7、護衛騎士
「本日よりラウンドール公爵令嬢の護衛を勤めさせて頂きます、エリシオと申します。宜しくお願い致します。」
「アルマリア・ラウンドールです。こちらこそ、どうぞ宜しくお願い致します。」
挨拶を返しながらエリシオを見ると、完全なる無表情だった。
見た目からすると、たぶん歳は同じ位な気がする。
エリシオに案内されながら廊下を歩き始めしばらくすると、エリシオが急に立ち止まった。
そのままくるりと振り返ると、冷たい眼差しで私を見つめる。
「…貴女は何者ですか?」
「何者と言われましても…見た通りですわ。」
私が首を傾げると、エリシオは目だけ細めて私を睨んだ。
「見た通りとは、先程刺客を相手に戦っていた姿で宜しいか?それなら貴女は手練れの暗殺者に見えますが。」
「はぁ…。」
あぁ、エリシオはあそこに居た騎士の一人か。
全く、自分は大して動けもしなかったくせにこういう所は一人前なんだな。
「私が殿下を御守りして何が悪いのです。騎士が役に立たないなら私が盾になるしかないではありませんか。」
「なっ…騎士を愚弄するのか!」
「事実を申したまでです。」
私の言葉に噛み付くエリシオを見て、うんざりする。
こんな面倒な事ばかり起きるなら刺されとけば良かったわ。
ただの令嬢があんな動き出来る訳が無いから怪しまれるのは仕方無いけど、それにいちいち対応するのが面倒臭い。
「私だって、暴漢に襲われる可能性があるのですから多少の護身術は心得ております。それを暗殺者などと言われるのは心外ですわ。」
私は基本的にはお淑やかの猫被りだが、口撃してくる奴に良い負けてやる程出来た性格はしていない。
普段の私しか知らないであろう身内の人達は何かあったとしても私の言い分を信じてくれるだろうし、ここで一騎士相手に下手に出るなどしないのだ。
「…なんて小賢しい女なんだ!お前の様な女は殿下の婚約者に相応しくない!」
「あら、私も貴方の様な無礼な騎士は騎士団に相応しくないと思いますわ。」
そもそも公爵令嬢相手に言いたい放題のコイツは何なのか。
私達が睨み合っていると、駆け寄ってくる足音と共に
「アルマ!」
と声がして、ガバッと後ろから抱き締められた。
「あぁ、私の可愛いお姫様、こんな所で何をしているの?待っていても来ないから心配したんだよ。」
そう言いながら私の髪に顔を埋めてうっとりと匂いを嗅ぐリーヴス殿下に、エリシオは呆然としながらも慌てて礼を取る。
私はさり気なく殿下の腕を解こうと格闘しながら、頭を前に出して殿下の顔から遠ざけた。
「殿下、離れて頂けませんか。婚約しても居ない女にベタベタするのはお止め下さい。」
「アルマは可笑しな事を言うね。婚約式がまだなだけで、もう私達の婚約は内定しているのだよ。それに今日から城に滞在するのだから、もう私の妃も同然だ。…ところで、アルマはこの男と二人きりで見つめ合って何をしていたの?」
リーヴス殿下の視線が急にエリシオに移り、その場の空気が一瞬で冷え込む。
「別に見つめ合ってなどおりませんわ。私の護身術についてお話していただけです。」
「護身術?あぁ、アルマは昔から惚れ惚れする程強かったものね。でも私以外の男と二人きりで親密に話すのは許さないよ。…お前も、次は無いから肝に銘じておけ。」
「はっ。申し訳御座いません。」
エリシオの返事を聞いてリーヴス殿下は私の腰を抱くと、
「アルマが居るから護衛は不要だ。」
と私を連れて移動する。
そのまま有無を言わさずリーヴス殿下の自室へと連れ込まれ、侍従にお茶だけ用意させるとさっさと部屋から追い出してしまった。