2話 唯一の
遅くなりました。
「やることなくて、暇だなぁ………………」
皆さんはお気づきかもしれないが………………俺はぼっちだ。別のクラスには一応話せる奴がいるのだが……………まあ、それはのちほど紹介しよう。
「席についてね~。現代文の授業を始めるよ~」
現代文の授業の担当が教室に入ってきた。現代文を担当するのは、久藤花奏先生。なんというか……………ふわふわした先生だ。ふわっふわ。ふわっふわ? ふわわ? まあ、そんな感じ。結構美人。そんなわけで、人気も高い。
「じゃあ~、まずは昨日の復習から。三十四ページの三行目の文を、じゃあ~………………柚原くん!」
よりにもよって俺かよ。クラスのみんなの前で読まされるとか、ぼっちにとってきつい。なんか真冬もこっち睨んでるし。ん? は・や・く・よ・め? ……………仕方ない。指名された以上、責任は果たしてやるよ。
俺はゆっくりと立ち上がる。そして───────
「………………すいません、今日ちょっと声の調子悪いんで、無理です」
「…………………分かりました。では次の人に読んでもらいましょうか。座って下さい」
先生からのジト目、頂いちゃいました。てへっ。ごめんなさい、全然可愛くないですね。やめます。……………真冬、お前、俺に言いたいことでもあんのか? ああん?
俺も負けじと睨み返してみた。……………すいません、俺なんかが叶う相手じゃありませんでした。
「はい」
先生の声に立ち上がったのは──────爽やか系のイケメンこと、佐藤宗。こいつが読んだ方が、きっと喜ばれるに違いない。なんでこいつが俺の後ろなんだ。俺が相対的に霞むのは別にいいが、それはそれとしてなんかむかつく。
「他者とは、自己とは全く異なる存在であり──────」
女子達は相変わらずいい声してるね、なんて囁き合っている。何? 声の番付でもあるんかね? 俺も参加しようかな。多分、予選にも参加できずにつま弾きにされるわっ。
◇◆◇◆◇
「水樹くん、悪いね~、荷物持ってもらっちゃって~」
「いや、これくらい大丈夫」
教室とは違い、花奏は下の名前で、俺はタメ口で話している。まあ、本来教師とか生徒とか線引きしっかりしなきゃいけないんだろうけど……………そこは気にしない。俺達は職員室に向かっている最中だ。
「ねえねえ、ところで、どうなの~? 真冬ちゃんとは~」
「相変わらずだよ。真冬は毒舌だし、俺と目が合う度に睨んでくるし……………」
嫌われてるんだろうな。昔は仲も良かったはずなんだけど……………どうしてこうなった。
「あれ? あそこ歩いてるの、真冬ちゃんじゃない?」
「あ~…………そうだな」
あの様子だと……………告白されんのかな。明らかに屋上向かってるっぽいし。ていうか、屋上で告白するのってもはや定番だな。それにしても……………相変わらずモテるなぁ、真冬は。
「真冬ちゃん、人気だね~? うかうかしてると、誰かに取られちゃうかもよ~?」
「…………………取られるって、別に俺、そんなんじゃないし」
そもそも嫌われてるし。ないない。
「またまた~、素直になろうよ~」
「いやいや、だから違うんだって」
そんななんてことない会話をしていると、やがて職員室に着いた。
「じゃあ、またね。荷物、運んでくれてありがと~」
花奏はそう言い、職員室へと入っていった。
そう。俺が唯一話せるやつ。薄々感づいているとは思うが──────先程の現代文の授業の担当で、隣のクラスの担任である久藤花奏先生。小さい頃からの知り合いで、真冬と三人でよく遊んだりなんかもしていたのだ。…………あの頃は、真冬とも仲良かったのになぁ(二回目)。どうしてこうなったのか。