65、討伐
「そんな…!でもリウグレット様は、私に魔物を討伐する為に天界で力を付けよと…!」
「そんなの、もしスタンピートが起きたとしてもアルマリージュだけは巻き込まない為の方便だよ。あれは一度神を生贄にしてやっと封印したものだ。次も同じ方法を取らなければ収まらない。リウグレット様は今眠りについている三人のうちの誰かを使うつもりだろうね。」
それを聞いた私はカッと怒りが湧き上がる。
そんなの、許される訳ない。
そんな事絶対させるもんですか。
「…ライナお兄様、生贄が必要だと仰いましたよね?それなら、私が行きます。」
「アルマリージュ!」
驚愕するライナお兄様とラーシュを前に、私はぐっと唇を引き結んだ。
「私はもう何百年とあの国の人間として過ごして参りました。今生でも、大切な者達が沢山暮らしているのです。そんな国を見捨てたり、ましてや他の男神を犠牲にするなどあってはなりません。何より、ルールアが犠牲になっているのに、私だけのうのうと生きているなんて我慢できません!」
それだけ言うと私はすぐに転移し、魔物の居る森の上空に移動する。
下を見下ろせばそこには通常の魔物の他に人型の魔物も彷徨いていて、私はごくっと息をのんだ。
こんな恐ろしい所に何百年もルールアは一人で居たの?
酷い…酷すぎるわ…
溢れる涙を拭いルールアの居る場所を探していると、淡く光る池の周りに魔物達が集まっているのを見つける。
きっとあそこだわ!
私はそのまま池の中に飛び込むと、池の底にあった洞窟の中まで一気に飛び込んだ。
「…結構深いのね…それに真っ暗だわ…。ルールア。ルールアはどこ…?」
魔法で光の球体を出し辺りを照らしながら洞窟内を進むと、水の無い場所にたどり着く。
そこでルールアを探していると、私は行き止まりの壁の前で息を呑んだ。
「ル、ルールア…」
壁には地面から離れた場所に下半身と肘の先が壁に埋まっているルールアの姿があり、思わず震えながらルールアの側まで身体を浮かせる。
ルールアの頬に触れるとあまりの冷たさに涙が零れて、私はそのままルールアを抱き締め頬擦りした。
「あぁっ、ルールア…ッ!ごめんなさい!ごめんなさい!私のせいでこんな…!ルールア、ルールア…うっ…ぅう…」
泣きながらルールアを抱き締めていると、「アルマリージュ…?」と小さく声がする。
ビクッと身体を震わせルールアを見ると、ルールアは真っ青な顔で力無くこちらに微笑んでいた。
「ルールア!」
「…意識の残滓を残しておいて正解だったな…。アルマリージュ、こんな所に来てはダメだよ…ここは危ない。早く出ないと…」
「嫌!ルールアと一緒に居るわ!ルールア、ルールア、愛してる。あなたを置いて何て絶対嫌よ!」
ルールアの両頬を手のひらで包み額同士をグリグリと擦り合わせていると、ルールアはふふっと笑う。
「あぁ…温かい…。僕の可愛いアルマリージュ。ここに居る僕はただの意識の欠片だよ。僕の魂はここには無いって分かっているだろう?愛していると言ってくれるなら、もう一人の僕の元へ…そして、幸せになって。」
「や、やだぁ!ルールアがこんな目に合っているのよ!?私も一緒にここで魔物を封印するの!絶対どこにも行かないんだから!」
泣きじゃくりすがりつく私にルールアは困ったように眉を下げると、ちゅっちゅっと頬にキスしてくれた。
「…アルマリージュ、お願いだよ。愛しい君が、ここに縛り付けられるなんて、僕が耐えられない。だから…」
「そーだよぅ、アルマたん!何言ってるのかなぁーアルマたんはパパと天界で暮らすんでしょ?」
そこで今一番聞きたくない声が洞窟内に響きわたり、私は背筋に悪寒が走った。




