52、ライナ
次の日、リウグレットの言う通り医師と共にやってきたライナお兄様は、神界の時と同じ容姿に眼鏡を掛けただけと言う本当に研修医かと疑う神界クオリティの美しさで屋敷のメイドを魅了していた。
医師の診察の際は一旦皆部屋から出てもらうので、渋るリーヴス殿下をマグリが無理矢理引きずり出し、部屋には私とライナお兄様、そして医師の三人だけとなる。
そこでライナお兄様は医師をすぐに眠らせると、急いでベッドに駆け寄って来た。
「アルマリージュ!あぁ、なんて可哀想に…、辛かったね。私が来たからもう大丈夫だよ。すぐに治してあげようね。」
ライナお兄様はそう言うと、シーツを捲り私のお腹に手を当てる。
するとみるみるうちにお腹の中が熱くなり、あっと言う間に体調が良くなったのが分かった。
「凄い…!ライナお兄様、ありがとう御座います!」
私が起き上がりライナお兄様に抱き付くと、ライナお兄様は嬉しそうに私を抱き締め返す。
「うん、良かった。今度神界に帰ってきたら、アルマリージュの治療魔法を強化してあげるからね。」
「はい!宜しくお願いします!」
私の元気な姿を見てライナお兄様は優しく頭を撫でると、うっとりとした表情で頬を撫でた。
「あぁ、なんて可愛いんだろう。人間界でのアルマリージュは、とっても愛らしいんだね。もっと一緒に居たいよ。」
ライナお兄様もシスコンの気があるものね…。
私がどう返そうか迷っていると、
「何をしているんです?」
とお兄様とリーヴス殿下、それにマグリがいつの間にか部屋に入って来ていた。
げ、マズいわ。
私が目を泳がせているうちに、ライナは素早く医師を魔法で起こし私をそっとベッドに寝かせる。
「先生、終わりました。先生の指示通り処置致しましたよ。」
「あぁ、そうか。いや、任せてしまってすまないね。」
「いえ。それで、皆様は何故入ってきてしまわれたんですか?まだお呼びしていない筈ですが…」
ライナの堂々とした様子に、私は思わず尊敬の眼差しを向けた。
「何やら“もっと一緒にいたい”などと不穏な言葉が聞こえて来ましたので、アルマの安全を優先させたのですよ。」
「おや、それは“もっと他に痛い所は?”との問い掛けを聞き間違えたのでは?診察の途中で入ってこられては困りますので、次からはお控え下さいね。」
ライナと三人はしばらくバチバチと睨み合って居たが、医師の「では、本日は失礼致します。お大事になさって下さい。」と言う言葉を合図に収束する。
部屋を出て行く際ライナは他の人達に気付かれない様私に微笑み、私もライナに視線でお礼を込めた。
「アルマ!大丈夫!?あの男に何もされてない!?」
リーヴス殿下はそう言って私の身体を触って確認してきたが、正直リーヴス殿下の方が現在進行形で色々していると思う。
「…殿下、あの方は研修医でしょう?何かされるわけ…」
「いや、アルマ。あの男は危ない。目を見れば分かるよ。あぁ、もう本当に…アルマは無自覚にも程がある。そこも愛らしいのだけど…。」
危ない訳無いだろう。
と半目になっていると、リーヴス殿下は私の顔を見て驚いた様に何度も頬を触った。
「…アルマ、今日は凄く血色がいいね。昨日はあんなに青白かったのに…あの研修医、腕だけは確かなようだな。」
リーヴス殿下に言われて身体を起こして改めて確認してみたが、痛みもだるさもなく全快している様に感じる。
思わず調子に乗って制止するリーヴス殿下を無視してベッドから降りてみると、ふらつきはしたものの落ちてしまった体力さえ戻れば何ら問題無い程回復していた。
「アルマ!…もう、いくら調子が良くてもそんなにすぐ良くなる訳無いだろう?まだベッドから起きては行けないよ?昨日だって歩けなくなったのに、忘れてしまったの?」
リーヴス殿下にそう言われるも、良くなったのならばベッドになど居たくは無い。
私はそう思いベッドに戻る手助けをしてくれていたリーヴス殿下の耳元に顔を寄せ、そっと囁いた。
「…殿下、実は既に治療魔法でだいぶ回復していたのです。明日には動けるようになるかと思いますので…そしたら殿下を転移魔法でお送りしますわ。」
近付きすぎて少し唇が耳に触れてしまったが構わず喋り終えると、リーヴス殿下は赤くなった耳を押さえてバッと私から距離を取る。
それを見ていたお兄様とマグリがベッドに駆け寄り、私とリーヴス殿下の間を遮った。
「さっ、では殿下。妹も疲れている様ですし、一旦下がりましょうか。少し休ませなければ、折角良くなってもぶり返してしまいます。マグリ、殿下をお連れしてくれ。」
お兄様の言葉にマグリは不服そうだったが、渋々リーヴス殿下を部屋から連れ出す。
「えっ、ま、待て!私はまだアルマと…」
「殿下、それではまた明日。後の看病は私が致しますので。」
お兄様に有無をいわさず畳み込まれ、リーヴス殿下とマグリは扉の向こうに消えて行った。
「…それで、アルマ?あの研修医に何をされたのかな?」
二人きりになった部屋で、私はお兄様の低い声にビクッと肩を震わせる。
え…尋問?
休ませてくれるんじゃなかったの?
その後お兄様からの質問責めを必死に誤魔化すのに気力を使い果たし、解放される頃には私は元のぐったりした状態に戻ってしまっていた。




