17、獣人
※16話を間違えて途中でアップしてしまった為、文章を追加しております。大変失礼致しました。
文章が切れた状態で読んでしまった方は16話の途中から読んで頂けると幸いです。
獣人はその身体能力から遥か昔他国で戦争の戦闘要員として捕獲され、使い潰されて来た過去がある。
その為個体数が激減し、獣人達自身も種の存続や捕獲の脅威を避ける為、人間の住まない秘境や未開の地へ移住した。
何故私がそんな事を知っているのかと言えば、以前バーランド王国では魔術師団を中心に獣人達を保護していたからだ。
獣人達は人間とは異なる言語を使う為、通常では言語での意志疎通は不可能となる。
それを魔術師が翻訳の魔法を使用し、獣人と人間とのコミュニケーションを可能にしていた。
ただそれは魔術師自身にのみ有効な魔法となり、他者へ作用させる事が出来ない。
意志疎通を図るには、どうしても魔術師の通訳が必要だった。
馬車が止まると、すぐにザブド殿下にナガリア国軍の駐在している野営地へと案内される。
逸る気持ちを抑え兵士が見張るテントに入ると、そこには血だらけで鎖に繋がれた獣人の男性が地面にうずくまっていた。
「なんて事を…!」
私が駆け寄ろうとすると、ザブド殿下が二の腕を掴みそれを制止する。
「近付くな。奴は気が立っているからな。いくら鎖に繋がれているとは言え、近付けば噛みつかれるぞ。」
見れば確かに獣人の男性は牙を向きこちらを威嚇していた。
しかし獣人と言えども身体能力以外の身体の作りは人間とほぼ同じ。
獣人の男性は見た所肩と脇腹、片足に矢を刺された様な跡があり、今も血が流れていた。
「そんな、手当しなければ死んでしまいます!」
「近付こうとすればああやって威嚇されるから、治療したくても出来ない。今は死なない程度に大人しくなるまで様子を見ている所だそうだ。」
はぁ!?
馬鹿じゃないの!?
私がザブド殿下を睨み付けると、ザブド殿下は場違いにもぎゅうっと私を抱き締める。
「はぁ。優しいアルマならやはり怒るだろうと思っていた。…でも仕方ないんだ。獣人は言葉が通じないからな。俺達が合流したらすぐここを発つ事になっているから、コイツは一度眠らせて馬車で運…」
私はザブド殿下の言葉を全て聞くことなく、鳩尾に思い切り拳を入れた。
そのまま倒れ込むザブド殿下をその場へ適当に寝かせ、すぐさま獣人へと声を掛ける。
『どこを怪我しているの!?治療魔法は得意じゃないんだけど…動ける位には回復させられると思うわ!』
すると獣人は目を見開き、威嚇するのを止めた。
『お前、俺の言葉が分かるのか?』
『分かるわ。今は時間がないの!治療して鎖を外すから!』
私が急いで駆け寄ると、獣人は再び牙をむく。
『近付くな!お前も人間だろう!信用出来ない!』
まぁ、そりゃそうだろうな。
そう思いながら、私はドレスの胸元をグッと下げ、左胸を晒した。
左胸を晒すのは、獣人が相手に敵意が無い事を表す行動。
獣人の中でも戦うのは男性だけだから、本当なら男性しかやらないんだけど…今は緊急自体なので仕方無い!
獣人は驚いて固まって居たので、私はその隙に近付きすぐに傷に手を当てた。
淡い光に包まれた傷口が塞がったのを確認すると、見て分かる箇所を次々治療していく。
ある程度治して、
『他に傷はある!?』
と訊ねると、獣人は首を横に振った。
『じゃあ、鎖を外すから。外れたらテントの裏から逃げて。貴方なら見つかったとしても逃げ切れるでしょう?』
私は鎖が繋がった枷を髪を留めていたピンで開錠すると、獣人を立たせて他に怪我が無いか確認する。
『痛むところはもう無いわね?』
『…無い。』
『よし。それならもう行って!早くしないと兵士が来るわ!』
『…』
私がそう言うと、獣人は何故かおもむろに私を肩に抱え、そのままテントを飛び出した。
は!?
何で!?
『ちょ、ちょっとちょっと!私はいいのよ!!降ろして!!』
そう言って獣人の肩を叩いてみるも、ビクともしない。
む、胸!とにかく胸をしまわねば!
流石の私でも誰かに見られたらマズイでしょ!
揺れる肩の上で必死にドレスを上げようとしているうちに、獣人はあっという間にテントから遠ざかり、かなりの距離を移動していた。
しばらくして獣人は走るのを止めると、私をそっと地面に降ろす。
しかしそこは見たことも無いような深い森の中で、私は胸を気にしてさっさと獣人から離れなかった事を後悔した。
最悪だわ…
ここどこだ。
眉を下げてキョロキョロと辺りを見渡していると、獣人は私の顔を覗き込む。
『俺はマグリ。お前は?』
『アルマだけど…そんな事よりここどこ?こんな森の奥まで連れて来られても困るんだけど!帰れないじゃない!』
魔法が使えるって言ったって万能じゃないんだぞ!
転移なんて便利な魔法もないし、方角位なら分かるけど、後は自力で帰らなきゃならないのに!
私がむくれながら文句を言うと、マグリは無表情で私を見た。
『まだ帰さない。もっとお前と話したいから。』