48、帰還
『アルマ!!』
目の前にいきなり現れたマグリに驚きながら、私は声を出す事も出来ずとりあえず必死で自分の内臓と肋骨の修復に全力を注ぐ。
まだライナに訓練して貰う前で相変わらず苦手なままの治療魔法だったが、何とか喋れる位までには回復させた。
「はぁ…はぁ…。死ぬ、かと、思った…。」
まだ完全には治癒出来ていないものの、途切れ途切れに呟くと、目の前のマグリの目からボロボロと涙が落ちて来る。
『アルマ、アルマ…良かった!アルマ、帰って来るなり突然倒れて、意識も無くて…ッ俺、俺…ッおかしくなりそうで…ッ』
混乱して支離滅裂なマグリの言葉に、
危ない…マグリ発狂寸前だったのね…
と私は胸をなで下ろした。
【アルマ!!お前、どこ行ってたんだ!!魂が空っぽだったから、心配してたんだぞ!?…戻って来れて良かった…】
イドラには私が肉体だけだった事が分かっていたらしく、流石ドラゴン…と感心したものの、まだ上手く喋れないのでぎこちなく微笑んでおく。
すると小さな手で目をゴシゴシと擦ると、
【皆を呼んでくる!】
とパタパタと飛んで部屋を出て行った。
いやーしかし、ギルダお兄様ったら妹になんて恐ろしい事してくれてるのかしらね…
折角貰った剣も置いてきちゃったし、ガッカリだわ…
そんなどうしようも無い事を考えていると、ベッドの側でガシャンと音が鳴る。
マグリが驚いて確認すると、そこには貰った双剣と片刃剣があり、私は動けないながらも歓喜した。
前言撤回!
ありがとう、ギルダお兄様!
『マグ、リ…それ、私の。隠し、て…!』
お兄様達に見られるとマズいので急いでマグリに隠して貰っていると、間一髪部屋の扉が開いてお兄様が飛び込んで来る。
「あぁっ、アルマ!!気が付いたんだね!!…ッこの血は…吐血したのかい!?可哀想に、可哀想に…ッすぐ医師を呼んでくるから!」
そう言って慌てて飛び出すお兄様を止める事も出来ず、私は戻って来た医師に隅々までしっかり診察されてしまった。
「これは…吐血は内臓の損傷が原因の様ですな。昨日までは何とも無かった筈なのにどうして急に…。どちらにしても意識が戻られたとは言え当分ベッドからは起き上がれませんよ、絶対安静です。」
医師はそう言うと、痛み止めを処方し帰って行く。
お兄様は医師を見送った後すぐに部屋に駆け戻って来て、私の顔を撫でた。
「私の可愛いアルマ、どうしてこんな事に…。しばらくの間はお兄様がずっとアルマの側に居るからね、安心してお休み。」
少し青白い顔で私の頭を撫でるお兄様を見て、私はぎょっとする。
えぇッ、お兄様ずっと居るの!?
それじゃ落ち着かないじゃないの~…ッ
ここは何とか部屋から出て頂かないと…!
私はまだ出しにくい声を精一杯絞り出し、お兄様にぎこちなく微笑んだ。
「お、兄様…いい、の。一人で、大、丈夫…、そ、れにお仕事、が…」
「…ッ」
どうせ治療魔法で治すんだから大丈夫!
そんな思いを込めて放った言葉だったのだが、お兄様には通じていなかった。
「こんな時まで僕の心配をしてくれるの…?大丈夫だよ、お父様にも遣いを出して、事情は説明してある。優しい子だね…お兄様の事は気にしないで、甘えていいんだよ。お父様達も数日すればこちらに様子を見に来ると思うから、それまでに少しでも回復させようね。」
あぁ、ダメだった~。
お兄様はその後も私の側から離れず、本まで持ち出してマグリ達と一緒に付きっきりで看病してくれる。
夜になってやっと居なくなったかと思えば、マグリを追い出しただけですぐに私の部屋に戻って来てソファーに横になった。
「何かあればお兄様を呼ぶんだよ。」
お兄様はそういいながらも顔は完全にこちらを向いていて、じーっと私を見つめている。
私は落ち着かなかったものの仕方なく一旦諦め、お兄様にひたすら見守られたまま眠る事にした。
「アルマたぁあん!良かったぁあ!!ごめんね、痛かったね!?ギルダはお仕置きしておいたからね!」
「…」
いや、寝てたんだから休ませて欲しい。
私がじっとりした目でリウグレットを見ていると、リウグレットは私の身体にペタペタと触れてくる。
「…触っても夢の中では分からないのではないですか?それに、別に助かったのですからもういいです。」
「良い訳ないでしょう!それに、身体だけの問題じゃないんだ。アルマたんは魂だけの状態で傷付いてしまったから、今凄く危ない状態なんだよ。本体の傷が癒えたら今度は神界で魂の療養をしなければならないんだ。」
えーっまた戻るの!?
リウグレットの言葉にげんなりしていると、困ったように眉を下げられた。
「…ごめんね、でもこればっかりは仕方ないんだ。今はとにかく本体の治療に専念して。アルマたんは治療魔法が苦手だろうけど、時間が掛かってもしっかり治すんだよ。翻訳の魔法陣は頭に送ってあげるから、あの獣人とドラゴンにもアルマたんの手を煩わせない様に言って。今日は帰るけど、また様子を見に来るからね。」
そう言うと、リウグレットは私を抱き締めてからふっと姿を消す。
その後すぐに送られて来た翻訳の魔法陣の仕組みに感嘆しながら、私は今度こそ本格的に眠りについた。




