23、結界
食事を終え、お父様に会いに行こうとしている事をお兄様に伝えると、何故かお兄様も一緒に付いて来る。
今日はずっと付いて来るつもりかな…と思いながらお父様の執務室に着くと、声を掛け中に入った。
「お父様、お忙しい時間にすみません。」
「いや、大丈夫だ。珍しいな、アルマがここに来るなんて。」
そう言いながら少し嬉しそうなお父様に、私はさり気なく部屋の中に置いてある鉱石を物色しながらおねだりを開始する。
「実は、最近鉱石に興味が出て参りまして…。それで、お部屋でも眺めたいので、もしお許し頂けるならお父様に鉱石をお譲り頂けないかと…。」
私の言葉にお父様は目に見えて表情が変わると、すぐにいくつか鉱石を用意してくれた。
「アルマも鉱石の良さが分かるようになったか!いや、なんと喜ばしい!折角眺めるのなら、良い物を置いて目を養った方が良い。好きなものを持って行きなさい。」
そう言ってお父様の執務机にある鉱石を眺めて、私はその中の一際大きい紫色の鉱石を見る。
これは魔力がかなり貯まりそうね…
上手く行けば屋敷全体に結界が張れるかも。
「それなら、これをお借りしても宜しいでしょうか?」
「おお、アルマは私に似て目が高いな!それはとても珍しいものだぞ。そうだな、鉱石デビューの記念としてこれはアルマにあげよう。この小さな鉱石もいくつか持って行きなさい。」
「本当ですか!?嬉しい!お父様、ありがとうございます!」
娘に甘いお父様にまんまと鉱石を譲って貰いお礼を言うと、私はそれをマグリに運んで貰い部屋に戻った。
しかしやはりと言うべきかお兄様も付いて来て、私は眉を下げる。
「お兄様、私お部屋に籠もりたいので…お兄様ももうお好きな事をなさってはいかがですか?」
「ん?私はアルマの側に居るのが一番好きだよ。…でも、そうだね。部屋に籠もるのなら少しマグリを借りてもいいかい?」
え?何でマグリ?
私が首を傾げていると、お兄様も一緒に首を傾げた。
「だって、放っておいたらまた二人きりでいつまでも籠もりっぱなしになってしまうだろう?それに、マグリはまだ従者として未熟だからね。私の従者に指導させる。」
「でも言葉は…」
私がマグリを見ると、お兄様は更に続ける。
「アルマだって言葉は通じなくてもやっていけているだろう?アルマがマグリの真似をしてあの鳴き声みたいな声を出しているのはとても可愛いけど、あれだって言葉ではないじゃないか。通じなくても身振り手振りで出来る限り指導してみるよ。」
いや、あれは言語です。
しかし、そう言われてしまえば断る事も出来なかった。
私はマグリにそれを伝えると、意外にもマグリはお兄様の提案を受け入れる。
『俺もアルマの為に知識は必要だと思う。良い機会だから頑張ってみる。俺が居ない間に何かあれば叫べよ?すぐ飛んでくるからな!』
そして、マグリはお兄様に付いて行ってしまい、私は部屋に一人となった。
「いい鉱石が手に入った事だし、私は魔道具を作りますか。」
とりあえず机に鉱石を置くと、椅子に座って鉱石を包むように手を置いた。
目を開いていると黒目に魔法陣が浮かんでしまうので、ニルリル様対策に目を閉じる。
頭の中で魔法陣を浮かべながら魔力を鉱石に注ぐと、鉱石の中心からパキパキと音を立て平面状に魔方陣が刻まれて行き、それが鉱石の内側ギリギリまで広がるのが感覚で分かる。
一番大きな魔方陣が刻まれたのを確認すると、更に上下に違う模様の魔方陣を幾重も連ねていった。
鉱石の中が魔方陣でいっぱいとなり外側から見ると魔方陣と認識出来ないほど緻密な模様になると、自動的に屋敷全体に結界が張られる。
その際何かが弾かれる音がして、
やはりニルリル様が覗いていたか…
と私は溜め息を吐いた。
「…はぁ、これで屋敷は大丈夫。でも屋敷から出ればまた見られてしまうわね…。この小さい鉱石も魔道具にして持ち歩きますか。」
続けて小さい鉱石も結界が張れる様に改造し、私とマグリの分を作る。
作り終わると、私は自分のドレスを見て唸った。
魔術師の素質のある人物は外に探しに行かないといけないのよねぇ…でもこの格好じゃ行ける範囲に限りがある。
見た目を男性に見える様に自身に幻術を掛ける事も出来るが…相変わらず私はその手の魔法が苦手なのだ。
でもやってみるだけやってみるか…と試しに掛けてみると、なんとも中性的な中途半端な少年が出来上がってしまった。
「これは…どうなの?激しく微妙だわ…。マグリが戻ってきたら聞いてみよう。」
私は一度幻術を解いて、マグリを待つ。
しかし帰ってきたマグリはとんでもなくグッタリとしていて、それどころではなかった。
『マグリ、どうしたの?お兄様が何かした?』
私が心配になって聞いてみると、マグリは首を横に振る。
『いや…ただ、お前の兄と俺に指導してくれた従者のレンドルが物凄くスパルタだっただけだ。それはもう、鬼のようにな…』
私はとりあえずマグリにお茶を用意し背中を撫でながら休ませていると、そこに再びお兄様がやってきた。
「マグリ!またお前は…。異性の主人に甘える従者がどこにいる!従者として振る舞えないなら、従者用の部屋で休め!」
お兄様はそう言うと一緒に付いて来たレンドルに言って、私に手を伸ばすマグリを無理矢理部屋から連れ出してしまう。
「アルマ、明日もマグリはレンドルが指導する。あぁ、その間アルマには護衛を付けるから安心していいよ。」
私はお兄様が黒いオーラを放っているのを見ないようにしながら、マグリを気の毒に思いつつも大人しく頷くしかなかった。




