2、転生
前世を思い出したのは確か五歳になった頃。
私はこのバーランド王国で転生を繰り返し、いつの時代も王族に忠誠を誓い国の為に力を尽くしていた。
そして、転生すると幼子のうちにランダムで何代かの前世の記憶を思い出す様で、その知識を利用し国の要職に就いて王族を守って来たのだ。
転生する度同じ国の同じ王族を守護しているなど何かの呪いかと疑いたくなるが、今回はいつもとは違う点があった。
それは、性別が女であるという事。
思い出せる限りいつも性別は男だった為、騎士団、隠密、魔術師団など、王族を守る立場としては最適な様々な職に就く事が出来た。
だがまだまだ男尊女卑の意識が根強いこの時代。
身分だけで言えば公爵令嬢なので高位貴族だが、女性が仕事をする事はかなり厳しい。
女性騎士は少数ながら存在しているものの、今回は公爵令嬢という身分が逆に邪魔をした。
ではいっそ今世は今までの事は気にせず、お淑やかに公爵令嬢としての人生を全うしてみればいいのでは!?
そう思ったものの記憶に染み付いた習慣がそれを許さず、どうしても令嬢には必要ないであろう体力づくりや鍛錬を毎日こっそり行ってしまう。
その結果脂肪の少ない引き締まった身体になり過ぎ焦ったが、私にはそれよりも更に深刻な問題があった。
それは、恋愛関係の事柄をどうしても嫌遠してしまう事。
これはたぶん前世まで男であった故の影響だろう。
かと言って女性が恋愛対象なのかと聞かれればそれも異なる。
完全に宙ぶらりんの中途半端な状態だ。
それは十六歳になった今でも変わらず、この年頃の高位貴族であれば当然居るであろう婚約者も居なかった。
正直に告白すると、リーヴス殿下との婚約が決まりそうになった時、私は自分から崖に突っ込んだ。
もちろん受け身を取り怪我は最小限に抑えたが、王族との婚約者など恐れ多いと言う事と、何の興味も無い男と、しかもあのリーヴス殿下との婚約など有り得ないという気持ちからの行動だった。
その行動は見事功を奏した訳だが、今になってまた同じ状況に陥るとは…。
私が頭を抱え自室で唸っていると、部屋に居た侍女が、
「お嬢様、ディグル様がお見えになっております。」
と声を掛けてきた。
入室してもらうよう促すと、程なくしてお兄様が入ってくる。
「アルマ、父上から聞いたよ。また殿下から婚約の打診が来てるんだって?あの方も諦めないねぇ。」
「お兄様…」
お兄様はソファーでうなだれる私の横に腰掛けると、さり気ない仕草で腰を抱いた。
「殿下はきっと可憐な少女に回し蹴りされた衝撃で可笑しくなってしまわれたんだね。そうだ、もう一度回し蹴りしてあげたらどうだろう?そうしたら元に戻るかもしれないよ。」
私の髪を撫でながらにっこり顔を覗き込んで来るお兄様に、私は顔をひきつらせる。
誠に残念な事に、私のお兄様は妹至上主義という特殊な思考を持つ男だった。
私がリーヴス殿下に回し蹴りという不敬を犯した時でさえ私を諫めるどころか
「アルマはそんなに足が上がるのかい?身体が柔らかいんだねぇ。でも下着が見えてしまうから、次から攻撃するならもう少し下を狙った方がいいよ。」
とのんびり笑っていたのだ。
攻撃って何だ!攻撃って!
「お兄様…そんな不敬な事を仰ってはいけませんわ…。」
「私にとっては可愛い妹が一番だもの。まぁ顔合わせの日は私も一緒に付いて行くから。何かあれば、フォローは任せて。」
そのフォローがまともなフォローであればいいんだけど…
私は視線が胡乱げになりそうなのをごまかし、お兄様の気の済むまでベタベタと纏わりつかれていた。