31、神界
「あ、リウグレッド様。どこ行ってらしたんですか?」
「ん?ちょっとね~。」
私が人間界から帰還すると、側仕えのルアが大して気にもしていないように訊ねて来た。
「もー遊びに行くのも程々にして下さいよ?リウグレッド様が居ないと女神達が煩いんですから!」
そう言ってルアは私に誰がどう自分に詰め寄って来て、それがどれだけ大変だったかを訴えて来る。
しかし私は、先程まで会っていた可愛いアルマたんの事で頭がいっぱいで、殆ど聞いていなかった。
毎日人間界を覗いて様子を見ては居るが、夢の中とはいえ面と向かって初めて会話をした人間のアルマたんは、それはもう可愛らしかった。
女神である時は背が高く、正に美の化身と言うべき美しさだったが、人間のアルマたんも可憐でとても魅力的だ。
神界でアルマたんに群がる男神達を遠ざける為人間界へ泣く泣く派遣したはいいが、やはり性別を女にしたのは失敗だった。
男に言い寄られるわ、そのせいで邪魔が入り上手く立ち回れないわで、とにかく見ていて気分が悪くなる。
そんな風にアルマたんに想いを馳せていると、そこへアルマたんの兄弟である双子の男神のガルとエルがふらりと部屋に入って来た。
「…何か懐かしい匂いがする。」
「…ほんとだ。ねぇ、これ…アルマリージュの匂いじゃない?」
いつもは鈍い双子の鋭い指摘に私は
「気のせいだ。」
としらばっくれた。
女神や男神に血の繋がりは無く、私が神界にある泉から生み出している。
その中でも同時期に泉から生み出した神達は自分達を兄弟と認識しているのだが、アルマたんの5人の兄弟達はアルマたんにとても執心していた。
この双子はアルマたんを姉の様に慕い、それはもうベタベタに懐いている。
それでもまさか匂いまで嗅ぎ付けられるとは思わなかったが。
「リウグレッド様、アルマリージュに会いに行ったんでしょ。狡いよ、自分だけ。僕達だってアルマリージュに会いたい。」
「そうだよ。早くアルマリージュを神界に戻してよ。僕らの神殿で一緒に暮らせるのを楽しみにしてるんだから。」
私は双子の言葉にうんざり溜め息を吐いた。
男神は生まれるとそれぞれ神殿を与えられ、女神は気に入った男神の元を渡り歩く。
女神は個々の神殿を持たないので、男神の神殿に滞在するか、男神禁制の女神達だけが集う花殿で暮らすのだ。
まぁ殆どの女神は奔放な性格の為男神の神殿に滞在する者が大半なのだが、アルマたんは女神にしては珍しく一人で花殿で暮らしていた。
双子は自らが希望して一つの神殿で一緒に暮らしているが、そこにアルマたんを招きたいと言っているのだ。
「…アルマたんは使命の為人間界に降りているのだから、当分帰らないよ。それに、アルマたんはお前達の神殿では暮らさないと思うけどな。」
だって、神界に帰って来たら私がアルマたんを囲うからね。
私の言葉に双子はムッと眉を寄せると、私を不満そうに睨む。
「リウグレッド様の所には毎日沢山の女神達が押し寄せてるじゃないか。そんな所にアルマリージュを置いて置けない。」
「そうだよ。アルマリージュは美しいだけでなく繊細で淑やかなんだ。絶対女神達に苛められるに決まってる。」
いや、私がそんな事許す筈無いだろう。
アルマたんが帰ってくるのなら、他の女神達は一歩たりとも私の神殿に踏み入る事は許さない。
だが、今それを言ってしまえば双子だけでなく他の男神とも諍いが起きてしまうので黙っていた。
「まぁ、まぁ。アルマたんは当分帰ってこないと言ったろう?ほら、折角来たのだからアルマたんの様子でも見せてやろう。」
そう言うと、双子はパッと表情が明るくなり、部屋の中央にある水鏡に駆け寄る。
私もその後を追い水鏡の縁を手で撫でると、すぐに水面にベッドに座るアルマたんと、アルマたんを抱き締める獣人の姿が映し出された。
「あっ!またコイツ!アルマリージュに抱き付いてる…!」
「アルマリージュが保護してるから我慢してるけど、ベタベタしすぎだよ!リウグレッド様、コイツの頭に雷落とす位ならしてもいい?」
「だーめ。今はアルマたん以外の神が人間界に干渉しちゃ駄目なの、知ってるでしょ?」
私が窘めると、双子は機嫌が悪そうにむくれる。
しかし双子達の言う通り、王子にしろ獣人にしろ、アルマたんへの過度の接触が目立つ。
これは早めにアルマたんを回収しないといけないかもしれないな…と考えていると、アルマたんが心の中で転移の魔法を開発しようとしてすぐ諦めたのが聞こえた。
まぁ、騎士はともかく、魔術士は居た方が何かと便利だからね。
「転移の魔法はパパからプレゼントしてあげようかな~。」
私が呟くと、双子はチラッとこちらを見て、
「…パパだなんて思ってない癖に。」
とぼそっと呟く。
私はそれを無視して水鏡に手をかざすと、アルマたんの頭に直接転移の魔法陣を流し込んだ。




