19話 感情
「なるほど……………それは、うん。怒るのも仕方ないね……………」
………………なんか人に話すとこう、なんだ? 存外にスッキリするもんなんだな。…………まあ、真冬への怒りは消えてないけど。
「それで……………こんなことを聞くのもなんだけど、水樹はどうしたい?」
………………どうしたいも何も、何もしたくない。つーか、俺がなんかしたところでどうにかなんねえし。殴られたの俺だし? ……………まだ妙にヒリヒリすんだけど。思い出し痛み? 思い出し笑いの親戚? ……………違いますね、ごめんなさい。
「どうしたいって言われても……………逆にどうすんの?」
「…………それもそうだね」
沙弥は苦笑い。………………でも、なんか気持ち悪いんだよなぁ、なんつーの? ……………よくわからん。………………ん? 元々気持ち悪いぼっちだぁ? ほっとけ。
「まあ、とにかくそういうこと。んじゃ、俺はそろそろ帰るから」
早く帰って買ったラノベ読みたい。だから早く帰る。私、良い子。
「…………待って、せっかくだし一緒に帰ろ」
……………まあいいけどさ。別に。俺の家わりと近くだから。……………いや、あんま関係ねえわ、これ。
俺達はレジでお金を払って、カフェを出た。勿論、俺が全額出すとかないから、自分のは自分で。セルフペイ。まじいいサービス。
◇◆◇◆◇
───────翌日。学校。三時間目が終わり、四時間目の前。
「沙弥ー」
「美里」
「今日さ、ちょっとごめん、昼にちょっと用事ができちゃって………………だから、昼食は一緒にできそうにないんだ。ほんとごめんっ」
「生徒会でしょ? 仕方ない」
多分、この前怒られてたやつだと思う。昨日生徒会長に、何回仕事忘れれば気が済むんだ! みたいな感じで怒られてたし。
「それにしても、美里ってよく仕事忘れるよね。メモとかこまめにしたら?」
「私が忘れてる前提………………まあ、そうなんだけど」
……………まあ、美里には是非とも生徒会の仕事を頑張って欲しい。私は特に応援しない。だから今言っとく。頑張って。
「何……………そのポーズ」
美里が私の渾身のサムズアップを見て、
「生徒会へ旅立つ親友へのエール?」
「………………なんか仰々しいわっ」
「あてっ」
チョップされた。痛くないけど、脳細胞のことも少しは考えて欲しいかな。健康第一。安全第二。……………安全も第一でした。
「それはそうと、沙弥。今日も柚原君と食べるの?」
「うん、そのつもり」
「………………沙弥って柚原君の事好きなの?」
「……………? うん」
何を今更分かりきった事を聞くの。好きでもない人と一緒に昼とか食べたりしないよ? 私。
「ひょえ!?」
しかも、凄い驚いてる、美里。驚くところなんてないと思うんだけど。
「つ、ついに、沙弥にも春が……………」
……………なるほど、そういうこと。美里、ちょっと感動してるところ悪いけど、水を差させてもらう。
「美里。私に春は来てないから、安心して」
肩をポンポン。どうどう。
「………………私の感動返して」
「いや、美里が勝手に勘違いしただけ」
私の言葉に美里は苦笑する。
美里は勘違いが多い。そういうところ、なくして欲しい。……………でも、それがなくなったら美里じゃない気がするから、そのままでもいい気がする。
「なーんだ、沙弥にもやっと来たと思ったのに」
ちぇー、なんて言いつつも、次の授業の準備をする美里。
………………きっと、私に春は来ない。青も来ない。だって──────友達以上の感情なんて、知らないから。




