………………まあ、いいか。
「………………じゃあ、卵焼きならいいですよ」
「ほんと……………!?」
キラキラ瞳を輝かせる沙弥先輩。……………クールキャラはどこいったんだ。お留守番でもしてんのか?
「じゃ、じゃあ……………」
沙弥先輩は俺の弁当から卵焼きを一つ、箸で取ると自分の口へ運ぶ。
「………………!! おいしい…………!」
沙弥先輩は頬を緩ませた。
「え、ほんとに? ねえ、水樹。やっぱり私にも一口分けて」
ナチュラルに名前呼びしてんじゃねえよ。…………まあ、別に気にせんけども。
結局、二人とも俺の卵焼きを食べた。食べた……………って、残り一つしかねえじゃん。何個食うんだよ。
「……………あの、卵焼き全部食うつもりですか?」
俺の言葉に二人はハッとした。
「……………おいしくて、つい…………」
「いやー、想像以上だったもんだから、箸が止まらなかった」
……………はぁ。美味しかったんならまあいいや。…………って、俺、絆されてね? おかしい、何かがおかしい。どこで筋書きが狂った? ………………最初からだよ、くそやろう。
「あ、言い忘れてたけど、私のことは沙弥でいい」
「……………沙弥先輩とお呼びすればいいですか」
ハードル高っ。それでも俺は飛んでみせる。……………こんな熱血馬鹿じゃねえよ、俺。
「先輩はいらない」
「いや、でも……………」
「いらない」
「そういうわけには………………」
「抜け」
「………………はい」
俺は渋々頷く。さっきまでの決意なんて、もうミジンコのように消え去った。
「………………沙弥、でいいですか?」
「うん、よろしい」
微笑みかける沙弥。……………穴があったら入らせて(切実)。隣の美里先輩は、俺達二人のやり取りを見てくすくすと笑っていた。……………恥ずっ。
俺は、早く昼休み終わんねえかな、なんてことを考えつつ、昼飯を食った。…………会話のキャッチボール? 何それ? 暴投投げていいすか? いや、やっぱりスルーでお願いします。