68、幸せ
それから、私が口付けした事により一気に甘い雰囲気になってしまった室内は、リーヴス殿下によって更に加速する事になる。
いきなり抱き上げられたかと思えばソファーに移動し膝に乗せられ、そのまま顔や耳、首筋にいたるまで食むように何度もキスされた。
「ぅ、ん…リーヴス殿下…」
「あぁ、アルマ。どうしよう、アルマが私から逃げない…。可愛い。可愛い過ぎる。…こんなの我慢出来ないよ。連れて帰る前にアルマを私のものにして良い?アルマが欲しくて堪らないんだ。」
そう言ってさり気なくドレスの肩部分を下ろされ露わになった肌にキスして、谷間に顔を埋められる。
一瞬ギョッとしたが甘えるリーヴス殿下を見ているうちに愛しさが募り、私はリーヴス殿下の頭を抱き締めながら頬擦りした。
「…はぁ、お兄様達が外で待って居ますから…今日は我慢しましょうね?」
ぎゅうぎゅう抱き締め髪を撫でると、リーヴス殿下が真っ赤な顔で私を見上げてくる。
「…これは夢?アルマが私をこんなに甘やかしてくれるなんて…。柔らかくて良い匂いがするし…声が凄く甘くて優しい…あぁ、本当に今すぐ食べてしまいたい…」
そう言ってあむあむと胸元を食むリーヴス殿下の額にキスしていると、リーヴス殿下の腕に力が籠もった。
うぅ、なんて可愛いのかしら。
私ったら、今までこんなに愛らしい殿下を前に良く平静でいられたわね。
何でもしてあげたくなってしまうわ。
あぁ、本当に可愛い…。
「アルマ…」
リーヴス殿下の荒い呼吸と身体をまさぐる手付きを黙って受け入れていると、バタンと勢い良く扉が開き
「おい!いい加減にしろ!」
とマグリが飛び込んでくる。
「お前!何アルマの胸に顔突っ込んでるんだ!ズル…じゃなかった!離れろ、馬鹿!」
「…嫌だ。それに、アルマも嫌がって無いし、余計なお世話だよ。ほっといてくれないかな。」
マグリに怒られてもどこ吹く風のリーヴス殿下は、ますますグリグリと胸に顔を擦り付けて来た。
私がそれを「殿下、皆見ていますから、それ位にしましょうね?」と頭を撫でながら窘めると、「…うん。」と渋々顔を上げ、今度は私を自分の腕の中に囲う。
「さ、じゃあそろそろアルマと王都に帰ろうかな。父上と母上も説得しなければならないし、私も公務があるからね。アルマはまだ病み上がりだから、私の部屋で休んでいるといいよ。なるべく早く帰ってくるようにするから、寂しいかもしれないけど我慢してね。」
ちゅっちゅっと髪にキスしてくるリーヴス殿下にされるがままになっていると、それを見ていたマグリが目を見開いた。
「ア、アルマ…どうしたんだ!前はそいつから逃げまくってたのに…!」
「おや、おかしな事を言うね。アルマはただ恥ずかしがり屋なだけで、昔からずっと私だけを愛してくれていたよ。私達は相思相愛だからね。悪いけど、君の入る余地はないから。と言うか、入らせない。」
私が困ったように微笑んでいると、マグリはその場で「嘘だろ…!」とくずおれた。
「…ついに殿下の執着が実を結んだという事かな…。私はアルマが幸せならそれでいいけど、アルマは本当に大丈夫?このまま王都に戻ったらもう逃げられなくなるよ?」
「アッアルマが他の男のものに…いっいやだぁあ!」
叫ぶマグリを見ていつの間にか部屋にいたお兄様は「マグリはいつの間にそんなに流暢に話せるようになったんだねぇ。」と今更な事に気付いて笑っている。
「…だってリーヴス殿下ったら、私がどんな姿生まれ変わっても手放してくれないみたいなんですもの。捕まらない方が難しいですわ。」
「まぁ、今日だってどこからかアルマの状態を聞きつけて、護衛を巻いてまで飛んできてしまう位だからね。出来る分の公務も全て片付けて来るあたり流石に優秀だとは思いますけど、陛下までもねじ伏せて強行してしまうのはどうかと思いますよ、殿下。先程陛下からの使者が来て、“王都に帰還する際は体調が許すならばどうにかアルマリア嬢を説得し、一緒に連れて来るように”と伝言されました。陛下もアルマでなければ殿下が暴走するのを止められないとやっと分かったみたいですね…。今の二人を見れば大丈夫そうですが…殿下、もしアルマを泣かせたらすぐに屋敷に連れて帰りますから。あと、みだりに婚約前の大事な妹の身体に触れないで頂きたい。殿下と言えど、誤って刺してしまいそうです。」
静かに青筋を立てていたお兄様が剣の柄に手を添えると、リーヴス殿下はごくりと唾を飲みそっと私から手を離した。




