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35、マリアナ


「マリアナ…勝手に入って来ないで下さる?ここは私の私室なのですから。」


私がうんざりしながらマリアナに注意するもマリアナは私の言葉など全く耳に入っていない様で、マグリを見つけるとすぐに駆け寄った。


「まぁ、話通りの男前だわ!体格も良いし、顔もバッチリ私の好み!貴方、名前は?」


『…』


マグリはマリアナを前に一瞬眉を寄せたが、すぐに無表情に戻りマリアナを見下ろす。


「…マリアナ、彼の名はマグリよ。それと、異国出身だからこの国の言葉は通じないわ。」


「まぁ!そうなの。それなら家庭教師を付けなければね!いらっしゃい!屋敷に帰って私の従者としてお父様に紹介するわ!」


マリアナはそう言ってマグリの腕を掴んで部屋から連れ出そうとするも、マグリはそこから一歩も動かなかった。


「ちょっと!突っ立って無いで早くいらっしゃいよ!」


『…マグリ、こちらへ。』


私がマグリに声を掛けるとマグリはマリアナの手からスルリと腕を抜き、笑顔で私の側へと侍る。


それを茫然と見つめていたマリアナは、すぐにカッと目を吊り上げ私に詰め寄った。


「ちょっと、アルマ!何横取りしてんのよ!今私が連れて行こうとしてたでしょう!?」


はぁ?

横取りはお前だろう。

何、人の従者目の前で盗ろうとしてんだ。


「マリアナ、マグリは私の従者です。私も言葉の通じない彼の力になると約束しておりますの。勝手に連れて行こうとするのはお止めになって下さいな。」


私がマリアナを諭すと、マリアナは逆に何を言っているのだと言わんばかりに私を睨む。


「私は将来ディグル様の妻になるのよ?この屋敷のものは全てディグル様のものでしょう!それなら、夫のものは妻である私のものでもあるわ!アルマ、貴女未来の姉に逆らう気!?」


始まったわ。

お兄様がいつマリアナを妻にするなんて言ったんだよ。


「…マリアナ、貴女、お兄様の恋人でも、ましてや婚約者でも無いでしょう?何を根拠に妻になるなどと…」


私が言葉を続けようとするも、マリアナはそれを遮るように私の身体を思い切り突き飛ばした。


「お嬢様!」


『アルマ!!』


それをマグリが咄嗟に抱き止め、様子を見ていた侍女が慌てて無事を確認しに来る。


ソファーからは殺気が漂ってきていて、イドラがマリアナが私をこれ以上害さないか伺っているのが分かった。


「話にならないわ!あんたのその態度、お父様に言いつけてやるから!その従者も、ディグル様も私のものだって思い知らせてやる!」


マリアナはそう吐き捨てる様に言うと、部屋から飛び出す。


それを確認して侍女はすまなそうに私に謝ると、すぐに執事とお父様に報告すると言って部屋を出て行った。


【何だあの女は!!俺様のアルマに何してくれてんだ!!】


二人が居なくなると、イドラがソファーから飛び降り私の足元にすがりつく。


マグリも全身から怒りのオーラを滲ませ扉を睨んでいた。


『アルマ、大丈夫か?何だあのおかしな女。アルマを突き飛ばすなんて…』


『あれは私の従姉妹のマリアナよ。私に従者が付いたのを知って、マグリを奪いに来たのよ。あの子、見目が良い男性が大好きなの。中でもお兄様がお気に入りみたいで、妻になるってずっと言ってるわ。マグリもとんでもないのに目を付けられてしまったわね。』


マグリは私の話に呆れながらも、少し不安そうに私を抱き締める。


『…アルマ、俺はアルマから離れたくない。』


いや、そりゃ世話するって約束したのにそんな無責任に手離さないでしょう。

え、まさか私がマリアナにマグリを譲るとでも思ってんの!?


『ちょ!私だって離さないわよ!今マリアナにもそう言ったし、私だってマグリをマリアナなんかに譲るつもりは無いわ!マグリったら、失礼ね!』


私が頬を膨らませて怒っていると、マグリは何故か嬉しそうに耳元で

『うん…』

と呟いた。


【オイ!お前ら何二人でイチャイチャしてんだ!マグリ!!お前アルマにくっつき過ぎだぞ!離れろ!】


あーもう。

言葉が通じなくて都合の良い事もあるけど、これじゃあこれから先不便で仕方無いわ。


私は尚も足元で騒ぎ続けるイドラを無視しながら、離れようとしないマグリを宥め続けた。


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