11話 知らないところで
翌日。中間テストまであと二週間を切った。
「こっから怒涛の勉強会……………俺の身体、大丈夫か………?」
自分で自分の身体労るって結構大事よ? なんせ、俺を労ってくれる奴なんていないからな。ぼっち、ここに極まれり。
ふと外を見てみれば、雨がわりと強く降っていた。雨………………なんかかっこいい響きっ(現実逃避)。
因みに今は昼休み。ベストプレイスは使えないから、仕方なく教室で食ってる。……………教室、解放感なし。解放感、求む。
「水樹君いるー?」
…………………幻聴か? 俺の名前を呼ぶ奴なんていないはず。いたら大事件。誰か110番して。………説明どーすんだろーな? 柚原の名前を呼ぶ奴がいます? あと、下の名前で呼ぶんじゃねえ。
「あ、いたいた」
なんか近づいて来てる気がする。できるだけ、小さく、背景に溶け込めば……………おっ? これいけるっぽくね。今からでも俺の姿見失って帰れ。
「……………水樹」
目の前から声が聞こえた。仕方なく、俯いていた顔を上げる。……………やっぱり。
「小島先輩、生徒会は──────」
「沙弥」
「こじ───────」
「沙弥」
プイッとそっぽを向く沙弥。……………まじで? 公衆の面前で沙弥と呼べと? 俺、明日無事? デッドオアデッド。……………どっちも死じゃねえか。バッドエンドも大概にしろっ。
「………………沙弥、なんで教室にき─────」
「敬語、なしね」
「まだ何も言ってないって………………」
この人、結構押し強いよね? 性格?
「お、おい、あれって生徒会じゃないか?」
「沙弥様と美里様じゃない!?」
「ほ、ほんとだ!」
………………騒がしくなってきたんだけど。俺の身体はもう既に視線によって貫かれている(主に男子)。罪を追及される悪役令嬢みたいなんだけど……………悪役男爵? 俺は無実だっ。
「あ、あのー……………すんません、場所変えませんかね…………?」
俺の身体がもたない。というか、今すぐ机と椅子ごと投げて帰りたい。真冬だけでもいっぱいいっぱいだってのに……………睨まれたぐらいで、俺が折れると思うなっ。
「あー…………そうだね。なんかごめんね? 水樹君。沙弥がどうしても水樹と食べたいって言うから」
「美里、特に何も言わなかった」
「面白そうだったからね~♪」
こいつら……………。っていうか、沙弥さん? 人に止められなければ来ていいというわけじゃありません。即刻回れ右して去ってください。ベストプレイスの事はもう諦めたんで。……………やっぱり諦めたくねぇなぁ…………女々しっ。
「水樹、場所変えるなら食堂に行こう。あそこなら、座って食べられる」
いや、あの…………余計に注目されない? それ。実は目立ちたがりや? というか、沙弥さんや、ちゃっかり俺を下の名前で呼んだよね? ………………もう気にしない。
「………………分かった」
どうせ拒否権はない。イエス一択。将来はイエスマンいける。
「じゃあ、行くよ」
沙弥はがしっと俺の手を掴み、そのまま食堂へと連れていく。あー……………糸になりたい。
◇◆◇◆◇
「まっふー、ちょっとっ。いいの? 行かせちゃって」
「うっ……………だ、だって仕方ないじゃない。先輩なのよ? あの人達は」
……………水樹の奴。いつの間に生徒会の人達とあんなに仲良く…………。私に一言くらい言ってくれたって……………ってなんで私があいつの事気にしなきゃなんないのよっ。こ、これは、その、あれよっ。とにかく、なんでもないったらない。
「今ならまだ間に合うよ~?」
「べ、別に今じゃなきゃ駄目ってわけでもないし、いい!」
私は、一層モヤモヤする気持ちを強引に押さえつけた。