12話 フラグ設置されたし
「あんた、今日一回家帰って風呂入ってから家に来なさい。いいわね?」
それ、言外に臭いし汚いから風呂入って出直してこいって言ってるのと同義だからな? もれなく俺の寿命も縮むからやめろっ。
……………っていうか、こんだけ言われて怒らない俺って結構メンタル強くね? 実は豆腐じゃなかったかもしれない。
「へいへい、わかったよ」
「な、何よ、その返事は!」
「はいはい」
「っ………………!!」
涙目でキッと睨んでくる真冬。……………お前、なんかムキになってない? 俺の気のせい?
「まっふー、今気が立ってるから~…………柚原君、そのー……………なんていうか、怒らないであげて?」
後ろからこそこそ囁いてく榎本。怒るも何も、初めから怒ってねえし。ただ俺のHPバーがゴリゴリ削られていってるだけで。…………大事じゃね?
俺と真冬と榎本は現在、下校中。そして、こんな状態だ。……………どんな状態だっつの。ああ、そうそう、状態といえば……………食堂。っつーか、状態といえば…………って語彙力が悲鳴をあげてるわっ。
『水樹、どうしたの? さっきから表情が優れないけど』
『ぷふっ……………!!』
まじでやばかった。アイドルと一般人並にやばかったわ。あの男、誰だ? 気安く沙弥様と美里様と話してんじゃねえぞ…………? みたいな目線が沢山飛んできた。ここんとこ、全く平穏じゃねえ。馬鹿じゃねえの? っていうか、美里先輩も笑ってないでなんとかしろよ。
「ねぇ」
これから暫くあんな感じ? ボッチなのに針のむしろって何? ……………どうにかしないとまずいんじゃね? 常に監視されるとかやなんですけど。
「ねえってば!」
「うぉ!?」
「まっふー!?」
バシーン! と勢い良く背中を叩かれた。いって───…………………。多分手の跡できてるわ、これ。にしても、まじで痛ぇんだけど………………
「無視してんじゃないわよっ!」
「あ、ああ………………悪い悪い」
ここで言い返しても、またなんか言われそう。戦略的撤退ってやつだ。………………まだ痛い。
「ったく……………なんなのよっ。ああ、こんなことなら勉強会なんて開かなけれ───────」
「わーーーー!! まっふー、ストーップ!」
慌てて真冬の口を塞ぐ榎本。
『………………勉強会を開かなければ良かった、ね……………なら、開かなければいいじゃねえか』
なんて言えるはずもない。多分真冬にぶっ叩かれる。んで、毒舌のコンボ。俺の精神が撃沈すること間違いなし。そう、我慢。我慢すればいいだけ。
「じゃあ、私達はこっちだから」
「…………………おうよ」
「柚原君、またあとでね」
俺と真冬、榎本はそれぞれ左、右の道に入っていく。やっと解放された。
「あー……………」
勉強したくねえ。真冬の部屋にも行きたくねえ。っていうか、女子の部屋入っても大丈夫なん? 幼馴染み………………幼馴染みだけどさ、ちょっとまずくね? なんか入った瞬間、キモいとか言われんじゃね?
……………まあ、多分リビングだよな、やるとしたら。リビングであって欲しい。リビングイズザベスト。頼むぞっ、まじで。
───────フラグってこういう時に立つんかね? んなわけねえか。へし折ってやる。
不謹慎な事を考えつつ、俺は家へと向かった。