34、話し合い
屋敷に着くと、私はイドラとマグリを自分の部屋に通す。
乙女の部屋と言うことでイドラがとても興奮していたが、
【言っておくけど、イドラの部屋はここじゃないからね。】
と言うとあからさまに静かになった。
『それで、イドラに魔物の討伐については話したのか?』
イドラを抱いたままソファーに腰掛けるマグリに、私は首を横に振る。
『まだよ。今から話すけど…協力してくれるかしら。』
私と一緒の部屋ではないと知って放心しているイドラに呆れながら、私はイドラに協力してもらえなかった場合の対策を考えた。
まぁどうしても無理だと言われてしまったら、抱いて機嫌でも取ってみるしかないか…。
とりあえず話すだけ話してみよう。
【イドラ、貴方、魔物の事は知ってるわよね?】
【ん?あぁ。ここ数十年見てなかったが、そういえば最近深淵の森で見かけたな。まぁまだ二匹程度だが。】
えーッもう外に現れ始めてるの!?
これは早急に対処しなければ…!
【…実は、その魔物が人の住む地に進行して来る前に私とマグリで討伐しようと思ってるんだけど…イドラも協力してもらえないかしら。いつもなら軍が動くんだけど、今回は事情があって私達だけで殲滅しなければならなくて…】
私がそう言うと、イドラは可愛く首を傾げる。
【三人で?それはいくら俺様が居るとは言え、厳しいんじゃないか?今回見た魔物は人型だったぞ。人型の魔物が出る時はかなり厄介だからな。知性もあるし、進行の際も統率者が立つ。いつもよりキツいと思うが。】
流石ドラゴン。
長く生きているだけあって色々知っている。
でもまさか人型がいるとは…
魔物と言うのは大半が獣型が多いのだ。
それが何故か稀に知性のある人型が出現する場合がある。
人型はとても厄介で、獣型だけなら討伐と言えるが、人型が居る場合討伐と言うより戦争に近い。
確かに三人ではキツイかもしれない。
【それに、今回はかなり嫌な予感がする。まぁそれでもやると言うなら協力はするぞ。契約者を危険な目に合わせる事は出来ないからな。】
協力はしてくれると言うイドラに、私はほっと安心した。
しかし、自称パパ男の言っていた様に簡単にはいかなそうだ。
『アルマ、どうだ?イドラは協力してくれるのか?』
私はマグリにイドラから聞いた話を説明すると、マグリも難しそうな顔で考え込む。
『そうなると、やはり軍に動いて貰うしかなくなるな…。しかし、アルマが参加しなければ今回の討伐は失敗するんだろう?アルマが討伐に参加させて貰うのは不可能だろうし…』
そう、そうなのだ。
だからこんなにも悩んでいるのだ。
あぁ、何で今世は女なのか。
男で生まれていれば今頃…ん?
『そうだ!』
私は突然魔法を発動し、二人の前で男に変化した。
『これで軍に紛れて、こっそり討伐に参加するってのはどう!?』
マグリは半目で私を見ると、何故か興奮しているイドラをぐっと抑えつける。
『…だから、その姿は全然変装になってないって言っただろう。アルマだってバレるし、何より可愛すぎる!魔物より、まず周りの狼を退治しなければならなくなるぞ!』
【俺様は髪の短い雌も好きだぞ!胸が小さくなってしまったのは残念だが、その姿も神秘的で美しいな!】
マグリには凄く不評だし、イドラはおかしな事ばかり叫んでいて、私は仕方無く変化を解いた。
『案としてはいいと思うんだけど…私の魔法の精度の問題って事よね?うーん、鍛錬してみるけど…どうもこういう魔法は苦手なのよねぇ。』
そこで部屋をノックする音が聞こえ、私はイドラを素早くマグリの膝からソファーの上に移動させ、布を掛ける。
「どうぞ。」
と返事をすると、侍女が少し困った様な表情で部屋に入って来た。
「お嬢様、お疲れの所申し訳御座いません。マリアナ様がお嬢様にお会いにいらしております。」
…こんな時にまた面倒な…
マリアナは私の従姉妹なのだが、とんでもない我が儘娘なのだ。
そして更に厄介な事にお兄様が大好きで、私の事を嫌っている。
今日はお兄様は居ないのに何しに来たのかしら…と思いながらも
「応接室に通してくれる?」
と侍女に言った直後、部屋の扉がバーンッと開いた。
「アルマ!貴女、男前な従者を雇ったのですって!?出不精なアルマの側に従者なんて必要無いでしょう!?私に寄越しなさい!」
入っていいなんて許可出してないんですけど。




