67、寂しい
「あの…アルマ、くっついてくれるのは嬉しいんだけど…俺、そろそろトイレに…」
「…じゃあ一緒に行く。」
ソファーでマグリの膝に乗り首に腕を回していた私は、離すまいと腕に力を入れる。
それを見たイドラは人型に変わると、私をマグリから引き離そうと腕を広げた。
「アルマ、こっちに来い。俺様が抱っこしてやるから。」
「イドラは嫌。マグリかお兄様じゃなきゃ嫌なの!」
「何故だ!俺様だっていいだろう!?むしろ抱かせろ!」
私達がギャーギャー騒いでいると、そこにタイミング良くお兄様がやって来て、イドラは急いでドラゴンに戻る。
お兄様が来たのですぐにマグリから離れてお兄様に抱きつくと、マグリは少し寂しそうな顔をしていた。
「おや、熱烈な歓迎だね。アルマ、今日の調子はどうだい?」
お兄様に抱き締められながら大丈夫の意味を込めてこくんと頷くと、お兄様の後ろから「アルマ。」と別の声がする。
その声にドキッとして視線を移すと、そこにはリーヴス殿下が立っていて、私は自分の身体から血の気が引くのか分かった。
「アルマ、会いたかった。ディルクじゃなくて、私の所においで?二人で話したい事があるんだ。」
リーヴス殿下の言葉にふるふると首を横に振ると、私はお兄様から離れてマグリに飛びつく。
すると後ろから腰に腕を回されマグリから引き剥がされると、あっと言う間にリーヴス殿下に抱き締められた。
「や、嫌!」
「…ディグル、二人きりにしてくれ。」
「…少しだけですよ。アルマが嫌がる声が聞こえたらすぐに部屋に入りますからね。」
いつもそんな事許さない筈のお兄様が渋るマグリの首根っこを無理矢理掴み、苦い顔をしながらも部屋から出て行く。
それに驚愕していると、マグリに抱えられイドラも一緒に連れて行かれた。
えっ、ど、どうして…
皆、いつもなら二人きりになんてしないのに。
困惑していると、耳元で「アルマ…」と熱の籠もった声が聞こえビクッと震える。
その声を聞いているだけで涙が溢れて来て、私は
「殿下、ごめんなさい…」
と震える声で呟いた。
「…それは、私に傷を負わせた事についての謝罪?あの時言っただろう、アルマの手に掛かるなら幸せだと。それより、私は早く会いたくてたまらなかったよ。アルマリージュ、私の愛する女神。やっと私の元に戻って来てくれた。もう離さないから。」
アルマリージュの名前に目を見開くと、私は慌ててリーヴス殿下に向き直る。
そこにはルールアがよく浮かべていたのと同じ優しい笑顔があって、溢れる涙をそのままに思わずガバッと抱き付いた。
「な、何で…ルールア…っ、人間の姿でも私のことが分かるの!?今までそんなそぶり無かったのに…!私、寂しかった!あなたと二度も離れ離れになって、凄く凄く寂くて、悲しかったの!もう置いていかないで!私から離れないで…っ」
ぐすぐすと泣きながら首筋に顔を擦り付ける私をリーヴス殿下は強く抱き締めながら、頬や髪に小刻みにキスする。
「あぁ、アルマリージュ、私もだよ。アルマリージュの女神の力を吸い取った後、ルールアの身体に残しておいた意識の欠片をこちらに戻したんだ。君のおかげで二人分の神の力が宿ったからね、ルールアの肉体は石になってしまったけど、再び魔物達を封印する事が出来た。本当にありがとう。それに君がこうして人間になってくれたから、これからはずっと一緒に居られるよ。もう二度と離さない。何百年も耐えたんだもの、嫌がられても今まで以上に手放すつもりは無いから覚悟してね。」
そう言ってふふっと笑うリーヴス殿下に、私は初めて自分から口付けした。




