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40、パパ再び


リーヴス殿下は私の手を引きすぐに自室に移動しようとしたが、それを私が引き止める。


「あ、あの…廊下を歩いては兵達に見られてしまいます。私が転移魔法を使用しますので…」


「いいの?あ、でも私の自室は変わってしまったんだ。場所を言えば分かるかな?」


私が頷いていると、横でイニス殿下が

「転移魔法…ズルい…僕も一緒について行きたい…」

と呟いていた。


あぁ…イニス殿下がこれ以上余計な事言ってリーヴス殿下を怒らせる前にさっさと移動しましょう…


私はイニス殿下に挨拶すると、

「失礼致します。」

とリーヴス殿下の首に腕を回して抱き付く。


「ア、アルマ…?」


「すみません、殿下。初めて他の方を転移させるので…密着していないと心配なのです。」


大丈夫だとは思うが、念のためだ。


私はリーヴス殿下にも私に密着して貰う様お願いすると、そのまま魔法陣を展開し、言われた部屋へと転移した。


「着きましたわ。…殿下?」


私が離れようとするも、リーヴス殿下は密着したまま全く動かない。

それどころかますます強く抱き締められ、頬にちゅっとキスされた。


「ひゃ…」


「アルマ、愛してる。アルマは?アルマは私の事、愛してる?」


えぇ…きゅ、急に何…

あ、愛してるって…

敬愛はしてるけど…


しかし今ここでそんな事を言おうものなら、どうなることか。


私は迷ったあげく、その場しのぎの言い回しで切り抜ける事にした。


「お、お慕いしていなければ、い、一緒の部屋では眠らないかと…きゃっ」


私がそう言うと、リーヴス殿下は私を抱き上げすぐに寝室のベッドに下ろす。


「自分から言った事だけど…これはある意味拷問の様だね。いつになったらアルマは私に全てをくれるの?」


え?全て?全てとは…


しばらくしてリーヴス殿下の言葉の意味に思い至りカーッと頬を熱くすると、リーヴス殿下は

「う…ッ」

と呻き顔を背けた。


「…なにその反応…とんでもなく可愛いんだけど…ッ!うぅ…耐えろ、私…!約束したんだから…!あぁ、両思いなのに、辛い…」


独り言とは思えない音量の呟きに私が頬の熱が収まらないで居ると、リーヴス殿下は何度か深呼吸してからおもむろにベッドに潜り、「おいで!」と私に両手を広げる。


一瞬躊躇したがじっとしていても仕方がないので、遠慮がちにベッドに潜ると、リーヴス殿下はぎゅうぅっと私を抱き締めた。


「うわぁ、可愛い、可愛い!そんなにもじもじして…恥ずかしいの?なんて愛らしいんだ。大好きだよ!」


いつになく気持ちをぶつけてくるリーヴス殿下に、私は

情緒不安定すぎておかしくなってしまわれたんだな…

と冷静に判断する。


しかしそのうちリーヴス殿下の体温と、気を張っていた疲れから、徐々にウトウトとしてきた。


寝たらマズいわ。

今日は一晩中起きてようと思ってたのに…


それでも既にまぶたはくっついていて、すぅすぅ言い掛けてはハッとしていると、リーヴス殿下が私の額に頬擦りしてくる。


「アルマ、もうおねむなの?いつもはあんなに強くて美しいのに、私の前ではこんなに無防備になってくれて嬉しいよ。おやすみのキスして?そしたら寝かせてあげる。」


私は眠気に勝てず目を瞑ったままリーヴス殿下の頬にキスしようと唇を近付け、予想外にぷにゅっとした感触に少しだけ目を開けた。


「ふふ、可愛いキスをありがとう。おやすみ、私のお姫様。」


リーヴス殿下はそう言うと私の額にキスして、蕩けるように微笑む。


私はリーヴス殿下が微笑んでいる姿を最後に、落ちる様に眠りについた。


…筈だったのだが。


気が付くとまたあの真っ白い空間で、私はすぐに嫌な予感でいっぱいになる。


「…アルマたぁあん?パパ言ったよねぇ、王子に手込めにされるなって~…」


その予感はすぐに的中し、私は後ろから響く恐ろしく低い声にバッと振り返った。


「て、手込めになんかされてません!!い、一緒のベッドで寝ているだけではありませんか!」


私が慌てて言い返すと、自称パパ男は額に青筋を立てながら笑顔でパチンと指を鳴らし、さっきまで私が寝ていた部屋の様子を空中に映し出す。


「…ふふ、これが寝ているだけなんて言えるのかなぁ?」


そこには寝ている私に「可愛い可愛い」と呟きながらチュッチュッとキスしているリーヴス殿下の姿が映っていた。


リ、リーヴス殿下ぁぁあ!!

意識のない相手に何してるんですかぁぁ!!


私が膝から崩れ落ちると、自称パパ男は自分もその場にしゃがみ私を覗き込んでくる。


「アルマたん、可愛い愛娘が寝ている隙に好き放題しちゃう様な男を、パパが許せると思う?」


「…では、どうしろと言うのです。」


私の返答に、自称パパ男は私の顎を掴み物凄く嫌な笑顔で私と目線を合わせた。


「まぁ、まだ今の時点では未遂だから…アルマたんを完全に女神に戻して連れ帰るのは待ってあげる。でも、パパもいい加減アルマたんと過ごしたいんだ。だから、アルマたんが領地の屋敷に戻ったら仮死状態にして、一時帰省させます。異論は受け付けないよ。」


えぇ、強制連行!


私は呆然としながら、仮死状態になっている間の言い訳をどうするか、必死で考える。


しかし、男の次の言葉でそれはどうする事もできないと思い知らされた。


「言い訳なんて考えても無駄だよ。転移で帰った瞬間仮死状態にするから。人間共にはアルマたんが急に倒れた様に見えるだろうね。アルマたんが側に居るのが当たり前だと思っている奴らは、思い知ればいいんだよ。」



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