3、リーヴス殿下
そうこうしている内にあっと言う間に顔合わせの日が来てしまう。
この日の為に侍女達が私を磨き上げてしまったので、不本意ながら全方位万全の状態だ。
本当はヨレヨレな感じで行きたかったが、侍女にもの凄く怒られ却下された。
それでも華美にされるのだけは避けたかったので、
「お願いだから地味にして…。」
と懇願して何とかシンプルな装いにしてもらった。
ちなみに髪も
「後ろで引っ詰め髪に!」
とリクエストしたが、丸っと無視され、複雑な編み込みに所々花が散らされた仕上がりとなっている。
結局希望とかけ離れた姿になってしまった。
それにしても何の防御力も無いのにどうしてドレスってこんなに重いんだろう…
げんなりしながら屋敷の玄関に降りると、私を見たお兄様とお父様は普段滅多に着飾らない私の姿をそれはもうべた褒めしてくれた。
「アルマ、今日はとびきり美しいね。まるで花の妖精の様だよ。」
「しかしこれでは殿下を更に夢中にさせてしまう事になりそうだな。」
うぅ…!あんなに頼んだのに侍女ズめー!
いつも私が嫌がるから、ここぞとばかりに張り切ってたもんなぁ…
悶々とする私をお兄様が馬車へとエスコートしてくれ、三人で王城へと向かう。
私が馬車の中でどんよりしながら
「行きたくない行きたくない」
と呟いている間に、馬車は王城へと到着した。
はぁ、嫌だけど仕方ない。
覚悟を決めなくては…
意を決して馬車の外から差し出された手を取り顔を上げると、そこに居たのはお父様でもお兄様でも無く、蕩けるような笑みを浮かべるリーヴス殿下だった。
「あぁっ、アルマ…っ!!やっと君に会えた…!!」
「!!??」
何でリーヴス殿下がここに!!??
謁見の間に居るんじゃないの!?
私が驚愕で固まっていると、あろうことかふわりとリーヴス殿下に抱き締められてしまう。
「こんなに美しくなって…他の男に奪われる前に間に合って良かった。もう離さないよ。」
ぎゃあぁぁ!!
抱き締めながら私の髪に顔を埋めたり額にキスしたり、どうやらエルマー嬢と婚約してから今まで会えなかった時間がリーヴス殿下を更に拗らせてしまったようだ。
鳥肌を立てながら私が涙目になっている姿さえ、
「そんなに瞳を潤ませて喜んでくれるなんて…アルマはなんて可愛いんだ。」
とか言っちゃってる。
これもう顔合わせ所じゃない!!
強制婚約コースだ!!
私が絶望していると、城の中から
「リーヴス殿下!!」
と慌てて騎士や宰相達が走ってきた。
「殿下!いけません!年頃のご令嬢に何て事をなさってるんですか!?その方はまだご婚約者様ではないでしょう!?謁見の間にお戻り下さい!」
そう言って宰相が私からリーヴス殿下を引き離そうとするも、リーヴス殿下は一向に引かない。
それどころか私をますます腕の中に閉じ込め、宰相達を睨んだ。
「やっと手に入った愛しい人を離せる訳が無いだろう。顔合わせは私の部屋で二人でする。」
はぁ!?
それもう顔合わせじゃないから!!
私は慌ててリーヴス殿下を見上げると、淑女の猫を被り口を開く。
「リーヴス殿下、お会い出来なかった間に私も立派な淑女になる為研鑽して参りました。それなのに、折角この場を設けて下さった王族方に礼を欠くような行いはしたくありません。私は皆様にきちんとご挨拶させて頂きたいのです。」
リーヴス殿下は腕の中で必死に懇願する私を惚けた表情で見つめた後、うっとり微笑んでちゅっちゅっと頬にキスした。
「アルマのお願いなら仕方ないな。凛とした言葉を紡ぐこの唇に口付けしたかったけど、もう少し我慢するよ。謁見など早く終わらせて早く二人っきりで過ごそうね。」
ひ~…!
絶対嫌!
何とか歩き出してくれたリーヴス殿下にエスコートされ、私達はゾロゾロと謁見の間に移動する。
その際チラッとお兄様を確認したが、恐ろしい程の殺気を笑顔で放っていた。
うん…見なかった事にしよう。