1話 毒舌な幼馴染み
「あ~……………だるい」
突然だが、俺の名前は柚原水樹。十六歳の男子高校生。顔も普通。髪も黒、ヤンキーみたいな金髪じゃない。まあ、要するに何もかも普通ってこと。
「ねえねえ、まっふー! この服とか可愛くない!? まっふーが着たらちょー似合いそう!」
「え~? そんなことないと思うけどな~? るるが着たほうが絶対に似合うと思うよ?」
「えっ? そう? なんか照れちゃうな~」
そんでもって──────俺の視線の先にいる彼女の名前は、辻井真冬。一応、俺の幼馴染みである。フワッとした黒髪のロングヘアーに整った顔立ち。スタイルもいい。もう、クラスのカースト上位だよ。
「─────────」
真冬と目があった。こっち見んな、とばかりに睨まれている。俺は慌てて目を反らした。っていうか、なんで俺だけあんなに睨まれんの? 他の奴にはそんなことしないのに………………まあ、それだけ俺がきもい奴ってことなんだろうな。自分で言ってて悲しいわ。
「辻井さん、ちょっとここの問題分かんないから、教えて欲しいんだけど……………」
「いいよ。どれ?」
「ここの問題なんだけど………………」
「ああ、この問題なら、この方程式を使って………………ほら」
「あ、解けた!! ありがとう、辻井さん」
「いえいえ、どういたしまして」
ほら、あの男子にはあんなに優しいのに。どうして俺には………………すんません、なんでもないです。
真冬と目が合って、再び睨まれる。俺は咄嗟に小さく頭をペコペコ下げてそっぽを向く。………………幼馴染みなのに、なんなんだろうな。この、他の奴との扱いの差は。
「みんな、揃ってるか~? それじゃ、ホームルームを始めるぞ~」
前からドアを開けて入ってきた先生──────川津先生の声に、みんなは一斉に席に着き、朝のホームルームが始まった。
◇◆◇◆◇
「──────あんた、今日、私の方チラチラ見てたでしょ。ほんっときもいからやめてくれない?」
「……………へいへい。分かったよ」
「何よ、その返事は!」
放課後、俺と真冬は二人で下校していた。いや、もう、ほんと訳分かんないよね。なんで一緒に帰ってるんだろ? ………………解せぬ。
「………………だったら、俺と一緒に帰る必要もないだろ? 俺のこと、きもいって思ってるんでしょ? そんな奴と一緒に帰って、勘違いされたら困るのはお前だろ? むしろ、俺としては一人で帰った方が───────」
「そ、それは駄目!!」
「うぉ!? なんだよ急に……………」
真冬の顔は必死だった。そう。いつもこうなのだ。一緒に帰んない方がいいんじゃねえの、と言っても駄目だの一点張り。特別な理由なんてないはずだろ? ……………はっ、まさか俺のことが好き…………とか? すいません、妄想が過ぎました。
「……………なんでだよ?」
「そっ、それは…………………あんたが周囲にきもさを振り撒くからよっ。私が見張ってないと駄目なんだからっ」
顔を赤くしながらそう言う真冬。
…………………意味分からん。もう理由からして。これ、泣いていいよね? 泣いちゃうよ? はい、泣きません。
「つーか、その理論でいくなら、尚更俺は一人で───────」
「駄目よ! 駄目ったら駄目!! …………………から」
「……………………? なんか言った?」
「~~~~~っっ!! 何でもないわよ、馬鹿!!」
顔を真っ赤にしながらそう言った真冬は、勢いよく走り去って行った。…………………解せぬ。