44、神界4
「さぁ、アルマたん!おうちに着いたからもう安心だよ!お外出て汚れちゃったから、パパとお風呂に入ろうねぇ!」
怖ッ、何言ってんの。
私はリウグレットに
「絶対嫌!」
と言い放つと、疲れた顔で立っていたルアの背にささっと避難した。
「ヒイィッ、アルマリージュ様!あんまり僕に近付かないで下さい!リウグレット様が怖いんですから!」
「仕方ないじゃない!私だって怖いんだもん!」
「あはは、やだな~二人とも。こんなにお茶目なパパ居ないのに~。」
どこがだ!
私はルアに浴室に案内して貰うと、「絶対入ってこないで!」と釘を刺してから素早くお風呂に入る。
出て来るとリウグレットは私を抱き締めようとして空振りながらも、ごほんと咳払いしてすぐに仕切り直した。
「さっ、アルマたん。そろそろ人間界の様子でも見てみる?」
それを聞いた私はこくこく頷くと、手を引かれて水鏡のある部屋へと連れて行かれる。
転移すればいいのにさっきの仕返しなのかのろのろと歩くリウグレットに、私はイライラしながらせっついた。
「早く!」
「ふふ。はいはい、慌てん坊だなぁ。」
部屋の中央にある水鏡の前まで来ると、私の後ろに立ったリウグレットが水鏡の縁に触れ、水面に映像を映す。
映ったのは私の部屋で、私は血の気を失った顔でベッドに横にさせられていて、その側には泣き腫らしたマグリとお兄様、そしてベッドの上にはイドラが居た。
おぉ…思った以上に死人みたいな顔色だわ。
「これ…間違って死んだと思われないのかしら…」
「ん?大丈夫だよ、ちゃんと息してるもん。」
それならいきなり火葬って心配はなくなったな。
しかし皆の顔を見ているとソワソワして、私は後ろを振り向きリウグレットを見上げる。
「もう帰りたいですわ。これだけ皆憔悴してるんだから、気が済んだでしょう?」
「気が済む訳ないでしょ。一番思い知らせたいのはあの王子なんだから。あと一週間はここで生活するんだよ。」
はあぁ!?
私がぎょっとしていると、リウグレットは甘い笑みを浮かべながらチュッチュッと頬にキスして来た。
「はぁ。アルマたん今日も綺麗だよ。こうしてアルマたんと一緒に生活出来るなんて、夢のようだなぁ。そうそう、せっかくここに居るんだから、アルマたんの苦手な変化の魔法も強化してあげるよ。ね、ここに居てそんなに損は無いでしょ。」
「ぐぐ…」
それは是非お願いしたいが一週間もここに居るのは嫌だ。
むしろ今すぐ教えて貰って、すぐ帰りたい。
私が唸っている間、リウグレットは水鏡の映像を切り替え、森の中を映し出す。
そこには人型の魔物達が何やら森を彷徨っていて、私はその光景に息を飲んだ。
「今回は予想外に人型の魔物が多いね。しかも今までに無い位知能が高そうだ。きちんと準備して挑まないと、やられてしまうよ。アルマたんは戦死してもこちらに戻るからいいけど、あの獣人やドラゴンはそうはいかないからね。」
確かにその通りなのだが、ならさっさと帰して欲しい。
帰ってマグリ達と鍛錬しないと元も子もないではないか。
「ん~?まぁ、それはあるけど、一番重要なのはアルマたんだよ?どれだけ魔法が使いこなせるかによって、全然戦況が変わってくるんだから。ぶっちゃけアルマたんさえ鍛えとけば、何とかなるの。」
「人の心を勝手に読まないで頂けますか。なら早く必要な魔法を教えて下さいませ。」
私がリウグレットの服を握り上目遣いで睨むと、リウグレットは少し考えてから溜め息を吐く。
「…アルマたんって、本当に色恋に疎いと言うか、無関心だよねぇ。昨日ライナにぎゅうぎゅう抱き付いてたけど、あれだって何も考えてなかったでしょ。少しは男の気持ちも考えてくれないと~あれ皆にやってたらアルマたん大変な事になっちゃうよ?今だってこんなに至近距離で話してるのに、無防備だしさ…」
唐突にそんな事を言われ意味が分からず、私は昨日の事を思い返した。
だって、ライナは兄妹じゃないか。
人間界でだって、お兄様と抱き合うなんて日常茶飯事だ。
マグリは、まぁ甘えたがりだから仕方ないし…
おかしいのはリーヴス殿下だが、こちらから断っても止めてくれないんだもの。
リウグレットは悩む私に呆れながら、私の髪を手で弄ぶ。
「アルマたん、その考え方はおかしいんだからね?女神の思考と人間の思考がごっちゃになっちゃったのかなぁ…。いい?くっつくならパパだけにして?他の人にやったら襲われちゃうでしょ。」
「リウグレット様にはくっつきたくないので、お断りします。」
「何で!?」
私達がギャーギャー言い合っていると、ルアが気まずそうに部屋に入ってきた。
「お取り込み中申し訳無いんですが…、アルマリージュ様のご兄弟がお見えになってます。」
「もう来たの?…はぁ。通して良いよ。」
私はルアの言葉に、先程ギルダが言っていた兄弟達がもう会いに来た事に驚く。
まだいくらも経ってないのに、行動早くない!?
するとリウグレット様は神妙な顔で私の肩を掴み、顔を近づけてきた。
「いい?アルマたん。ハグも、キスも、していいのはパパだけ!兄弟って言ったって、アルマたんとは血縁でもなんでも無いんだからね!ただ同じ時期に生まれたってだけなんだから!分かった?」




