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32、移動


領地に向かう馬車に揺られながら、私は先日起こった事でイライラしていた。


マグリと寝室で話していたあの時、転移魔法の事を考えていると急に

「アルマたん!転移の魔法はパパからプレゼントするよぉ~ッ!」

と言う自称パパ男の声がして、頭に直接魔法陣が送られてきたのだ。


送られてきた魔法陣はとても人間が考え付くような代物では無く、

諦めて正解だったわ…

と一瞬感動したものの、すぐに“側にいなくても頭の中まで監視されているのか”と思い至りその場で固まる。


ニルリル様からの遠視位なら遮断できるけど、自称パパ男の監視はどうやっても防ぐのは無理だ。


自分の全てが筒抜けであるのかと考えると、私は気味が悪いのを通り越して無性に腹が立った。


ハッ!そんなに見たいなら見ればいいわ!

こちとら何百年も男として生活してきてるのよ!

今更男に見られたところで屁でもないわよ!


そして開き直った。



領地までは馬車で一週間ほど掛かる。


あの後エリシオとイニス殿下にはマグリが手紙を出してくれたので、返事が来次第転移魔法で会いに行こうと思っていた。


が、今頃王都でリーヴス殿下がどうなっているかと思うと正直怖い。


お見舞いに来るとは言っていたが、その前に王都を出てしまったので、今頃私が消えて気が狂って居ないか心配だ。



そんな事を考えながら途中何回か町や村に立ち寄り領地に着くと、荷物を屋敷に置いて早々にマグリと森の奥にある渓谷へと向かう。


ドラゴン次第で今後どうするかが決まるので、早速呼んでみる事にしたのだ。


『ドラゴンって名前とかあるのか?』


『うん。でも人間には発音出来ないの。契約者は関係ないみたいだけど…』


渓谷に着くと、私はマグリの質問に答えつつ

本当に来るのかな…

と半信半疑のままドラゴンを呼んでみる。


すると空の一部が暗くなり、空間を裂くようにして赤黒い色をしたドラゴンが口元の隙間から炎を噴きながら現れた。


【ガリオン!!お前、人間の癖にまだ生きてやがったのか!!散々俺様を乗り回した挙げ句何百年も放置しやがって…忘れた頃に召還するとは良い度胸だな!?】


あ~ほら、めっちゃ怒ってるぅ~…

渓谷まで来て正解だった。

屋敷で呼び出してたら大騒ぎだ。


私はドラゴンがゴアッと思い切り吹きかけてきた炎を障壁で防ぐと、魔法で声を拡大してドラゴンに話し掛ける。


【ごめんなさい!あの時は貴方の言葉が分からなかったの!今はきちんと理解できるわ!だから、話を聞いて欲しいの!】


私の声にドラゴンは炎を吹くのを止めると、私の姿を見つけて目を剥いた。


【…あ!?お前、誰だ!?ガリオンはどうした!?】


【…私がガリオンよ。転生したの。人間なのだから何百年も生き続ける訳ないでしょう?】


話し掛けながら障壁を消すと、私はドラゴンをじっと見つめる。


あぁ、それにしても何て素敵!

やっぱりドラゴンは荘厳ね…

昔からこういう厳つい生き物って大好きなのよ!

言葉が分かるようになったらむしろ可愛く見えて来たわ!


私がドラゴンに向かって手を伸ばすと、ドラゴンは戸惑いながらも地面に降り立って私を見下ろした。


【お前がガリオン?…確かに魂の匂いも同じだ…そもそもガリオンで無ければ俺様を呼び出せないからな。本当に言葉が通じるんだな…】


【えぇ、今は魔術士でもあるから…。私、昔から貴方の事が大好きだったの。それであんな事をしてしまったの…本当にごめんなさい。これからは仲良くしていきたいんだけど…許して貰えないかしら…】


私が殊勝な態度で謝ると、ドラゴンは少し悩んだ様に瞳を泳がせ私の前に屈む。


【…しょ、しょうがねぇな…。ガリオンはガサツな雄だったが、こんなか弱そうな雌になっちまったんなら守ってやんなきゃすぐ死んじまいそうだ。…言葉も通じるし…】


やぁん!可愛い!

なんて素直な良い子なのー!?

でも聞いてた以上に女に弱いみたいね!


私は思わずドラゴンに抱き付き、頬ずりした。


【嬉しいわ!私、貴方の事大好きよ!そうだわ、皆の前で名前を呼ばなきゃならないから愛称でも付けましょうか!そうね、イドラはどう?私はアルマよ。】


うっとりドラゴンを見上げると、ドラゴンはおどおどしながら頷く。


【名前なんてお前しか呼ばないんだから何でもいい。】


【あら、私だけじゃないわよ。マグリや他の人間も使うのだから不快な名前は嫌でしょう?】


私がマグリを指さすと、ドラゴンは今マグリに気付いた様で再び口元から炎が漏れ出した。


【オイ!!アルマ!!俺様と契約してる癖に勝手に番を作ったのか!?】


再びブアッと炎に包まれるも、私はふふっと微笑みながら障壁を張る。


【マグリは番じゃないわ、私の従者よ。もう、イドラったらヤキモチ屋さんね!そんなに私の事が好きなの?可愛いわ!】


勢い余ってちゅっと鱗にキスすると、イドラはぎょっとしながらもソワソワと身体を震わせた。


【や、ヤキモチなんかじゃ…。俺様はお前が黙って番を作ったのかと思ったから…】


はぁぁ…ガリオンの時の反応と全然違うわ!

ガリオンの時なんて

【いつか必ず殺してやる!!】

って会う度言われてたのに!!


私が感動していると、イドラは気まずそうにしながらもまさかの伏せの体勢になると、私の前に顔を近付ける。


【ア、アルマは俺様と契約してるんだ!勝手に番を作るのは困る!み、見張ってないと心配だから、俺のねぐらに連れて行く!文句ないな!?】


え~…ドラゴンのねぐらってどんな所よ?

行ってみたい気もするけど、人間が暮らせる様な場所じゃないでしょう。


【うーん、私がイドラの住んでいる場所で暮らすのは難しいんじゃない?イドラが私の屋敷に来ればいいわ。】


【アルマの屋敷に?】


【そう。庭にイドラ専用の家を作るのはどうかしら!】


ところが、私の言葉に何故かイドラはムッとした。



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